第6話 柄掛山の季仙坊
小説・宵のハコブネに登場する妖怪たちと作者・朔蔵日ねこが酒を酌み交わす「ハコブネ噺」にようこそ。酒乱である朔蔵日ねこが、心を込めて酒と肴をチョイスして、妖怪たちをおもてなしいたします。
十一月六日
【本日のお客様】 柄掛山の季仙坊 様
【本日の酒】 酔鯨 特別純米酒(酔鯨酒造)
上喜元 純米大吟醸 米ラベル(酒田酒造)
新政No.6 X-type(新政酒造)
荷札酒 黄水仙 純米大吟醸 (加茂錦酒造)
【本日の肴】 焼き鳥
本日は、柄掛山の季仙坊さんと呑みに来ました。ねこのお気に入りで、時々お邪魔しているお洒落焼き鳥屋さんです。ちょっと照明が暗めでジャズがかかっていて、雰囲気抜群なんです。天狗は人間に化けることもできるんですよ。長いお鼻と赤いお顔は今日は拝見できませんが、季仙坊さんのイケオジっぷりが凄いです。日本酒にして正解です。カウンターに並んで座っちゃいますよ。今日は渋いお酒が呑めそうですね。妖怪呑みでお店に来るのは初めてです。宮乃介さんとはお祭り呑みしましたけど。そわそわしちゃいます。ま、酔っ払ったら関係ないんですけどね。
ねこ:こんばんは、季仙坊さん。洋装も素敵ですね。
季仙坊:ふん。来たか、蟒蛇が。
ねこ:えー。季仙坊さんだって呑むでしょう。なんてったって天狗ですし。
季仙坊:天狗と競えるほどの酒豪かどうか、見届けてやろうな。
ねこ:うわぁ。頑張ります。(怖い。)
季仙坊:最初から日本酒なのだな。まずは酔鯨か。
ねこ:はい。今日のお酒はお店にマリアージュをお願いしていますので、お料理とともにどうぞ。わーい、ねこの大好きな梅水晶が来ましたね。もう、ねこはこれだけでも最後までイケます。
季仙坊:乾杯をするのか。
ねこ:はい、もちろんです。それではー。
季仙坊・ねこ:乾杯。
季仙坊:うむ。実に癖のない。水のようだ。
ねこ:そうですねー。酔鯨はとてもキャッチ―なお酒ですよね。季仙坊さんはどんなお酒が好きですか?
季仙坊:妖怪は昔から濁りをよく呑む。白濁した様子が魑魅魍魎の混沌に通ずるのだろうな。
ねこ:なるほどー。そういえば、桃泉堂の承和昌寳さんも濁り酒を呑んでいましたね。
季仙坊:式神に与える酒としては妥当だろう。昔は自家醸造した闇酒も出回っていたしな。
カウンターの一段高い所に置かれたお皿に、串が並べられます。
ねこ:さて、ねぎま、せせり、砂肝が来ましたよー。お酒も次に行きますか。
季仙坊:そんなに飛ばして大丈夫か。
ねこ:スタートダッシュです。次のお酒は上喜元ですよ。
季仙坊:おお。少し個性を出してきたな。
ねこ:ええ、ええ。ビタースウィートですねぇ。
季仙坊:串がなかなか旨いな。焼き加減が絶妙だ。
ねこ:普段、焼き鳥とか食べます?
季仙坊:鶏は最近になってからだな。雉や鶉や鴨のような鳥を食べたりもしていた。青天狗が鴉を使役している手前、あまり大っぴらには食べんがな。
ねこ:そうですね。檜扇坊さんは烏天狗ですもんね。檜扇坊さんとは仲良しなんですか。
季仙坊:長い付き合いだからな。あいつはまだ若くて血気盛んだ。憎まれ口も叩くが、悪い奴じゃない。
ねこ:そうですか。檜扇坊さんはやっぱりあんまり宝珠のことが好きじゃなさそうですけど。
季仙坊:そこは主義の違いだろう。
ねこ:ふーん……。あっ、この上喜元のビタースウィートが、砂肝のクセとよく合いますね。
季仙坊:それがマリアージュというのだろう。
ねこ:(なんと。妖怪なのにお洒落な。)
季仙坊:野菜串も出るのか。蕃茄だな。
ねこ:このタイミングのトマト!爽やかでいいですね!
