第68話 ストラーイク!
三人は、自分たちの「遊び」の勝利に、心から満足し、はしゃいでいた。しかし、そんな平和な時間は長くは続かなかった。白い粉の山と化した骸骨兵たちの残骸の中から、ゴソゴソと音がした。そして、一体の骸骨が、ゆっくりと立ち上がる。
それは、伝説の魔術師サイオンだった。
かろうじてまだ動けるらしいその姿を、一番最初に察知したのは騎士団長だった。彼の顔は、再び絶望で青ざめる。
「ま、まだ動いているぞ!逃げろ!」
騎士団長は、震える声で叫んだ。同時に、サイオンは、土の高位魔法を放つ。それは、まるで鋭い矢のような土の塊となり、まっすぐにキスティーたちを襲った。土の矢は、空気抵抗を無視して、恐るべき速度で迫る。その威力は、並みの騎士の盾を容易く貫通し、鎧ごと肉体を粉砕するだろう。
「ダメだ!避けて!」
レイエスは、絶望的な声で叫んだ。
騎士団長は、咄嗟にレイエスたちの前に立ちはだかる。
「殿下、お下がりを!」
彼の心は、もう恐怖で満ちていた。リリアナは、再び骸骨が動くのを見て、悲鳴を上げて卒倒した。
しかし、三人の子供たちは、そんな大人たちの様子に全く気づいていなかった。彼らは、ただ勝利の余韻に浸り、楽しそうにはしゃいでいる。
土の矢が三人に届く、もうダメだと誰もが絶望したその瞬間、アリシアの周りを犬のように、ちょこちょことついて回っていた自立型のミニゴーレムが、軽やかにジャンプした。
コツン…
小さな音がして、土の矢は、頭突きで粉々に砕け散った。
その光景を見たアリシアは、まるで当然のように、ミニゴーレムの頭を優しく撫でた。
「あら!お利口ね!」
レイエスと騎士団長は、その信じられない光景に、ただただ唖然としていた。彼らの口からは、声一つ出なかった。伝説の魔術師が放った高位魔法が、小さな粘土の人形によって、いとも簡単に打ち砕かれたのだ。彼らの思考は、完全に停止していた。
彼らの脳裏には、「伝説の魔術師」という言葉と、「粘土の人形」という言葉が、まるで壊れたレコードのように、何度も何度も繰り返されていた。彼らがこれまで信じてきた世界の法則が、目の前で崩れ去っていくのを感じた。
そして、ようやくキスティーたちは、まだ動いているサイオンの骸骨に気づいた。
「あれ?まだ『ピン』が1本残ってたよ!」
キスティーは、不思議そうに首を傾げた。彼女にとって、サイオンは、恐ろしい魔術師ではなく、ただの倒すべき「ピン」でしかなかった。
「じゃあ順番だから私の番!でももう『球』ないね…」
あたりを見渡しても、骸骨兵は白い粉と化し、「球」になるようなものはもうどこにも見つからなかった。
「仕方ないから、おじさんゴーレムで力比べしてくるね!」
キスティーは、そう言うと、アリシアとギルに向かって、満面の笑みで言った。
「頑張ってね!」
アリシアは、優しく微笑んだ。
「負けたら次は俺な!」
ギルは、少し残念そうにしながらも、期待に満ちた目でキスティーを見つめた。
「よーし!行くよー!」
キスティーとシンクロしたおじさんゴーレムが、猛スピードでサイオンに向かって駆け出した。
サイオンは、再び魔法を繰り出す。しかし、おじさんゴーレムは、それを全くものともせず、その分厚いお腹で全て弾き返した。まるで、子供の遊びのように、サイオンの魔法は、全く通用しなかった。
そして、おじさんゴーレムは、そのままサイオンに体当たりを仕掛け、伝説の魔術師サイオンの骸骨は、白い粉となって砕け散った。
「ストラーイク!やっぱりボーリングは楽しいね!」
キスティーは、そう言って、アリシアとギルに向かって飛び跳ねて喜んだ。
「うん!綺麗なストライクだったわ!」
アリシアは、微笑んで言った。
「外せば俺の番だったのになー。」
ギルは、残念そうに言ったが、彼の顔は満足げで、本当に楽しそうだった。
レイエスは、その光景を、ただただ見つめていた。彼の脳は、もう理解することを拒絶していた。
「…わからない…ゴーレムのお腹で全ての魔法を弾いた?伝説の魔術師だぞ…子供の作ったゴーレムに負けたのか…工作用粘土…」
疑いたくなるような光景が、現実に目の前で繰り広げられていた。彼の頭は、混乱の極みに達していた。
リリアナは、まだ起きず、寝言を言っていた。
「ん…んん…、レイちゃん…絶対髪は輝くブロンドよ…銀なんてあり得ないわ……女狐なんて…んん…」
彼女は、夢の中でもアリシアについて何か言っているらしい。彼女の無意識の言動が、彼女の嫉妬心と、レイエスに対する愛情、執着を、皮肉にも露呈させていた。
騎士団長は、もはや言葉も出なかった。彼の表情は、恐怖と絶望から、無表情へと変化していた。まるで、魂が抜けてしまったかのようだった。
「…わからない…わからない…わからない…」
彼の頭の中には、この洞窟で起きた出来事が、何度も何度も、繰り返し浮かんでは消え、浮かんでは消え、その度に、答えは「わからない…」という、絶望的な言葉しか浮かばなかった。彼の心労は、もはや精神的な限界を超えていた。
三人の子供たちにとって、この洞窟での出来事は、ただの楽しい「遊び」に過ぎなかった。しかし、大人たちにとっては、これまでの常識を根底から覆される、悪夢のような時間だった。彼らの「遊び」の先には、一体何が待ち受けているのだろうか。




