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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第三十話・リーベへの愛とフィーネへの想い(パシェン視点)

『器であることだ。女神を受け入れる器は、なにに染まっていてもいけない』


 そう告げたエクセン王子は私に「フィーネの様子を見てくるよ」と告げて執務室を出ていった。

 一人残された私は、書類を処理する手を止めて、考えを巡らせる。


 今回、女神が白羽の矢を立てたのはフィーネだった。

 だが、エクセン王子の言葉が本当なら、リーベもまた女神の依り代である聖女になる資質があったということになる。


 リーベは、フィーネ同様に魔力適正も魔力量もゼロだ。

 一般人は極稀にそういう人間が生まれるらしいが、貴族に生まれるのは数百年に一度いるかいないか、というレベルの話だ。


 それも、女神の血を引く王家のさらにその血を引く公爵家の人間ともなればなおさらだった。


(なぜ、女神はフィーネを選んだ)


 危機的状況に居合わせたのがフィーネだったからだろうか。

 あの場にリーベがいれば、女神はリーベを選んだのだろうか。


 もし。


 リーベが女神の依り代に選ばれていたら。リーベを取り巻く環境は激変しただろう。

 リーベを蔑ろに扱う義理の両親も手のひらを返すに違いない。


 それだけ、女神が現世に降臨するというのは大事であるし、女神の依り代に選ばれるということは名誉であると同時に大きな責任を伴う。


 エクセン王子は先ほどの話を王家の継承者のみに伝わる話としていたが、民間にも似たような伝承は流れている。

 違いは「世界を光へ導くであろう」の下り程度だ。


 ため息を一つ吐き出して、イスから立ち上がり窓辺へと歩み寄る。

 ゆっくりと窓の外へと視線を向けた私は、無意識にフィーネの姿を探した。どこにもフィーネがいないことを確認して、もう一度息を吐く。


 フィーネは女神の依り代に選ばれた事実をどう思うだろうか。

 フィーネは孤児だと入団時に提出された資料に記載されていた。頼れる親も兄弟もおらず、食い扶持を稼ぐために騎士団に入団を希望したと。


 それなら騎士団の寮に入ればいいのに、と私は思ったし、実際クルールがフィーネに尋ねたそうだが、フィーネは「お世話になってるおじいちゃんとおばあちゃんが足腰が悪くて!」といっていたそうだ。


 恐らく両親に代わって愛を注いでくれた老夫婦に報いるために、わざわざ毎日下町から騎士団に通っている。

 フィーネは少年だが、女神の依り代に選ばれたことで、きっとフィーネを取り巻く環境は変わる。


 フィーネがどう思おうが、国としての意思が優先されるだろう。

 フィーネは不自由に感じる生活を送ることになるかもしれない。


 それは、公爵家で雁字搦めになっている私の境遇に通じるところがあって、少しだけ私は悲しくなった。


(私にはリーベがいた。だが、フィーネには……)


 私が十歳で公爵家に引き取られた時「おにいさま!」と無邪気に慕ってくれるリーベの存在にどれだけ救われたことか。


 リーベと同じことは私にはできない。

 だが、これから王家の思惑に振り回されることになるであろうフィーネの助けの一助にはなれればいいと思う。


「リーベ、フィーネ……」


 二人のことが大切だ。優劣をつけられないくらいに。

 リーベは義妹で、フィーネは同性だ。


 だが、どんな壁が立ちはだかっても、私は到底この想いを諦める気にはなれない。

 どうして私は自ら苦難の道を歩もうとするのか。


 少しだけ苦笑を零して、私はよく磨かれたガラスに映る自分の顔を見る。

 母から受け継いだ銀の髪と、青い瞳。


 外見には両親のおかげで恵まれていると思う。

 昔、幼いリーベが「おにいさまのかみ、とってもきれい! のばしたらみつあみできるかなぁ」といっていたから、伸ばし続けて、とうとう腰まで伸びた銀の髪。


「リーベ、私は」


 幼い頃から、君を愛していたんだと思う。

 金で公爵家に買われて荒んでいた私に、リーベが無邪気な愛を差し出してくれたあの時から。


 そして。


「フィーネ」


 天真爛漫に笑う君が気になって仕方ない。

 最初は確かにリーベに面影が似ているから気にかけていただけだけれど。


 たくさんの笑顔を見せてくれたフィーネに、確かに心引かれたのだ。

 両方とも抱えるのは難しい感情だ。それでも、私は。


「リーベが、好きだ。そして、フィーネが気にかかる」


 リーベのことははっきりと愛していると断言できる。フィーネのほうへ向ける感情は、この期に及んでよく理解できていない。


 リーベを手離したくない。私の手で幸せにしたい。いや、してみせる。


 だから、どうか私の想いに応えてはくれないだろうか。


 そんな、傲慢な考えが脳裏をよぎる程度には、私は追い詰められているらしい。

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