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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第二十一話・すれ違い勘違い

 ああああああ、間一髪! 本当に間一髪だ!!


(お義兄様、どうしてこんな場所に?!)


 城の隅っこの人目のない場所まで、どうしてお義兄様は足を運んだのか。

 疑問に思っていると、とても怖い顔をしているお義兄様がクルール様を睨む。


「クルール、仕事はどうした」

「やってるやってる。大丈夫だよ」


 対してクルール様は一切気にした様子もみせず、ひらひらと手を振っている。

 だが、その表情はどこか楽しげだ。私が気づいたのだから、お義兄様だって気づいたのだろう。お義兄様が眉を顰める。


「クルール、なにをにやにやと気色の悪い顔をしている」

「ん-、オニイサマは不憫だねぇと思って」

「?!」


 ちょ、ちょっと?! クルール様?!


 舌の根も乾かぬうちに、まさか私の正体をバラす気じゃないですよね?!

 焦った私がクルール様を見上げると、クルール様はこちらを見下ろしてウィンクを一つ。


 そういう反応がほしいわけじゃないです!


「? なんの話だ」

「あー、こっちの話。なぁ、フィーネ」

「え、あ、はい!」


 ここはクルール様に合わせるしかない。余計なことを言って墓穴を掘るわけにはいかないのだ。

 冷や汗だらだらで私が笑顔で頷くと、お義兄様はますます考え込むように黙り込んでしまう。


「んじゃ、俺仕事に戻るわ。あとはごゆっくり~」


 ちょっと待ってください! 置いていかないで! 今のお義兄様と二人きりにしないで!!

 そんな切実な思いとは裏腹に、クルール様はさっさと姿を消してしまった。こうなったら私も逃げるしかない。


「僕も仕事に戻りますね~」


 そっと口にしてしれっと去ろうとしたのに、なぜかお義兄様ががっしりと私の肩を掴んだ。


 ひえええ、なんですか、フィーネはなにも悪いことはしていません!

 ここにいるのがサボりだと言われたらそれまでではあるんだけど!!


「クルール、に」

「クルール副団長に?」


 お義兄様が珍しく歯切れの悪い様子で口を開いた。

 私がおうむ返しに尋ねると、お義兄様はバツの悪そうな顔をして、私の肩から手を外す。


「いや、なんでもない。仕事に戻っていい」

「? はい」


 なんだったんだろう。何か言いたげだったけれど、言わなくていいことだったのかな。

 不思議に思いつつ、私は仕事に戻るためにさっさとその場から離れたのだった。

 お義兄様はその場に佇んで、何かをずっと考えているようだった。



 * * *



「ええ! それで正体バレちゃったの!?」

「うん」


 騎士団の雑用が終わり、アミの家で着替えて、軽い食事を貰うことになった。


 いつも頑張ってるから、とアミが用意してくれた料理はどれも美味しくて、下品にならない程度にぱくぱくと食べているときに、今日あったことを思い出してアミに報告したのだ。


 なぜかキラキラと目を輝かせているアミの様子に首を傾げつつ、私は口の中のものを飲み込む。


「でも、クルール様は黙っておいてくれると約束してくださったし」


 紅茶を手に取って一口飲む。やっぱりマーテル様のところの紅茶は別格だったなぁ。アミの前では絶対に言えないけど。


「禁断のラブロマンスね! 騎士団団長であり義兄であるパシェン様と副団長で秘密を知るクルール様と、男装した公爵令嬢リーベの三角関係!」

「話を盛りすぎよ」


 きゃっきゃとはしゃぐアミは私の置かれている境遇を楽しんでいる節がある。

 まぁ、だからこそこちらも気兼ねせずに色々と頼ることができているのだが。


 恋に恋する乙女であるアミはよく私とお義兄様がお似合いだ、とかいって楽しげにしているのだけれど、今回そこにクルール様まで追加されたらしい。


 正直言って、色々とカオスな相関図だ。


「ねぇねぇ、もっと面白い話はないの?!」

「そんなものそうそう転がってないわ。……それに、お義兄様はこれから暫く王都にいらっしゃらないし」

「どうして?」

「あー……ここだけの秘密ね」


 女の子は秘密に弱い。アミはきらきらと目を輝かせて体を乗り出した。

 私は、特別伏せられているわけでもない情報を、少しだけ声を潜めて口にする。


「隣国のほうに王太子様が出かけられるらしくて、その護衛でお義兄様とクルール様は暫く不在なの」

「ええ! それじゃつまんないわ!」

「だから面白い話はそうそうないのよ」


 ぶうぶうと文句を言うアミに苦笑を零して、私はイスから立ちあがる。

 食事も済んだし、そろそろ家に戻らなければ怪しまれる。


「ねぇ、リーベ」

「なーに、アミ」


 呼びかけられたのでくるりと振り返ると、アミはさっきまでの楽しげな雰囲気を霧散させて、少しだけ寂しそうな瞳で、ぽつんと零した。


「私たち、離れ離れになっても、友達よね?」

「もちろんよ!」


 将来、私が公爵家を出奔したら。一般人になる私は伯爵令嬢のアミとは会えなくなる。


 でも、それでも。


 この友情は永遠に続くと、私は信じている。それは、アミだってきっと同じ。


「あ! 不安なら指切りする?」

「ゆびきり?」

「本で読んだの。異国の約束の方法なんだって!」


 異国というか、日本の、である。私の提案にアミは首を傾げている。

 私はアミの小指をとって指切りげんまんを歌った。アミが「変な歌ね、怖い歌だわ」と笑う。


「私は針千本飲みたくないから、約束は破らないわ!」

「私もよ。リーベ、大好き!」


 ぎゅっと抱き着いてきたアミを抱きしめ返す。

 人肌の優しい体温を感じながら、ふと思い出した。


 そういえば。本当に小さなころは、お義兄様に抱きしめてもらったことも、あったっけ。

 もうそんな機会は、二度とないんだろうな。

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