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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第二章

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第四十八話・突然の問題発言

 突然選択肢に「殴る」を入れてきたデュールお義兄様に、思わず私はデュールお義兄様の顔をガン見した。


 私の素っ頓狂な声と反応がよほど面白かったのか、デュールお義兄様はけらけらと笑いだす。


「はっはっは! まあ、冗談だ。男同士の兄弟なら、拳でぶつかるといいって本で読んだだけだ」

「はぁ……。お兄さんは拳でぶつかったんですか?」


 もしそうなら私の知らない所で王宮での伝説になっていそうだが。


 少しの好奇心を覗かせて私が尋ねると、デュールお義兄様は肩を竦めた。


「俺はやったことないな。俺にも弟がいるが……俺と違って出来の良い弟だ。殴るなんてとんでもない」


 そう告げるデュールお義兄様の金色の目は優しくて、エクセンお義兄様のことを大切に思っているのだと如実に告げている。


「弟さんのこと大切に思ってるんですね」

「あ~、喋りすぎたな。酔いが回ったか」


 ガリガリと乱雑な仕草で頭を掻く姿は、到底王族とは思えない。でも、この人は確かに王族だ。まとう雰囲気も態度もとてもそうは思えないけれど。


「僕、お兄さんのご家族の話、もっと聞きたいです!」

「あ? なにが面白いんだそんなん」

「面白いかどうかじゃなくて、興味があります!」


 元気よく告げると、デュールお義兄様は少し考え込んでから「仕方ねぇな」と口にした。


 やった、まだ王族の方々の家族関係はざっくりとしか把握できていないから、話を聞けるのは単純に嬉しい。


「俺には母親が二人いるんだが」

「二人! 特殊ですね」


 知っている。

 第一王子デュールお義兄様を生んだ正妃様と、第二王子エクセンお義兄様を生んだ第二王妃だ。


 デュールお義兄様とエクセンお義兄様はいわゆる腹違いの兄弟というやつだ。


 正妃様は穏やかな方だと有名だが、一方で第二王妃様はややヒステリックだと耳に挟んだことがある。


 第二王子であるエクセンお義兄様が王太子に選ばれていることで、第二王妃様はやや高慢になっているとも。


 陛下は正妃様を溺愛されているから、第二王妃様にとってそれも面白くはないんだろうな、と予想がつく。


 もし。もし、お義兄様が私を正室にして他の女性を側室に娶ったら。


 私だったら、きっと泣いてしまう。毎日泣いて、どうして、とお義兄様を責めるだろう。


 王族とはいえ、正妃様と陛下は恋愛結婚だと聞いている。


 元々陛下の婚約者だったのが第二王妃様で、陛下が正妃様にベタ惚れしたことで婚約が破談になりかけたが、面子を保つために第二王妃として迎え入れられた、とも。


 そこには正妃様がエクセンお義兄様のように三属性の魔力適性を持っており、これまた莫大な魔力を保持していたのも大きいと聞いている。


 第二王妃様は一属性の魔力適正しか持っておらず、魔力量も普通だった。


 それもあって、正妃様が陛下との大恋愛の末、王妃に収まったのだというのは、王宮で暮らしだしてから噂好きのメイドに聞いたことだ。


 本当に、この国は魔力適正と魔力量が人生を左右している。前世では考えられない価値観の世界だ。


 少し考え込んだ私の前で、新しいお酒を注文したデュールお義兄様がつまみを口にいれつつ、言葉を紡いだ。


「弟とは母親が違うんだが、弟の母親が、そりゃあ盛大なクソババアでな」

「ああ~、わかります。僕の母親もクソババアでした」

「はっはっは! そりゃいい、クソな母親を持つ者同士、話が弾みそうだぜ」


 デュールお義兄様は結構酔っているのだろう。


 上機嫌に笑いながらそんなことをいうので、私は顔合わせの食事会で一度だけお顔を拝見した第二王妃様の顔を思い浮かべつつ、心のメモ帳に「クソババア、その2」と記載しておく。


「お前のとこのクソババアはどんな感じなんだ」

「え~っと、父親――クソオヤジの悪事を見逃していた連帯責任で今は王都を追放されてます」

「思ったよりヘビーだな?」


 少し驚いたように目を丸くしたデュールお義兄様に「清々しますけどね!」と口にして、残っていたサイダーをぐいと煽る。


「僕も一杯ください!」

「奢ってやるから飯も食え、お前細すぎるぞ」

「じゃあお言葉に甘えて!」


 夜食になってしまうが、小腹は空いていたのでありがたく申し出に甘えることにした。


 摂取したカロリー分、明日勉強を頑張ればきっとチャラになる! そう信じて。


「なににしようかな~。お兄さんのオススメは?」

「グリフォンの唐揚げだ」

「それにします!」


 魔物料理は王宮の食事には並ばないが、こういう場所ではたまにでるのだとクルール様が教えてくれた。


 騎士が討伐した魔物のうち、食用になる魔物を持ち帰って街の飲食店に売ることで経費の一部にしているらしい。


 注文を終えて、再び私はデュールお義兄様に向き直った。新しく届いた樽ジョッキに注がれたお酒を煽っているデュールお義兄様に、私はずっと不思議だったことを尋ねる。


「お酒って美味しいですか? 僕にはいまいちよさがわからなくて」


 前世でもお酒はそんなに嗜まなかった。


 駆け付け一杯、のビールくらいは場の雰囲気を読んで飲んではいたが、のど越しが美味しいと言われても、ピンときていなかった。


「美味いぞ。だが、味以上に現実逃避ができるのが最高だな」

「お兄さんは現実逃避がしたいんですか?」

「まあな。大人には色々あんだよ」


 デュールお義兄様の手が伸びてくる。


 あ、これ頭を撫でられるやつだ、と直感して、咄嗟に私は頭を横に避けた。デュールお義兄様の手が行き場を失って空中で止まる。


「……なんで避ける」

「僕、頭撫でられるの嫌いで」

「ふーん、変なヤツ」


 行き場を失った手でおつまみをつまんで口に放り込んでいる。


 俺は嬉しいけどな、ぽつりと零された台詞にはどこか哀愁が漂っていた。


 デュールお義兄様は、頭を撫でられた経験があまりないのだろうか。


(幼少期から、大変だっただろうからなぁ)


 王太子としての重圧があっただろうし、王太子ではなくなってからは、腫れもの扱いだったことは想像に難くない。


 私は内心でため息を吐きだして、さらに飲み続けるデュールお義兄様を見守ることにした。


 結果、デュールお義兄様はそれから一時間後くらいに綺麗に酔いつぶれて、近くの席でひっそりと見守っていたらしい一般のお客さんに扮した騎士に運ばれていったのだった。

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