第73話 ブランチにしましょうか?
翌朝、太陽が窓から差し込む光で部屋を温めていた。普段ならとっくに目を覚ましている時間だが、昨日のと「宝探し」の疲れから、二人ともまだ深い眠りの中にいた。
最初に目覚めたのはアリシアだった。ゆっくりと目を開けると、自分の肩に顔を埋めて眠るキスティーの姿が目に入った。小さな寝息が、彼女の頬に優しくかかっている。無防備で幸せそうな寝顔に、アリシアは自然と頬が緩んだ。まるで壊れ物を扱うようにそっとキスティーの頭を撫でると、彼女を起こさないように静かにベッドから抜け出した。
ベッドから降りたアリシアは、自分の服を広げ、ゆっくりと身支度を始めた。
旅の間も常に清潔を心がけているアリシアは、まず洗面台へと向かい、顔を洗い、歯を磨いた。冷たい水が、まだ眠気の残る体をしゃきっとさせてくれる。
次に、銀色の髪を丁寧にブラッシングした。腰まで届く長い髪は、手入れを怠るとすぐに絡まってしまう。一本一本、優しく、しかし確実にといていく。櫛が髪を滑るたびに、さらさらと柔らかな音が部屋に響いた。絡みがなくなり、艶やかな光を放つまで磨き上げると、アリシアは満足そうに微笑んだ。
最後に、シンプルなワンピースに着替える。淡い水色の生地が、彼女の白い肌と銀色の髪に美しく映える。鏡に映る自分の姿をもう一度確認し、準備が整ったことを確認した。
「よし!今日もいつもの私で頑張るわよ!」
鏡に映る自分に微笑んだ。
準備が整うと、アリシアはベッドに戻り、まだ夢の中にいるキスティーの髪を優しく撫でた。
「キスティー、朝よ。」
優しく声をかけるが、キスティーは身じろぎ一つしない。
「キスティー、ご飯よ。」
もう一度、少しだけ声を張り上げてみる。すると、キスティーのまぶたがわずかにピクッと動いた。だが、それも一瞬で、また深い眠りへと逆戻りだ。
アリシアは、ふふっと笑みをこぼすと、最後の手段に出る。
「キスティー、お菓子全部食べちゃうわよー!」
その言葉を聞いた瞬間、キスティーの目がカッと見開かれ、勢いよくベッドから飛び起きた。
「ダメー!お菓子食べる!」
そう叫んで飛び起きると、部屋の中をキョロキョロと見回す。そして、自分の目の前に広がる、お菓子などどこにもない光景に、首をかしげた。
「あれ?お菓子…?」
まだ寝ぼけているキスティーの様子に、アリシアは笑いながら言った。
「おはよう、キスティー。」
「あ…アリシア、おはよう!」
キスティーは、アリシアの優しい笑顔を見て、ようやく朝が来たことを認識したようだ。ニコッと笑い返すと、昨日の冒険の記憶が蘇ったのだろう、瞳をキラキラと輝かせた。
「さあ、今日は自由行動よ。お母様たちにお土産たくさん買いに行きましょう!」
アリシアが楽しげにそう言うと、キスティーも嬉しそうに頷いた。
「うん!急いで支度するね!」
そう言って、キスティーは部屋の中をバタバタと動き回り始めた。まず、着替えを入れてきたバッグから適当に一枚を手に取ると、勢いよく頭からかぶった。しかし、慌てていたためか、服は前後ろ逆になっている。それに気づかず、靴下も左右バラバラに履いてしまい、部屋の中をクルクルと回って楽しんでいた。
「キスティー、待って!服が逆よ。」
アリシアが優しく声をかけると、キスティーは不思議そうに服を見つめ、やっと間違いに気づいた。
「あれ?ほんとだ!」
結局、いつものようにアリシアに手伝ってもらいながら身支度を整える。
「キスティー、ちゃんと髪とかすわよ。こっち来て。」
アリシアがそう言うと、キスティーは素直にアリシアの前に座った。アリシアは慣れた手つきで、キスティーの癖っ毛を丁寧にすいてやる。
「ありがと、アリシア!」
「どういたしまして。」
アリシアが微笑むと、ちょうど部屋の外からギルの声が聞こえてきた。
「まだかー!」
ギルはもう、待ちきれないといった様子で、廊下をウロウロしている。
「おまたせー!」
キスティーが元気いっぱいに廊下に出ると、ギルは呆れたように言った。
「おせーよ。もうとっくに朝めしの時間過ぎてるぜ。」
「女の子は時間がかかるものよ。」
アリシアがそう言って部屋から出てくると、ギルは首をかしげながら言った。
「そうなのか?」
「うん、そうだよ!」
キスティーが力強く頷く。ギルは、そんな二人の様子に、少しだけ照れくさそうに笑った。
宿の扉を開けると、街の活気と、様々な美味しそうな匂いが、彼らを包み込んだ。きっと街路には、色とりどりの露店が立ち並び、行き交う人々で賑わっているだろう。遠くからは、鍛冶屋のハンマーの音が聞こえ、パン屋からは甘い香りが漂ってきた。
「さあ、街に行こう!」
キスティーが楽しそうに先頭を歩き出した。
「お昼には少し早いから、今日は街でブランチにしましょうか。」
アリシアが、にこやかに提案する。
「わーい!何食べようかな?」
キスティーは、もう頭の中は食べ物のことでいっぱいだ。
「肉だな!肉!」
ギルも、ここでの食事がよほど美味しかったのか、肉を連呼していた。
三人は、賑やかな街並みを歩きながら、何を食べようか、どんなお土産を買おうか、楽しそうに話していた。彼らの周りを、好奇心に満ちた子供たちが、まるで、この街にいる誰もがそうであるかのように、楽しそうに走り回っている。その光景は、彼らが昨日過ごした、薄暗いジメジメした洞窟の出来事とは、まるで別の世界にいるかのようだった。
三人の足取りは、とても軽やかだ。太陽の光が、彼らの顔を明るく照らし、その笑顔を一層輝かせていた。これから始まる、街でのお買い物に、彼らの心は期待に満ち溢れていた。




