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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第二章

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第五十一話・夜会の準備

 パシェン様とのお茶会から五日後、とうとう私の夜会デビューの日がやってきた。


 公爵令嬢の頃の私は『能無し』の『欠陥品』であることを隠すために、夜会へいったこともなかった。そもそもネグレクトで教育を放棄されていたので、夜会に出れるはずもなかったのだ。


 王家に養子入りをして、日々の勉強をこなしている中で、そろそろ夜会に出てもよい、と正妃様が判断してくださった。


 元々勉強が苦ではない性質だったのも相まって、騎士団で培った体力と合わせて日々の勉強に食いついていたが、それが想像以上にいい意味で評価されていると教えてもらった。


 今の私なら、王族として夜会に出ても粗相はしないと判断されたのだ。


 同時に、聖女であり王女である私のお披露目をあまり遅くするのもどうなのか、という判断もあったのだろう。


 なにしろ私はこの世界での成人年齢の十六歳の誕生を先日迎えている。


 成人前、早ければ十歳前後でこの世界の貴族は夜会に足を運ぶ。


 それを踏まえると、十六歳の成人まで両親が断罪された一度しか夜会に出席したことのない私の異質さがわかるというものだ。


 その日、私は朝からいつもに増して大忙しだった。


 せっかくの王女のお披露目に一つの不備もあってはならないと、城中の人たちがやる気を見せてくれたからである。


 朝からしっかりと湯船につかって全身をメイドに磨かれ綺麗になって、お風呂上りにはいつも以上に丁寧に肌を保湿して、これまたいつもよりも丁寧に髪をタオルドライし風魔法が得意なメイドが髪を乾かしてくれた。


 この世界では、一人一属性は持っている魔法は生活に根差したものだ。


 風魔法が得意なものは私にしてくれるように髪を風魔法で乾かすし、火の魔法が得意なものは厨房で火おこしを担当していたり、水魔法が得意なものは飲み水をきれいに保つために働いていたり、土魔法が得意なものは農業に従事していたりする。


 もちろん騎士であれば魔物討伐に魔法を生かしたりもするのだが、それ以上に魔法は生活の一部として欠かせないものである。


 そんな余談はさておいて、風魔法で髪を乾かした後は、一人では到底着れないような豪奢なドレスに袖を通す。


 普段、私はあまりコルセットを使わない。それは、貧相な食事を与えられ続けて、そこまで体が豊かではないというのも理由の一つなのだが、今回ばかりはそうはいかなかった。


 慣れないコルセットは腹部が圧迫されて少し苦しいし、割と無理やり周囲の肉を寄せて作った胸の谷間には違和感が残る。


 とはいっても、貴族の令嬢にとって本来これが普通の姿だ。今までは慣れない環境で奮闘する私に配慮してもらって、色々とお目こぼしを頂いていただけである。


(食事がしっかりしているから、大分身体に影響も出てきたのよね)


 鏡に映る自分を眺めると、鏡の中の私の顔はずいぶんと血色がよくなっているし、すこし痩せすぎだなぁと自分でも自覚のあった身体は、本当に少しだけふっくらとした。


 この場合のふっくらは太っているとかではなく、健康的になったという意味である。


 胸元もちょっとは豊かになったと思う。というか思いたい。


 今日は寄せているのも大きいかもしれないけれど……!


(パシェン様は巨乳派かしら、貧乳派かしら)


 どうでもいいようでいて、割と切実な問題だ。


 巨乳になるのはいまからだとちょっと無理か知れないので、普通くらいが好きだといいなぁと頭の片隅で考える。


 ドレッサーの前のイスに座って思考を飛ばしている間にも、メイドたちは着々と私の準備を進めていく。


 私の仕事は微動だにせず座っていることだと心得ているので、口を開くこともなく黙って背筋を伸ばし続ける。


 頬に白粉を叩かれ、唇に口紅を塗られる。悪趣味で派手にならないように注意を払って、アイシャドウやチークが入れられていく。


 正妃様から「リーベは元々可愛らしいのですから、あまり化粧を濃くせず元の愛らしさを武器にしましょう」といわれているのだ。


 顔立ちを褒められて結構嬉しかった。


 顔に色々と塗られていく間に髪の毛も複雑に結い上げられていくのが感覚でわかる。


 普段だって朝に髪をセットしてもらうけれど、いつもとは比較にならないほど手が込んでいる。ここまで気合を入れてもらえるのは、ただただありがたい。


 そうして人形として背筋を伸ばして微動だにせず座り続けること、早数時間。ようやく夜会に行くための準備が完成した。


「リーベ様、ご準備が整いました」


 メイドに恭しく声をかけられて、私は途中から閉じていた目を開いた。


 正面の鏡には、はっとするほどの美少女が映っている。顔立ちは確かに私の面影があるのに、本当に別人のようだ。


「すごいわ。これが私なのね」

「リーベ様はとても愛らしい顔立ちをされていますから、良さを殺さないようにしつつ全力で仕上げさせていただきました!」


 私付きのメイドとして、私が王宮に引っ越してからずっと働いてくれているメイドの言葉に、私はふわりと笑った。


 寝る前に毎日練習している王女スマイルだ。


「ありがとう、貴方たちのおかげだわ」

「お褒め頂きありがとうございます」


 深々と頭を下げるメイドとは、当然だが主人と傍仕えの距離感がある。この距離はきっと埋まることはないのだろうと、時々寂しく思う。


 元々友人はアミ一人だったし、アミと出会ったのも男装して騎士になるために駆けまわっていた頃に偶然、という形だったからそんなに長い付き合いではないが、身近にもっと心許せる存在が欲しいと思ってしまうのは、生活に余裕が出たが故の心の贅沢だろう。


(アミが常に傍に居てくれたらいいのに)


 そんなないものねだりをして、内心でため息を吐いていることを表に出さないようにしつつ、私はメイドをもう一度労った。


 さて、夜会まであと少しの時間がある。窮屈な格好ではあるが、気持ちはリラックスして、時間がたつのをまとう。

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