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ハコブネ噺  作者: 朔蔵日ねこ


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第3話 瀬尾稲荷の結

 小説・宵のハコブネに登場する妖怪たちと作者・朔蔵日ねこが酒を酌み交わす「ハコブネ噺」にようこそ。酒乱である朔蔵日ねこが、心を込めて酒と肴をチョイスして、妖怪たちをおもてなしいたします。


七月三十一日

【本日のお客様】 瀬尾稲荷の結 様

【本日の酒】 英勲 純米大吟醸 氷零貯蔵(齊藤酒造)

【本日の肴】 鰻と油揚げ


 本日のお客様は、秩父は瀬尾稲荷の化け狐でいらっしゃる結さんにお越しいただきました。土用の丑の日ということで、鰻をご用意しております。そして、稲荷の狐様でいらっしゃるので、油揚げの葱味噌マヨ焼きを。ああ、文字にしただけで日本酒が呑みたくなります。今日は京都から入手した日本酒がありますので、お家で女子会です。


結:あの、なぜ私が呼ばれたのでしょうか……。


不安そう。


ねこ:覚悟の章までに出てくる妖怪の中で、結さんが一番楽しくお酒を呑めそうだったので。雪絵さんは人魔相殺じんまそうさいして今はもう人間ですからお呼びできませんし、管狐と呑むのもちょっとかまびすしいかと。かと言って、浄縁沼じょうえんぬまみずちさんをお呼びしたら、ねこが喰べられてしまうかもしれませんしね。

結:そうですね(真顔)。

ねこ:今日は、結さんのデフォの化け姿でいらしていただいております。

結:あ、そうでした。本編ではまだ翼さんに化けただけでしたが、指定がなければこの姿です。

ねこ:可愛らしいんですよ、これが。

結:あっ、いえ、すみません。ありがとうございます。狐は、美しく化けないと叱られますので。私の想像できる一番美しい姿に化けようと思っているんですが……。

ねこ:十分素敵ですよ。早くお嫁入りできるといいですね。

結:えっ、あっ、そんな……。

ねこ:さて、準備ができましたよ。いただきましょうか。鰻は蒲焼きと白焼きの二種ご用意しました。油揚げは葱味噌マヨ焼きです。七味もかけるとさらにいいかもしれないですね。女子会ですし、お野菜も準備しております。トマトのたれ漬けとつるむらさきのおひたしです。

結:素敵ですね。美味しそうです。

ねこ:お酒は、京都の英勲えいくんです。良く冷やしておりますので、ささ、どうぞ。

結・ねこ:かんぱーい。

結:あ、すっきりですね。

ねこ:ええ。癖のないお味でしょう。伏見のお酒ですよ。伏見といえば、伏見稲荷大社ですね。

結:伏見稲荷大社は稲荷の総本宮ですね。あの千本鳥居で人を惑わせてみたいものです。

ねこ:なるほど、結さんでもそう思われますか。

結:ふふふ。悪戯はいたしませんよ。ひとときの夢をお楽しみいただければ。

ねこ:ああ。それはたいへんいい夢でしょうね……。ところで、鰻は蒲焼きと白焼きはどちらがお好きですか?

結:私は蒲焼きですね。甘じょっぱいたれが好きです。この鰻は肉厚でとてもふっくらしていますね。あ、この油揚げもとても美味しいです。味噌マヨネーズって、いいですね。

ねこ:日本酒の肴としてはどちらもかなり秀逸です。夏酒のフレッシュな感じには、このトマトも合いますよ。ポン酢と蜂蜜で漬けてるんです。

結:へぇ。ああ、甘くてさわやか。果物みたいです。確かに、夏の晩酌ですね。

ねこ:結さんはけっこうお酒は呑まれる?

結:母は、ねこさんと同じくらい蟒蛇うわばみですが、私はそれほどでも。

ねこ:いえいえ、何をおっしゃいますか。すぐにグラスが空きますし、顔色一つ変わりませんよね。

結:あんまり顔には出ないタイプで……。ちゃんと酔っ払ってます。

ねこ:雪絵さんも呑まれるんですね。

結:母はとてもお酒が強いんです。そして、狐だった頃には、それはそれは美しく化けておりましたので、数々の男性の人生を狂わせていたとか……。

ねこ:おお。そうなんですね。

結:でも、人魔相殺した時に、あの姿に落ち着いたんです。

ねこ:あれはあれで、磨けば光る逸材という感じですが……。人魔相殺の時には、化ける姿を選べるということですか。

結:はい。

ねこ:では、もっと若くてぴちぴちの美女の姿で永らえることもできたわけですね。

結:そうです。でも、母は言ってました。美女は疲れる、普通がちょうどいい、って。

ねこ:うーん……。美女を経験した化け狐ならではのお言葉ですね。深い。

結:ええ。ですから、母は私にも、あまりきらびやかな化け姿は勧めてきません。花魁みたいなあでやかな化け姿にも憧れますが、私には似合わないでしょうし。

ねこ:(花魁が憧れなんだ……。)結さんなら、平安貴族みたいな十二単の美女とかでもいいかもしれませんね。

結:あ……ありがとうございます。それも素敵ですね。

ねこ:でも、今のままでも十分素敵ですよ。清楚で可愛らしい。

結:もったいないお褒めの言葉をありがとうございます。

ねこ:そういえば、管狐は、結さんの弟と妹に当たるんですよね。

結:タカネとフウロですね。はい。昔は管狐も増えすぎて、よく人間を困らせていたんですが、妖力がだんだん弱まってからは、管狐も増えなくなってしまって。タカネとフウロは本当に、末っ子だったこともあってとても甘やかされて育ったんです。

ねこ:でもその分、ずる賢くなく、素直で屈託のない良い子たちですね。

結:のんびり屋さんで、少し心配です。まぁ、私もあまり人のことは言えないんですが。

ねこ:いえいえ。皆さん素敵なご家族ですね。

結:ありがとうございます。

ねこ:結さん、今日はどうされますか?もう夜も遅いですし、秩父までお帰りになるのは大変でしょう。

結:ええ、まぁ、そうなんですけど……。

ねこ:じゃ、うちに泊まって行ったらいかがです?ソファベッドもありますし。私の隣でお嫌でなければベッドでも。

結:えっ、いいんですか?

ねこ:でも、眠くなるまでは恋バナです。

結:お聞かせできるような華やかな恋バナはありませんけど。ねこさんにはあるんですか。

ねこ:あら。それ聞きます?まぁ、長話になりますので。

結:本当ですか?聞きたい!

ねこ:えっ……(いや、食いつき方よ)。まぁ、聞きたければ、話しますけど……。

結:それは楽しみです。ご飯もお酒も美味しかったし、夜は長いので、よろしくお願いします。

ねこ:おっと。そういう感じですか。まぁ、ねこは明日、仕事がお休みですので、夜更けのガールズトークでもいたしますかね。

結:はい。嬉しいです。


 期せずして、結さんとパジャマパーティーをすることになりまして。この分だと、朝まで語り明かすことになるかもしれませんね。結さんはお酒が入ると思いのほか饒舌で、さらに可愛らしい感じです。では、夏の夜をもう少し楽しみますね。

 次回も素敵なゲストをお迎えして、「ハコブネ噺」をお届けしたいと思います。今日は土用の丑ですから、皆様も精をつけて、これからの夏本番に備えてくださいね。

※カクヨムでも同じ作品を掲載しています。

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