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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第十八話・風邪と看病

 ネグリジェも着ることなく現実逃避で寝た影響なのか、あるいは慣れない肉体労働を続けている影響か、もしくは単純に心労なのか。


 リーベ・エラスティス、本日熱を出しました。


 朝起きたら喉がイガイガしていて違和感があって、頭はぼんやりと重くて、でも騎士団の仕事は休めないから、と出涸らしの紅茶だけ胃に入れて、引き留めるアミを振り払って出勤したところ、クルール様に秒で王宮から追い返された。


「熱があるだろ。帰って寝ろ」


 そういって追い返されたのだ。


 言い返すこともできずすごすごと引き返してアミの家で着替えて帰宅したわけだが、公爵家で私のことを気にかけてくれるのはお義兄様くらいなので、お義兄様が騎士団に出勤している以上、私が熱を出していようが、私を気にかけてくれる人などいない。


 つまり、熱が出ていても医者を呼ばれるわけでもなく放置である。大変つらい。


(死にかけるような風邪ではないし、死にかけてたらさすがにお医者様が呼ばれるだろうけど……)

 

 なにしろ私が生きていないと結婚支度金は入ってこないのだ。

 死人と結婚する物好きはいないだろうし。


(あ~、でも、普通に辛い……)


 こほ、と咳を吐き出して寝返りを打つ。ぐるぐると気持ちが悪い。

 前世でもそうだったけど、この世界でも風邪に対する特効薬はないので、どのみち対処療法にはなるのだけど。


(でもさぁ、薬くらいくれてもよくない?)


 いくら腫れもの扱いの欠陥品の能無しだからって。……あ、自分で考えて悲しくなってきた。

 風邪のメンタルはよくない。マイナスな方向にばかり思考が向く。


 いっそ寝てしまった方がいくらか楽だろう。

 そう思って、私は微睡みながら意識を手離した。



 * * *



 ゆらゆらしている。この世界ではまだ体験していないけど、前世で船の上にいたときのような、揺蕩う感覚。

 額が冷たい。心地いい冷たさだ。


 うっすらと目を開けると、視線の先に泣きそうな顔のお義兄様がいた。

 お義兄様は誰かと話している。聞きなれない声だ。落ち着いた、低い声が耳朶に届く。


「リーベは大丈夫なのでしょうか」


 今にも泣きそうなお義兄様の声音。

 どうしてそんなに悲しんでいるのか、私にはわからない。


「少し風邪をこじらせているだけです。起きられたら薬を飲ませれば大丈夫ですよ」


 ああ、これは夢だ。都合のいい夢。


 私を心配したお義兄様がお医者様を呼んでくれるという、夢想。

 私は再び瞼を閉じた。夢の中で寝るって変な気分。


 でも、なんだかちょっとだけ幸せな気持ちだ。


「おにいさま、だいすきです……」


 ふにゃりとそう口にして、私は夢の世界へ旅立った。



 * * *



 すっきりした気持ちで目が覚めた。

 まだだるさは残っているけれど、動けないほどではない。


 欠伸を噛み殺して体を起こすとベッドサイドにカットされたフルーツと薬らしき小さな包装紙が置いてある。

 食べて飲めということらしい。さすがに死なれたら困ると思ったのだろう。


 フォークに手を伸ばして、フルーツを齧る。この国の特産品の一つであるメロンによく似た果実は、少し甘酸っぱくて喉の通りがいい。


「あれ? おいしい」


 いつもなら、その辺の雑草の方が美味しいのでは? というようなよくわからない味のフルーツがでるのに。

 思わず口を押えて、私は意味もなく周囲をきょろりと見回した。


「どうしたのかしら?」


 置いていくフルーツを間違えたのだろうか。後から返せって言われないかしら、これ。

 でもまぁ、私の部屋に置いてあるのだし、食べていいだろう。これなら空っぽの胃にも優しいし。


「とてもいい夢をみたわ」


 お義兄様が泣きそうだったのは不思議だけれど。私、お義兄様の泣き顔が見たいのかしら。

 夢は深層心理を反映するともいうし。でも、お義兄様が泣くようなことは。


「いやだなぁ」


 できれば、お義兄様には笑っていてほしいから。

 とはいえ、鉄仮面のように表情が滅多に動かないお義兄様が満面の笑みで笑う姿は、ちょっと想像できないのだけれど。

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