なんと、店長から新政No.6をグラスでサービスいただきました‼やったー‼常連になった甲斐があります。そしてここで、白レバームース登場。一気にお洒落ムードに。
ねこ:あー。No.6、美味しいですねー。これは日本酒のシャンパンなのでは?
季仙坊:言っていることが支離滅裂だぞ。しかし、白レバーとはよく合うな。
ねこ:ですね、ですね。ねこはいい感じに酔っ払ってきましたよ。
季仙坊:二合半も呑めばそうだろう。
ねこ:はい。でも、今日はこのお店に、ねこの一番好きな黄水仙ってお酒があるので、締めはそれにしましょう。
季仙坊:ほう。新潟の酒だな。
ねこ:ええ。ちょっと甘口なんですが、微発泡で爽やかなんです。
季仙坊:うん。なかなか旨いな。
ねこ:お酒も進んできましたので、ちょっとお伺いしたいんですが、季仙坊さんは本気で宝珠を抹殺しようとしてたんですか?
季仙坊:なかなか切り込んだ質問だな。ここは歴史上、些か難しいことではあるんだがな。当初は本当に、早いうちに宝珠の芽を摘もうと思っていたのだ。
ねこ:そうなんですね。
季仙坊:しかし、実際に宝珠を目の当たりにしたら、つい面白くなってしまってな。悪い癖だ。
ねこ:でも、檜扇坊さんもそれを見越していた感がありますよね。
季仙坊:そうだな。やはり、未知数というのは非常に興味深い。あの時はひどい火傷を負わされたが、それでも宝珠の力の開花に立ち会えたことは、悪くはなかったな。
ねこ:そうでしたかー。瑞貴は作者から見てもとても優等生なので、評価していただいてありがたいです。
ハラミとふりそでが来て、お料理は打ち止めです。ねこはだいぶお腹一杯になってきました。
季仙坊:このハラミは歯ごたえがとても良いな。
ねこ:ふりそでも柔らかくて、柚子胡椒で食べると絶品です。
季仙坊:お前は締めに飯や麺を食べないのか。
ねこ:ええ。酒呑みですので。って、半蔵濠の宮乃介さんにも同じことを言った覚えがあります。でも、呑んだ後は甘いものが食べたくなりますね。
季仙坊:邪道だな。
ねこ:えー……。(心外。)
季仙坊:しかし、今日は良い酒だった。
ねこ:そう言っていただければなによりです。ねこはもう、お腹一杯です。
季仙坊:そうか。じゃ、もう一軒、酒だけで行くか。
ねこ:え゛っ。二軒目ですか。
季仙坊:なんだ、もう降参か。
ねこ:いやっ。そんなことは……。(でも、明日仕事なんだよな……。)
季仙坊:蟒蛇の本領を、とくと見せてもらおう。
ねこ:わ、分かりました。ちょっと、あの、コンビニでアイスだけ買って食べてからでもいいですか。
季仙坊:邪道だが、仕方あるまい。
ねこ:ありがとうございます。(ひー。明日、遅刻しないといいな。)
蟒蛇と言われる以上、誘われたお酒は断りませんよ。季仙坊さん、まだ全然酔っ払ってないなー。これは朝までコースかもしれませんね。
次回も素敵なゲストをお迎えして、「ハコブネ噺」をお届けしたいと思います。ねこは今日、いつも以上に深酒ですが、死なない程度に頑張ります。それでは、またお会いしましょう。
※カクヨムでも同じ作品を掲載しています。




