第二十話・とうとうバレた男装
男装して仕事をするのにもやっと慣れ始めていた。
頭はウィッグで蒸れているし、胸元は潰して少し苦しいけれど、公爵家で鬱屈としているより外で働くのは単純に楽しかった。
今日も今日とてお城の中を駆けまわって、荷物を運ぶ雑用だ。
本来騎士の仕事ではないらしいけど、魔力適正と魔力量ゼロでつまるところ使える能力がない私に割り振れる仕事はこのくらいなのだろう。
腐らず頑張っていれば、いつか評価されると信じて地道に仕事をこなすしかない。
城の端っこにある物置まで要らない用具を運んだ私は、滴る汗を拭ってふうと息を吐いた。
「よお、フィーネ。こんなところで何してるんだ?」
「?!」
突然背後から声をかけられて、驚いて飛び上がる。そのまま足が滑って転びそうになった。
「おっと」
反射的にだろう、私を支えてくれたのは声を掛けてきたクルール様で。
本来はお礼を言うべきシーンのはずなのだけれど。
クルール様ががっしりと掴んでいるのは、さらしでつぶしているとはいえ、私の、胸、で。
「……ん?」
胸元をさらしで強制的につぶしているから、違和感があるのか、クルール様の手がむにゅ、と胸元を揉むように動く。
私は思わず。
「変態!!」
そういって振り返った瞬間にクルール様の頬を叩いていた。
* * *
ところ変わって、人気のない城の隅っこで私は小さくなっていた。
私の前には頬にもみじマークをつけたクルール様が仁王立ちしてて、その手には私の正体を隠す命綱であるウィッグが握られている。
つまり、私はクルール様に男装していたことを知られてしまった。
条件反射で叩いたのはさすがに悪かったと思うけれど、そもそもクルール様の手が胸を揉むような動きをしたことが行けないと思います!!
「つまり、フィーネっつーのは偽名で、本当は女の子だったと?」
「……はい」
小さくなって頷く私は、芝生の上に正座をしている。
この世界で記憶を取り戻してから正座をするのは初めてだ。そんな現実逃避をしてしまう。
「他にも隠してることあるだろ、キリキリ吐け」
とはいわれても。さすがに公爵令嬢リーベ・エラスティスであることは口にできない。
黙り込んだ私の前で、ウィッグをくるくると指先で回しながらクルール様はジト目で告げる。
「いわねーなら当ててやろうか。あんた、エラスティス公爵家の娘だろ」
「!」
ズバリ言い当てられて、思わず下げていた視線を上げた。
私の視線の先で、クルール様が難しい表情をしている。
「ど、どうして」
「零れ落ちる金の髪に、宝石みたいなバイオレットの瞳――噂に聞く公爵令嬢と同じ特徴だからだよ。あとはちょっとしたカマかけだ」
つまり、確信があったわけではないらしい。私は思わず抗議の声を上げた。
「ひどい!」
「酷いのはどっちだ。あとができるくらいしっかり叩きやがって」
クルール様がウィッグを弄っていない方の手で頬を指さす。
そう言われると反論が出来ない。再び黙り込んだ私の前で、クルール様が特大のため息を吐きだした。
「それで? 理由を教えてくれたら協力できるかもしれないぜ?」
「……さい」
「ん?」
「お義兄様には、黙っていてください……!」
きゅ、と膝の上で拳を作る。私の切実な声に、クルール様が膝を折った。
視線を合わせるように芝生に膝をついて、私の頭を撫でる。
その仕草が優しかったから、私の決意もようやく決まった。
「どうしてだ?」
「……私が騎士団に入ったのは、公爵家を出奔するためなんです」
とうとう白状した私の本音に、クルール様が息を飲む。
私は淡々と、このままではお金目当ての政略結婚が待っていること、それだけは嫌なこと、どうしても自立したい旨を伝えた。
クルール様は真剣に私の言葉に耳を傾けた後、一言確認するように告げる。
「パシェンには相談してないんだな?」
「お義兄様にこれ以上の負担はかけられません」
そう口にして、私は綺麗に微笑む。お義兄様に負担はかけない。
幼少期から唯一私を気にかけてくれたお義兄様に、これ以上の迷惑はかけられない。
私の決意を滲ませた言葉に、パシェン様は大きくため息を一つ吐き出して、私から取り上げていたウィッグを私の頭の上に乗せた。
金色の頭の上に、雑に茶髪のウィッグが置かれる。
「黙っといてやるよ。ただ、無理はするな。騎士団でなにかあれば、まず俺に相談しろ」
「! はい! ありがとうございます!!」
クルール様の言葉に私はほっと胸を撫でおろす。
戻ってきたウィッグを被りなおして、私はにこりと笑った。
「クルール様は意外と話が分かる方ですね」
「意外と、は余計だ。やんちゃ娘」
「あはは」
からりと笑って、私はウィッグを被って立ち上がった。少し形を整えれば、フィーネの完成である。
クルール様もワンテンポ遅れて立ち上がる。
「それにしてもひょろがりだな~とは思ってたが、まさかお嬢さんとはね。俺のセンサーも鈍ったな」
「センサー?」
「女の子専用センサー」
「そんなもの持ってたんですか」
軽い口調で言われた言葉に、少しだけ呆れた気持ちで言葉を吐き出す。クルール様は軽く肩をすくめて、欠伸をした。
「めんどくさい気配をいま察知した」
「え?」
私が首を傾げると、すぐにお義兄様の声が響く。
「クルール! フィーネ! こんなところで何をしている!」




