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虐げられた男装令嬢、聖女だとわかって一発逆転!~身分を捨てて氷の騎士団長に溺愛される~  作者: 久遠れん
第一章

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第十四話・お義兄様のお母様

 お義兄様にお母様の様子を見てきてほしいと言われた翌日、本当にたまたま休日だった私は、アミの家で男装をしてからさっそく街に繰り出した。


(先日はこの辺の市場で見かけたんだよなぁ)


 きょろきょろと辺りを見回しながら歩く。私にとって市場は珍しい場所だ。

 なにしろ私――リーベは公爵令嬢なので市場というものに縁がない。


 騎士団に所属して、雑用の一環として買い出しをするようになって、最近ようやく少しだけ地理を把握した程度である。

 辺りを見回している、私としてはその程度の認識だったが、それがいけなかったのだろう。

 ドン、と子供がぶつかってきた。


「あ、ごめんね」

「ううん、大丈夫!」


 元気な子供はそういって走り去ろうとした。それを横から止めたのはたおやかな手だ。


「スリは止めなさい」

「えっ?!」

「チッ!」


 思わず驚愕の声を上げた私の隣で、銀の髪を纏めた綺麗な奥様――お義兄様のお母様が鋭い眼差しで子供を睨んでいる。


「いらねーよ! こんなしけた財布!」

(しけた?! 私の騎士団でのお給料がしけた?!)


 財布を私に向かって投げ捨てた子供の言葉に衝撃を受けていると、子供の手を放したお義兄様のお母様、ああ、ややこしいな奥様でいいかな――が財布を拾い上げてくれた。

 その隙に子供は逃げている。街中だというのに、治安が悪い。二重の意味でショックだ。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」

「ふふ、いいのよ。ただ、あんまりきょろきょろしない方がいいわ。探し物でもあるの?」


 貴方です! といっていいのかどうなのか。

 迷った私がへらりと笑ったのと同時に盛大にお腹が鳴った。

 恥ずかしくて咄嗟にお腹を押さえると、奥様は頬に指先をあてて、小さく笑った。


「育ち盛りだものね。そうねぇ、私の家で食事でもどう? 話し相手になってくれたらうれしいわ」

「っ、喜んで!」


 二重の意味で喜んで、だ。

 目を輝かせた私に、奥様はぱち、と瞬きをする。

 その表情があまりにもお義兄様にそっくりで、ああ、この人はやっぱりお義兄様のお母様なのだな、と感じられた。



 * * *



 奥様の家、下級とはいえ一応貴族のはずだけれど、本当にこじんまりとしたお屋敷に案内される。

 使用人は執事が一人いる、というのはお屋敷に向かう道中で説明されていた。


「お帰りなさいませ、奥様」

「ただいま。この子に食事を出してあげて」

「畏まりました」


 出迎えた執事に申し付けた奥様の言葉に、私はそろりと口を開く。


「あの、えっと」


 この期に及んで奥様の名前を知らないので口ごもると、察したように奥さまが口を開いた。


「ああ、名乗っていなかったわね。わたくしはマーテル・セミヤ―というの。気軽にマーテルと呼んでほしいわ」

「はい! マーテル様! 僕はフィーネといいます!」

「ふふ、よろしくね。フィーネくん」


 穏やかに微笑むその瞳の色が、本当にお義兄様と同じで、心臓の鼓動が早くなる。

 ドキドキと煩い心臓が不思議だ。

 綺麗な人に反応してしまうなんて、私もクルール様のことをからかえない。


「今日は天気がいいわね。食事はお庭でどうかしら?」

「はい!」


 元気よく頷いてマーテル様の後ろをついていく。

 マーテル様は足音がほとんど聞こえないほど静かに歩いてお庭に向かった。

 小さいけれど、綺麗に手入れのされているお庭は、季節の花が咲いていて目に楽しい。


「こちらにどうぞ」

「ありがとうございます!」


 お庭に置いてあるテーブルとイスを勧められる。

 マーテル様がイスに座ったのをみて、私も正面のイスに座った。ほどなくして、執事が紅茶を運んできた。


「今日の紅茶はルルディでございます」


 ルルディはこの王国名産のお花の名前だ。

 静かに目の前に置かれたティーカップに注がれる紅茶に、私は目を輝かせた。


「わぁ! いい香りです!」


 いや、本当にすごくいい香りですね?!

 公爵家では出涸らしのような紅茶しか出ないとはいえ、アミの家ではちゃんとした紅茶を飲んでいるはずなのに、それ以上にいい香りがする。


 アミの家、伯爵家でマーテル様のお家より格は上のはずなんですが!


「ふふ、わたくしの一番のお気に入りの紅茶なの。お口に合えばいいのだけれど」

「いただきます!」


 そっとティーカップを手に取る。有名な職人のものではないだろうけれど、手入れの行き届いた綺麗なティーカップだ。


 そっと口につけると、口の中でふんわりと優しい味が広がっていく。舌の上で紅茶を転がして、私は目を細めた。

 美味しい、本当に美味しい。紅茶ってここまで美味しく淹れられるんだ。


「どうかしら?」

「とっても美味しいです!」


 問いかけの言葉に、にぱりと笑う。

 マーテル様は穏やかな笑みでにこりと微笑んでくれた。

 落ち着いた赤い口紅が引かれた口元が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「ところで、貴方はどうして男装をしているのかしら?」

「……?!」

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