第74話 いい獲物だぜ
三人は宿を出て、活気に満ちた街へと足を踏み入れた。石畳の道は、朝の光を受けてきらきらと輝いている。風に乗って、香ばしい匂いや、甘い匂いが運ばれてきた。道の両側には、色とりどりの屋根を持つ露店が所狭しと並び、それぞれが独特の活気を放っている。
「すごーい!おいしそうなのたくさんあるよー!」
キスティーは、抑えきれない興奮で声を上げると、小さな体で人混みをすり抜け、目の前の露店へと駆け出した。その瞳は、まるで宝物を見つけたかのようにキラキラと輝いている。
「どれだ?どれが一番うまそうかな?肉だよな、やっぱり!」
ギルもまた、迷うことなく食の探求へと乗り出した。彼の足は、肉の匂いを求めて、まっすぐに進んでいく。
「もう、待ってよー。私も選ぶ!」
アリシアは、そんな二人の後を、少し焦った様子で追いかける。賑やかな街の雰囲気と、食欲をそそる匂いに、彼女も心が浮き立つのを感じていた。
ギルは、数ある露店の中から、ひときわ目を引く一軒を発見した。そこは、豪快に肉を焼く匂いが漂っており、煙がもうもうと立ち込めている。鉄板の上では、肉の塊がジュージューと音を立て、香ばしい香りが辺り一面に広がっていた。
「うおお!これだ!俺、これが食いたい!」
ギルは、その場で拳を握りしめ、興奮を隠せない様子で叫んだ。
「ギル、すごいの選んだね
!じゃあギルはそれね!」
キスティーも、ギルの選んだものに満足そうに頷くと、今度は自分の番だとばかりに、目を輝かせて次の露店を探し始めた。
「私は…あ!あれ!」
キスティーが指差したのは、大きな魚のフライを挟んだサンドイッチの露店だった。揚げたての黄金色に輝く魚のフライは、湯気を立て、新鮮なレタスやトマト、そして、キスティーの大好きな特製のオーロラソースがたっぷりと挟まれており、その見た目だけでもう、心は決まったようだ。
「これにする!それと、セットの大きなマフィンもつける!」
キスティーは、サンドイッチと、もう一つの楽しみであるマフィンに、心を躍らせていた。
そして、横にたくさん積まれていた色んな種類の小さなお菓子を見つけると、目を輝かせた。
「これもー!」
飛びつき大量に購入した。
「キスティー、お菓子は後で食べなさいよね。うーん…、みんな美味しそうね!私はこれにしようかな?」
アリシアは、二人の選んだ露店を見ながら、自分のブランチを何にするか考えていた。彼女の目に留まったのは、焼きたてのパンと、新鮮な野菜を扱う露店だ。
「これにしましょう!」
アリシアは、焼きたての大きなプレッツェルと、ドライイチジクがたっぷり入った小さめのスコーンを選んだ。さらに、新鮮なレタスやベビーリーフ、色とりどりの野菜がたっぷり入ったサラダと、コーンがこれでもかというほど入ったふわふわのオムレツも注文した。
そして、三人とも、温かい魚介のスープを一つずつ、それから、アリシアが選んだ、搾りたてのフレッシュなフルーツジュースを頼むことにした。
露店の前には、小さなテーブルと椅子が並んでおり、三人はそれぞれが選んだ食べ物を持って、席に着いた。
「うわあ!すごいご馳走だね!」
キスティーは、テーブルに並んだ料理を見て、目を丸くした。ギルの持つ豪快な肉の串焼き、キスティーの大きなサンドイッチ、アリシアの可愛らしいプレッツェルやスコーン。それぞれが個性的なブランチだ。
「うめえ!この肉、最高だぜ!」
ギルは、熱々の肉の塊を頬張りながら、満足そうに言った。香辛料が効いており、一口食べるごとに、香ばしい匂いが口いっぱいに広がる。
「私のサンドイッチも美味しいよ!お魚がサクサク!」
キスティーは、大きな口を開けて、サンドイッチにかぶりついた。サクサクの衣と、ふわふわの魚の身、そしてシャキシャキの野菜が、オーロラソースと絶妙なハーモニーを奏でている。
「ふふ、よかったわね。私のプレッツェルも、焼きたてで美味しいわ。」
アリシアは、プレッツェルを一口ちぎって食べると、その香ばしさに顔をほころばせた。
「それにしても、このスープ、温まるな。」
ギルが、スープを一口飲むと、体の中からじんわりと温かくなるのを感じた。魚介の出汁がしっかりと効いており、具材もたっぷり入っている。
「ホントだね!おいしい!」
キスティーも、スープを両手で持って、ゴクゴクと飲み干した。
「みんなで食べると、さらに美味しいわね。」
アリシアが微笑むと、ギルとキスティーは、満面の笑みで頷いた。
「当たり前だろ!だって、みんなで探検して勝ち取った宝のおかげで食べられるご飯だぜ?美味しくないわけないじゃん!」
ギルは、そう言って、満面の笑みを浮かべた。
「うん!格別だよ!」
キスティーも、今日の豪華なブランチに、心から満足しているようだった。
三人は、賑やかな街の音に耳を傾けながら、それぞれが選んだ美味しい料理を、心ゆくまで楽しんだ。太陽の光が、彼らの顔を明るく照らし、その笑顔を一層輝かせていた。周りの人々も、その幸せそうな光景に、自然と笑顔になっていた。
その幸せな時間を、遠くからじっと見つめている男がいた。彼は、汚れた外套で顔を隠し、人混みに紛れて、三人の様子を観察していた。その目は、獲物を品定めするかのように、鋭く光っている。
男は、この街で最近暗躍している人さらいの組織の一員だった。彼らは、裕福な家の子供を誘拐し、莫大な身代金を要求することを生業としていた。しかし、この世界には奴隷売買や人身売買といった悪習が存在しないため、誘拐した子どもを売り飛ばすなんてことはできない。そのため、身代金は彼らの唯一の収入源だった。
「…ふん、この街は騎士団がいるが、まあチョロいだろ。」
男は、吐き捨てるように呟いた。彼らの組織は隠れることがうまく、騎士団も手を焼いている。最近は裕福なとこの子供の多いこの街に拠点を移していた。
男の視線は、三人の子供たちに釘付けになっていた。彼らは、それなりに質の良い服を着ており、身なりもとても綺麗だ。何せ王子様にお城に招待されると聞いた時に、一番いい服を用意して持ってきていたからだ。特に、銀色の髪を持つアリシアと、可愛らしいワンピースを着たキスティーは、どこかの貴族の令嬢にすら見えた。そして何より、彼らは大人の付き添いもなく、子供たちだけで無防備に食事を楽しんでいる。
「こりゃあ、いい獲物だぜ…」
男は、にやりと口角を上げた。三人の周りには、彼らの会話を聞く人もおらず、誰も彼らの素性を知らない。これほど好都合な獲物はないだろう。男は観察を続け連れ去る機会を伺うことにした。
子供たちは、そんな男の視線に気づくことなく、ただひたすらに、目の前の美味しい料理と、楽しい会話に夢中になっていた。彼らの周りには、幸せな空気が流れており、悪意が忍び寄っていることなど、知る由もなかった。




