第4話:14年後の敵、いま手なずける
要塞の建設が着々と進む中、ベルシュタイン領に衝撃的なニュースが飛び込んできた。
隣国ガーネット帝国の第四皇子、ギルバート・フォン・ガーネット。
「呪われた子」として疎まれ、権力争いに敗れた彼が、事実上の追放として我が領へ「留学」してくることになったのだ。
(……来たわね。未来の『鉄血公』。私を広場で処刑する、最凶のラスボス!)
迎賓館の馬車から降りてきたのは、私より4歳年上の、銀髪の少年だった。
冷え切った瞳、周囲を拒絶するような鋭いオーラ。
だが、その服の袖口は綻び、表情には隠しきれない飢えと孤独が張り付いている。
父上を含め、周囲の家臣たちは困惑していた。
「あんな呪われた皇子、関わっても損をするだけだ。適当にもてなして、中途半端な距離を置いておけばいい」
それが、ベルシュタイン家の総意だった。
だが、私の考えは違った。
(中途半端な距離? 一番ダメなやつよ、それ!)
孫氏は言っていた。「確信があるなら、中途半端ではダメ」だと。
もし彼が将来、皇帝になる確信があるのなら。そして、彼が敵になるのがわかっているのなら。
対策は二つに一つ。「今、この場で消す」か。「今、この場で世界一の味方にする」か。
「私は後者に、全額ベット(賭ける)するわ!」
私はアンナを呼びつけ、これまでに稼いだ資産のさらに一部を引き出させた。
「アンナ、今すぐ最高級の料理人と、王都で一番の家庭教師を雇って。それから、彼に贈るための魔導書を山ほど買い占めてちょうだい。予算は……そうね、『上限なし』よ!」
「お、お嬢様!? あの方は敵国の、しかも追放された皇子ですよ? 何もそこまで……」
「いいえ。中途半端な親切は、相手の自尊心を傷つけるだけ。やるなら、彼が一生この恩を忘れられないほど、徹底的に甘やかし……いえ、投資するのよ!」
私は単身、ギルバート皇子が押し込められた離れの部屋へ突撃した。
扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきた6歳の私を、少年は冷たい目で見下ろした。
「……何だ、お前は。僕を嘲笑いに来たのか?」
「いいえ! あなたに投資しに来ましたわ、ギルバート様!」
私は持ってきた山のようなカタログと、最高級のスイーツをテーブルに広げた。
「あなたは将来、素晴らしい皇帝になります。私はそう確信しています。だから、今からあなたに私の全リソースを注ぎ込みます。食べたいもの、学びたいこと、欲しい武器……すべて私に言いなさい。私が世界で一番のパトロンになってあげますわ!」
「……狂っているのか? 僕は捨てられた皇子だぞ。投資したって、何も返せない」
「返さなくて結構です。私が欲しいのは、14年後のあなたの『友情』だけ。いいですか、ギルバート様。私は中途半端な付き合いは嫌いなんです。やるなら、あなたを世界で一番幸せな皇子にして差し上げますわ!」
それからの日々、私は「教育」と「環境」という名の集中投下を開始した。
彼が剣術を学びたいと言えば大陸一の騎士を呼び、彼が孤独だと思えば私が毎日彼の部屋に転がり込んで、前世のビジネス理論を「昔話」として聞かせた。
最初は「……うるさい幼女だ」と顔を背けていたギルバートだったが、毎日毎日、一切の計算抜き(に見える)で自分に全てを賭けてくる私に、少しずつ毒気を抜かれていった。
「リーゼロッテ……。なぜ、そこまで僕に賭けるんだ? 僕は、君の家を滅ぼすかもしれない敵国の人間だぞ」
ある夜、月明かりの下で彼はポツリと漏らした。
私は彼の目を見て、ニヤリと笑った。
「確信があるからですわ。あなたは、自分を信じてくれた人を裏切るような、中途半端な男じゃないって。……それに、私を処刑するより、私と一緒に世界を動かす方が、ずっとエキサイティングだと思いません?」
「……ふ。君には勝てないな」
彼の瞳に宿っていた冷たい氷が、少しだけ溶けた。
好感度、完スト。いや、これはもはや「恩義」という名の巨大な債権だ。
(よし。これで14年後の侵略フラグは、完全にへし折ったわ……!)
中途半端に敵視せず、中途半端に同情せず。
圧倒的な投資で「絶対的な味方」を作り出す。
これが、リーゼロッテ流の最強の安全保障戦略だった。
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