第5話 一つ目小僧の一輝
小説・宵のハコブネに登場する妖怪たちと作者・朔蔵日ねこが酒を酌み交わす「ハコブネ噺」にようこそ。酒乱である朔蔵日ねこが、心を込めて酒と肴をチョイスして、妖怪たちをおもてなしいたします。
八月二十五日
【本日のお客様】 一つ目小僧の一輝 様
【本日の酒】 純米にごり酒 扶桑鶴(桑原酒場)
【本日の肴】 江戸前鮨 饅頭と寒天菓子
本日のお客様は、一つ目小僧の一輝様です。小僧と言いまして見た目は子どもではございますが、もちろん長い時代を生きていらっしゃるので、晩酌は問題ないのですよ。一つ目小僧と言えば、江戸時代の麻布の武家屋敷のエピソードが有名ですね。床の間の掛け軸を巻き上げたり下ろしたりしている子どもを注意したら「黙っていよ」と言って振り返ったのが一つ目だったとか。同じ家ではそれ以前にもお菓子を勝手に食べた子どもを叱ったら、やはり一つ目が「黙っていよ」と答えたというような逸話です。これ以外にも一つ目小僧の伝承は色々ありますが、今日は江戸を偲んで、江戸前鮨と和菓子をご用意しました。
一輝:お邪魔します。
ねこ:どうぞどうぞ。金髪、よくお似合いですね。
一輝:あっ……どうも。
ねこ:本日はお鮨ですのでねー。ねこはお吸い物作っただけで、楽させていただきました。
一輝:わぁ。江戸を思い出すな。
ねこ:江戸では鮨はファストフードですもんね。天ぷらとか蕎麦とかも考えたんですが、晩酌にはやはり鮨かな、と。店に握りを食べに行っても良かったんですが、一輝さんと一緒だと、職質か補導かされそうなので。
一輝:高級カウンター鮨は江戸の屋台の鮨とは違うから……。
ねこ:あっ、まぁ、そうですよね。で、今日のお酒は濁りにしてみました。ささ、どうぞ。濁り具合がよく分かるように、ガラスのお猪口でいただきましょう。
一輝:すごく濁ってる!真っ白だ。
ねこ:ええ。それでは。
一輝・ねこ:かんぱーい。
一輝:まろやかな中に、少し弾ける感じが美味しい。
ねこ:んー。これはお鮨にも合いそうです。そもそも、お米同士だから相性はいいですよね。
一輝:江戸の鮨といえば、マグロ、煮アナゴ、こはだに卵。うまかったなぁ。
ねこ:うんうん。どれもありますよ。さぁ召し上がれ(自分で作ってないけど)。
一輝:うん。うまい。おれはアナゴが好きだな。
ねこ:あら。ねこはアナゴあんまり得意じゃないです。そもそもお鮨がそんなに得意ではないんですが、たまに食べたくなる時があります。
一輝:へぇ。そんなに好きじゃないの?
ねこ:今日はこのために鮨の気分を盛り上げてきましたので。濁り酒もありますし。
一輝:そうなんだ……。
ねこ:あっ、アナゴ、食べます?
一輝:えっ、いいの?
ねこ:どうぞどうぞー。ねこはお酒があれば十分ですー。
一輝:蟒蛇……。
ねこ:えっ?
一輝:いや、なんでも……。
ねこ:そういえば、壱流くんとは今も仲良しなんですか?
一輝:仲良しっていうか。色々、教えてもらってる、かな。
ねこ:……うーん。ちょっとフクザツそう。
一輝:あっ、いや、壱流さん、時々テンション高すぎて。
ねこ:まぁ、そうでしょうね。インターネットのお勉強されてるんです?
一輝:検索の要領とかはだいぶ。あと、ゲームとかも、一緒に。
ねこ:えっ、ゲームしてるんですか。何の?
一輝:壱流さんの家では、『深夜廻』とか……。
ねこ:深夜廻!PS4のホラー!ねこも大好きです!
一輝:『8番出口』もやったけど。
ねこ:いいなぁ!ねこも『8番出口』やりたいんですけど、一人でやるのはちょっとなぁって思ってまして。ホラー好きなんですね。
一輝:壱流さんに勧められて。存在自体がホラーだからって……。
ねこ:いや、言い方。
一輝:でも、パソコンとかスマホって、すごいよね。色んなことができそう。
ねこ:どんどんやってくださいよ。妖怪だって、好きなことを発信すればいいんです。いちかさんだってあんな好き勝手してるんですから。
一輝:あー……。あのサイト、見たけど、おれにはよく分からなかったな。
ねこ:いや、ああいう、ぶっ飛んで突き抜けた感じが、いいんじゃないですか。
一輝:そうなのかな……。おれはそういうの、自信なくて……。
ねこ:いや、今の一輝さんはビジュもいけてるし、好きなことやって、一発当ててくださいよ。
一輝:……壱流さんとも相談して……。
ねこ:ふふ。そうですね。お鮨食べ終わったら、お菓子も食べましょう。寛永堂の寛永傳と大納言清澄です。こちらは京都のお菓子ですが、創業は江戸時代まで遡るんですって。
一輝:和菓子と日本酒って……。合うんだね。
ねこ:でしょう?特にあんこのお菓子は濁り酒と相性いいと思うんです。
一輝:ちょっと乳酸菌飲料みたいだし、子どものおやつ的な……?
ねこ:そうそう。あ、これ、お土産用も買ってあるので、三久さんにもお持ち帰りくださいね。
一輝:あ、喜ぶと思う。
ねこ:三久さん、甘いもの好きですか?
一輝:うん。大好き。今はちょっと、洋菓子がマイブームみたいだけど。
ねこ:そうなんですか。
一輝:壱流さんのお母さんの占いの館で占い師見習いをしてて。占い以外にも色々教えてもらってるみたい。
ねこ:一輝さんと三久さんって、普段はどんな感じなんですか?きょうだいみたい?
一輝:歳の離れた姉さんって感じかな。そもそも、三つ面乳母は一つ目小僧の面倒を見る妖怪だから。お節介だなって思うこともあるけど、おれはどっちかっていうとネガティブだから、三久姉くらい強い方が頼もしいし。
ねこ:「どっちかっていうと」……⁉
一輝:えっ……。
ねこ:三久さんにしろ壱流くんにしろ、そういう強い人に引っ張ってってもらう方が、一輝さんはいいのかもしれないですね。
一輝:うん……。そうかも。
ねこ:いいと思いますよ。でも、まだこれから一輝さんは化けるかもしれないですしね。
一輝:えっ、いやぁ……。
ねこ:この時代までしぶとく生きて、まだ新しいことを勉強しようって心意気がある妖怪は、きっと成功します。
一輝:そ…そうかなぁ。
ねこ:はい。
一輝:じゃ、頑張ってみる。あんまり遅く帰ると、警察とかに見咎められても厄介だから、そろそろ帰ろうかな。
ねこ:そうですね。お土産、忘れずに。お気をつけてお帰りくださいねー。
一輝:うん。今日は懐かしくて美味しかった。ありがとう。
ねこ:はい。次回は三久さんもご一緒にどうぞー。
今宵は早めのお開きです。一輝さんには面倒見のいい壱流くんがついていてくれるので安心です。三久さんにお土産喜んでいただけたらいいんですけど。
次回も素敵なゲストをお迎えして、「ハコブネ噺」をお届けしたいと思います。いつか、一輝さんが素敵なサイトを開設してくれるのを楽しみに待ちましょう。
※カクヨムでも同じ作品を掲載しています。




