第十七話・クソオヤジ
マーテル様のお屋敷で結構しっかりと食事を頂いて、満たされた心地でお屋敷を後にした。
また訪ねる約束をして、アミのお屋敷へ。男装から普段着のドレスに着替えて公爵家に戻る。
そこで最悪なことに父親と鉢合わせた。私の顔を見るなり舌打ちをした最低な親である。
「報告は受けていたが、本当に毎日遊びあるいているとはな。全く誰に似たのか」
むかつく台詞も仮面の笑顔でガードして効いてないふりをする。
にこにこと笑う私にさらに父親は舌打ちをした。
「だらしのない娘だ」
だらしがないのはどっちでしょーね! そっちはお金にだらしがないくせに。
我が家は王国における四大公爵家の一角ではあるが、父親の浪費癖でずいぶんと信用を無くしていると騎士団に入ってから知った。
お義兄様が騎士団で功績を立てているから、かろうじてエラスティス公爵家の面子は保たれているようだが、お義兄様がいなければすでに落ちぶれていたかもしれないというレベルらしい。
それも当然で、お義兄様を引き取るにあたってマーテル様と契約したお金をちょろまかすような人である。誰が信用するというのか。
ため息を吐きだしたのを堪えて、笑顔は崩さないでいると、父は三度目の舌打ちをして私の横を通り過ぎた。
「お前の縁談は近々まとめてやる。さっさと嫁に行って能無しなりに金を貰ってくるんだな」
「っ」
思わず、息を飲んだ。
私に残されたタイムリミットは、思ったより少ないのかもしれない。
* * *
マーテル様の所で食べさせてもらったので、夕食は辞退した。
どのみち出てくるのは残飯だし、お腹が空いていたとしても今の気分では到底食べる気になれない。
ドレスを脱ぎ捨てて、着替えるのも面倒だったので下着姿でベッドに転がる。
埃臭くても慣れてしまった匂いに、少しだけ安心感を覚えた。
(お父様が私の縁談を進めている。でも、いまの私の貯金なんてないも同然。まだ、目標額には全然足りない)
無慈悲な現実が横たわっている。私はため息を吐きだしてだるさを訴える体を起こす。
ベッドからのろのろと動いて、先日ようやく騎士団ではじめてもらったお給金をベッドの下から引っ張り出した。
袋にいれられた少しの銀貨を眺める。
男装して騎士団に入団するにあたって、アミにそこそこのお金を借りた。
ウィッグを作るのに必要だったお金とか、男装するための洋服とか、細々としたものを上げればきりがない。
アミは「出世払いで大丈夫! なんなら返さなくってもいいのよ」と笑ってくれたけれど、そういうわけにはいかない。
親しい仲だからこそ、金銭のやり取りはキチンとするべきだ。本来借りることだって抵抗があったけれど、私には本当にお金がなかったから頭を下げたのだ。
私は絶対にお金にだらしのない父親のようにはならない。
アミには毎月少しずつ一定額を返すと約束している。
今月お給料をもらってすぐに決めた額は返したが、それを差し引くと手元に残るお金は本当に少ない。
「まだまだ下っ端だものね」
その上、ただの下っ端ではなく能無しの下っ端だ。
任せてもらえる仕事は少なくて、その分はお給料にだって反映される。
「はああああ~」
頭が痛い。もういっそ、お金を貯める前に出奔しようかな。
とにかく政略結婚だけは避けたい。
「お父様が持ってくる縁談、どんなものかしらね……」
きっと結婚支度金を多く支払ってくれるだけの金持ち貴族が相手だ。年齢だって考慮されず、とにかく大金を詰んだ貴族に売り飛ばされるのだろう。
お金で売り買いされるって、こんなに精神的にダメージがくるものなのね。
幼少期のお義兄様の気持ちをいまさらながらに思い知った気分。
「……寝よ」
考えても仕方ないことは、考えても意味がない。
現実逃避だと理解したまま、私は意識を手離した。
夢の世界で、私は幼い姿で、お義兄様に無邪気にじゃれついていた。
『おにいさま! だいすきです!!』
ああ、確かに口にしたわ。嘘ではなかったの。
本当よ、お義兄様。




