第96話 ずっと一緒よ
豪華な食事を終え、お弁当の箱を丁寧に畳み、馬車の中に再び穏やかな静けさが戻った。ギルとキスティーは、満腹感からくる眠気と、旅の安堵で、うとうとし始めていた。
その時、アリシアが何かを思い出したかのように、背もたれに置いていた銀細工店の小さな袋を手に取った。彼女は、その袋をぎゅっと握りしめ、キスティーに微笑みかけた。
「キスティー、起きて。これ、王都で買った、私からのお土産よ。」
キスティーは、眠そうな目をこすった後、その言葉に、キラキラと瞳を輝かせた。
「わあ!なになに?」
アリシアは、袋から取り出した二つの小さな銀のブローチを、手のひらに乗せた。それは、繊細な花びらが重なり合った、優美なスミレのモチーフだった。花びらの一枚一枚には、細かな彫刻が施され、馬車の中に差し込む光を受けて、上品に輝いていた。
「これね、お揃いのブローチなの。キスティーと私で、一つずつ。ずっと一緒の証よ。」
アリシアは、優しくブローチをキスティーに差し出した。キスティーは、その美しい銀細工に、目を潤ませた。
「わあ…ありがとう、アリシア!すっごく綺麗!」
キスティーは、そっとブローチを手に取り、その繊細さに感動した。彼女にとって、アリシアからのお揃いの贈り物は、何よりも大切な宝物だった。
アリシアは、ブローチの一つを手に取り、キスティーのワンピースの胸元に、丁寧に留めてあげた。
「これで、私たち、ずっと一緒よ。」
キスティーは、胸元で輝くブローチを見て、満面の笑顔になった。そして、もう一つのブローチを手に取り、アリシアのドレスの襟元に、そっとつけてあげた。
「アリシアも似合う!これでお揃いだね!」
二人は、顔を見合わせ、馬車の中で立ち上がって強く抱きしめ合った。その抱擁は、昨日までの王都での色んな出来事、お互いの無事への安堵、そして深い愛情が込められたものだった。
「大好き!アリシア!最高の思い出だよ!」
「私もよ、キスティー。あなたと一緒に旅ができて、本当に良かったわ。」
抱擁を解いた二人は、満面の笑みで、お互いのブローチを指差して笑った。
次にアリシアは、ギルに向き直り、もう一つの小さな包みを差し出した。
「ギル。あなたにはこれよ。」
ギルは、突然のお揃いのプレゼントに、再び顔を赤らめた。
「え?俺にもあんのかよ。」
中から出てきたのは、キスティーとアリシアのブローチと同じスミレのデザインの銀細工が埋め込まれた、皮製の頑丈なストラップだった。ブローチの優美さとは対照的に、太い皮ひもが使われ、実用性を重視したデザインになっていた。
「お揃いのデザインよ。ギルも私たちの大事な友達なんだからね!」
アリシアは、優しい眼差しでギルを見つめた。
ギルは、照れくささから目を逸らしながらも、ストラップを手に取った。
「……おう。まあ、お揃いってのは、ちょっと気恥ずかしいけど。でも、ありがとよ。」
彼は、すぐにストラップを腰の大きなポーチに結び付けた。その表情には、不器用な感謝と、大事な友達と思ってもらえていることへの確かな喜びが滲んでいた。
レイエスは、その光景を静かに見守っていた。超常的ともいえる力を持ち、一つ間違えれば世界の破壊者ともなり得る彼らが、今、目の前で普通の子供たちとして、友情の証を喜び合っている。その純粋な姿は、レイエス頭の中を混乱させていた。
(誰にも止められない強大な力を持つ子たちだが、彼らはただの子供だ。ただ、愛と友情を求める、普通の子供たちなのだ。)
レイエスは、安堵と希望の微笑みを浮かべた。彼らの力を恐れるのではなく、この純粋な心を育てていくことこそが、国の未来にとって最も重要だと確信した。
馬車は、静かにコレットの町へと向かって進んでいく。レイエスの目の前には、窓の外を並走する騎士団長の鉛色の疲労とは対照的な、子供たちの希望に満ちた笑顔が溢れていた。




