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第8話 王子様、調べる…

 レイエス王子がコレットの町を訪れたのは、決して退屈な視察のためだけではなかった。彼の真の目的は、宮殿での退屈な日々を抜け出し、純粋な冒険心を満たすことだったのだ。ついでに国の役にたてばいいかと。


 数週間前、レイエスは父である国王と大臣たちの秘密の会議を偶然耳にしてしまった。議題は、王国各地で報告される凶悪な魔獣の活動の活発化について。特にコレット近郊の森からは、これまで類を見ないほど強い反応が確認されているという。その話を聞いた瞬間、レイエスの胸に冒険の炎が灯った。王宮の堅苦しい生活にうんざりしていた彼は、この機会を逃すまいと、身分を偽り、視察団の一員としてコレットへと赴いたのだ。


 しかし、実際に来てみれば、想像をはるかに超える「異常」な子供たちに出会うことになった。彼らの存在が、レイエスの「凶悪な魔獣の反応」への探求心を、さらに掻き立てていた。


 レイエスの命を受けた騎士たちは、早速キスティー、アリシア、ギルバートの三人の身辺調査を開始した。彼らは町の住民から聞き込みを行い、三人の日頃の行いを丹念に調べていく。


 キスティーは、町外れの小さな家で、おばあちゃんと二人で暮らしている。


「キスティーちゃんは、本当に良い子だよ。畑仕事も手伝ってくれるし、おばあちゃん想いの優しい子さ。」


 そう語るのは、キスティーの隣に住む農夫だ。


「最近は、畑の手入れもキスティーちゃんがほとんどやってくれるから助かるよ。魔法?ああ、パンを焼くときなんかに、たまーに火の魔法を使ってるのを見るくらいかな。それもほとんどしないよ。でも、すぐに終わっちゃうから、ほとんど見ないね。」


 おばあちゃんと共に畑でせっせと土を耕し、作物の手入れをするキスティーの姿は、まさに絵に描いたような普通の田舎の少女だった。陽がな一日、おばあちゃんと世間話をしながら、土の匂いに包まれて過ごす。時折、鳥のさえずりや、遠くで遊ぶ子供たちの声が聞こえる。彼女にとって、それはごく当たり前の日常であり、魔法を使うのは、あくまで「生活の補助」ための、そして「毎日のちょっとした楽しみを奪わない」ための「秘策」だった。


 アリシアは、町の中心にある薬屋の一人娘だ。


「アリシアはね、本当に賢くて優しい子なのよ。薬草の知識も豊富で、お店の手伝いもよくしてくれるし、まさに自慢の娘よ。」


 アリシアの母親は、誇らしげに語る。店先で、アリシアは真剣な表情で薬草を分類したり、患者の相談に乗ったりしている。その姿は聡明で、まさに町の薬師の娘といった印象だ。


「魔法?ええ、アリシアも少しは使えるみたいだけど、見たことはないわね。あの子は剣術もたしなんでいるから、もっぱらそっちかしら。」


 アリシアは薬屋の手伝いを終えると、よく店の裏で木剣を振るう。その動きは流れるように美しく、鍛錬を怠らない真面目さがうかがえる。彼女は、日々の生活の中で、自分の能力をひけらかすことなく、静かに磨き続けていた。


 ギルバートは、町の鍛冶屋の息子だ。


「ギルはぶっきらぼうに見えるが、心根は優しい、良い息子だ。親父の跡を継ぐため、時間があるときは炉の番をしたり、金槌を振るったり、一生懸命修行しているよ。」


 屈強な体格の鍛冶屋の親父が、ギルの背中を叩きながら笑う。ギルは、熱気に満ちた鍛冶場で、真っ赤に熱した鉄を力強く叩いている。その汗だくの姿は、将来の鍛冶屋の棟梁を思わせる。


「魔法?あいつが?まさか。見たこともねぇな。あいつは腕力と根性で勝負するタイプだ。」


 ギルは、鍛冶仕事の合間を縫って、町の子どもたちの遊びに付き合ったり、時には町の困りごとの手助けをしたりしている。彼の力強い姿は、町の誰もが認めるものだった。


 調査結果がレイエスの元に届けられた。どの報告書を読んでも、三人の子供たちはごく普通の、どこにでもいる「町の良い子たち」としか書かれていない。魔法を使うという証言はあったものの、その頻度はごく稀で、日常の助けに使う程度のものだと報告されている。


「…馬鹿な。これほどのことがあって、何も出てこないだと?」


 レイエスは、報告書を放り出すように机に置いた。彼の記憶には、杖も詠唱もなしに空を舞い、アースゴーレムを一撃で仕留めるキスティーの姿が鮮明に焼き付いている。そして、それを当然のように受け入れているアリシアとギルバートの姿も。


「まさか、こんな子供たちが、ただの偶然で、あの途方もない力を持っているというのか…?」


 レイエスは立ち上がり、窓の外のコレットの町を見下ろした。平和で、のどかな景色が広がっている。しかし、彼の胸には、得体のしれない違和感が渦巻いていた。


(何かがおかしい。これだけの力を持つ子供たちが、何もないはずがない。きっと、まだ何か隠されている…俺の目が、そう言っている。)


 レイエスの冒険心は、今や強い疑念と探求心へと変わっていた。彼は、このコレットの町に、まだ見ぬ真実が隠されていると確信していた。


 レイエス王子は、報告書を前に腕を組み、深く考え込んでいた。各地から凶悪な魔獣の被害が頻繁に報告されているというのに、このコレットの町だけは、すぐそばに「魔獣の森」があるにもかかわらず、驚くほど平穏なのだ。


(なぜだ…この町は、なぜこれほど平和なのだ?各地の領主は魔獣の対処に苦慮し、騎士団は連日出動しているというのに…)


 レイエスは地図を広げ、コレットの位置を指でなぞる。魔獣の森のすぐ隣に、何の被害もなく、人々が笑顔で暮らしている町。それは、王国全体の状況から見れば、あまりにも不自然だった。そして、その平穏の只中に、あの規格外の力を持つ子供たちがいる。


(やはり、あの者たちがこの町の平穏と関係しているのか…だが、どうやって…?)


 レイエスの疑問は深まるばかりだった。

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