第四十一話・罪の糾弾つまりは「ざまぁ」
優雅な音楽が流れる広間に足を踏み入れる。
一気に集まった視線に臆することなく、凛と背を伸ばして、エクセン王子と共にゆっくりと歩く。
人波が割れるように道を開いていくのはちょっと面白い。
国王陛下と王妃様は一段高い場所で豪奢なイスに座してらっしゃった。
お二人の視線もまた、こちらに向く。逃げ出したい気持ちを抑えて、私は優美に微笑んだ。
同時にほうと周囲から感嘆の声が上がる。
「あれがエラスティス公爵家の秘蔵の娘か」
「今まで夜会にも出てこられなかったのは女神の依り代だったからなのね」
「魔力適正と魔力がゼロとの噂があったが、聖女候補と見抜かれたエラスティス公爵は流石だな」
なんだかずいぶんとお父様の都合の良いように曲解されていて面白くない。
恐らく私が女神の依り代の素質があるとわかってから噂をばらまいたのだろう。
そういう工作が得意であろうことは、貴族社会に疎い私ですらわかる。
歩くたびにしゃらしゃらと耳元で音がする。少し長さのあるピアスの音だ。ピアスに慣れていないから、ちょっと気になる。
陛下と王妃様の前まで歩み出ると、エスコートしてくれていたエクセン王子の腕から手を外して、淑女の礼をする。
頭を下げた私に、陛下からお声がかかる。
「リーベ、よく参った。頭を上げるがよい。日々聖女候補として修業に励んでいたと聞いておる。その力、我が国の為に存分に発揮しておくれ」
(聖女としての修行?! 軟禁が?!)
びっくり仰天、まさかの曲解である。曲解というか、お父様の嘘というか。
さすがに頬が引きつりそうになったのを堪えて、許可を得て体制を戻し、私は口を開いた。
「私などが聖女候補など、夢のようでございます」
「よいよい、そう固くなるな。これから我らは親子となるのだ」
陛下のその言葉は、嫁入りではなく養子入りという意味だ。
だが、今度こそ陛下の言葉の意味を曲解した人がしゃしゃり出てきた。
「陛下! 我が娘が王家に迎え入れられるとは、この上ない幸福です」
にこにこと笑いながら出てきたのはお父様。隣にはお母様もいる。お義兄様の姿はない。
さっとそれだけ確認して、私は意識を陛下へと戻した。
陛下は心持ち眉を寄せているように見えた。
「エラスティス公爵、立場をわかっての発言か?」
「はい。私は目に入れても痛くない娘の幸福の為であれば、どんなことでも致します」
(嘘八百!!)
よくもまあそんなにすらすらと嘘を吐けるものだ。ここで私の公爵家での待遇を全部暴露してやりたい。
僅かに肩が揺れたのだろう。落ち着かせるように、エクセン王子が私の背中に手を添えた。
「大丈夫だよ、リーベ」
にこりと微笑んだエクセン王子に初めて呼び捨てにされる。
私はぱちりと瞬きをしたあと、一拍置いて穏やかに微笑み返した。きっと、ここからはエクセン王子の独壇場だ。
そう、思っていたのだけれど。
「この婚約、お待ちいただきたい」
風魔法で声を広間中に声を拡散させながら、そう告げて颯爽と現れたのは、誰でもない、お義兄様だ。
第一騎士団団長として、正式な場に出る際に纏う正装を身に着けたお義兄様が、マントを翻して広間に姿を見せた。
後ろにクルール様とベールをかぶった女性を控えさせたお義兄様の登場に、広間がざわつく。私も思わず驚きの声が漏れた。
「お義兄様……?」
「陛下、私パシェン・エスラティスは、ここに義父の罪状を告発させていただく!」
力強いお義兄様の言葉に、場がいっそうざわついた。
私が思わずエクセン王子を仰ぎ見ると、エクセン王子は実に楽しそうに人の悪い笑みを浮かべている。
「え、エクセン王子……?」
「しぃ、これからがいいところなんだ。一緒に見物しよう」
人差し指を唇に当てて笑う姿は妖艶というより、お気に入りのおもちゃで遊んでいる子供の表情だ。
私は混乱する頭で、視線をお義兄様に戻す。刹那、お義兄様と視線が交わった。
お義兄様は険しい表情のなか、本当に一瞬だけ目元を柔らかくしたが、すぐにキリっと眉を吊り上げて、お父様へと視線を戻した。
「なにを言い出す、パシェン! 錯乱したか!」
「錯乱などとんでもない。私は王国に仕える騎士として、この国に救う病魔を切り離すために、育ての親を糾弾する」
「黙れパシェン! 育ててやった恩を忘れたか!!」
お父様が大声で喚く。みっともない。お母様は倒れそうだ。
それはそうだろう、お父様の悪事を一番理解しているのは妻であるお母様のはずだから。
なおも喚こうとするお父様を一括したのは、壇上にいる陛下だった。
「黙るのはエラスティス公爵、其方だ」
「陛下!!」
「私が許す。パシェン、エラスティス公爵の罪状を読み上げよ」
陛下の声音はどこか楽しげで、ああ、と私は気づいてしまった。
(本当の四面楚歌だわ)
お父様は敵を作りすぎたのだ。
すでに陛下にはエクセン王子から根回しがいっているだろうし、お義兄様はお父様を糾弾する気満々で、私はお父様の味方をする義理もない。さらに広間に集まる多くの聴衆は好奇心を抑えきれずにいる。
お父様の味方は、お母様くらいなものだろうが、私以上に世間知らずであろうお母様は果たして味方足りえるのか。
「我が義父、エスラティス公爵は、恐れ多くも王国から授与された護るべき土地で、不当に税収を引き上げ、領地の荒廃を招き、十数年にわたり、王国の威信を傷つけたものである!」
お義兄様の告発に、お父様が顔面蒼白になった。隣のお母様は今にも卒倒しそうな顔色だ。
ああ、俄然面白くなってきたわ!




