第66話 恋のライバルだからねー
三人の子供たちの「遊び」は、大人たちの絶望的な状況とは全く関係なく、着々と進行していた。ギルの番が終わり続くのは、アリシアの番だ。
「アリシアー!次はアリシアの番だよー!」
キスティーが、少し離れた場所から大声でアリシアを呼んだ。彼女の声は、まるでピクニックで友達を呼ぶかのように明るい。
「わかったわ!でもちょっとまってて!」
アリシアはそう答えると、にこにことした笑顔で、レイエスたちが身を潜める岩陰へと小走りで行った。彼女の無邪気な様子に、レイエスは、一体何をしにくるのかと予想もつかなかった。騎士団長は、この状況で子供たちが何を考えてるか皆目見当がつかず、にこにこ走ってくるアリシアを剣を構えたまま、困惑した眼差しで見ていた。
アリシアは、レイエスの前に立つと、意識してしているわけではないが、おねだりをするように、自然と上目遣いで彼を見上げた。
「あの…レイエス殿下…おねがいがあるんですけど…」
その仕草に、レイエスはドキッとした。彼の心臓は、恐怖とは違う、不思議な高鳴りを覚えた。
「な、何だろうか…できることなら協力しよう。」
レイエスは、そう言って、強張らせていた顔を必死に戻し、優しく微笑んだ。
アリシアは、彼の言葉に、さらに顔をほころばせた。
「ホントですか?それじゃあ、先ほど集めたダイヤモンド、少しお借りできませんか?」
その言葉に、レイエスは驚いたが、すぐに納得した。これは彼女たちの物だとはじめから決めているからだ。
「あ、ああ…あれか、構わないよ。君たちの物だしね。」
レイエスは、そう言って、伝説のアイテム「マジックボックス」を懐から取り出した。
「ありがとうございます!」
アリシアは、嬉しそうに手を伸ばした。その際、彼女のサラサラの銀色の髪が、レイエスの腕に抱えられているリリアナの頬に、かすかに触れた。
その感触に、リリアナの意識が、瞬時に覚醒した。彼女は目を見開き、目の前にいるアリシアを認識すると、彼女の手を、凄まじい力で掴んだ。
「きゃ!いたっ!」
アリシアはその力の強さに涙目になった。
「ちょっと!何してるのよ!私が気を失ってるからって、その隙にレイちゃんとイチャイチャしようだなんて!何?その潤んだ瞳で誘惑するような目つき!薄暗いからって手伸ばして、何しようとしてたのよ!色仕掛?このいやらしい銀髪女狐!」
リリアナは、ヒステリックにまくしたてた。その声は、洞窟の中に響き渡り、骸骨兵たちさえも、一瞬動きを止めたかのように見えた。
アリシアは、あまりの剣幕に、たじろいだ。
「あの…そんな事は少しも…」
今にも泣きそうな顔で彼女は言い訳をしようとしたが、リリアナは、その言葉を遮った。
「だまりなさい!何言っても無駄よ!あなたのしようとすることなんて全てお見通しなんだから!レイちゃんとの、あんなことや、こんなこと、いつも考えてるんでしょ?どんだけいやらしいの?このはしたない銀髪女狐!」
アリシアは、もう何も言えなくなった。彼女の心は、叩きのめされていた。どうして、こんなにも怒鳴られなければならないのだろう…?
リリアナは、さらにまくしたてていた。
「だいたい何?私がここにいるのに近づくなんて!そもそも…」
しかし、その言葉は、途中でピタリと止まった。
彼女の視線が、掴んだ手とは逆のアリシアの手に向けられた。そこには、彼女が卒倒した原因となった、忌まわしい骸骨の頭が、愛おしそうに抱えられている。その目と、リリアナの目が合った瞬間…
「いやあああああああああ!!!」
洞窟が揺れるほどの、すさまじい悲鳴が響き渡り、リリアナは再び意識を失った。
アリシアは、少しの申し訳なさはあったものの、心の底からホッとした。このままでは、いつまで言い争いが続くか分からなかったからだ。
「レイエス殿下、お借りしますね!」
アリシアは、そう言って、マジックボックスからダイヤモンドを取り出した。
「アリシアー!まだー?」
洞窟の先から、キスティーの声がした。口を尖らせて、待ちきれないといった様子だ。
アリシアは、小走りでキスティーとギルの元へ戻った。
「ごめんね…ちょっと時間かかっちゃった…リリアナ様に捕まってて…」
アリシアは、申し訳なさそうに言った。
「アリシアは恋のライバルだからねー。」
キスティーは、アリシアの顔を覗き込み、からかうように笑った。
「もう!そんなんじゃないわ!どうしたらいいのかしら…」
アリシアは、真剣に悩んだ。彼女にとって、リリアナのヒステリックな言動は、理解を超えていた。なぜこんなことにと、全く思い当たる節がない。
キスティーは、そんなアリシアの様子を見て、くすくすと笑った。
アリシアは、気を引き締め直した。
「ちょっとまってて、すぐに準備するから!」
そう言って、彼女は、手の中のダイヤモンドを見つめた。
一方、レイエスは、意識を失ったリリアナを抱え直し、深いため息をついた。
(リリアナが起きた時はどうなるかと思ったが、ひとまずおさまったか…)
何も変わらない絶望的な状況だが、目の前の修羅場が落ち着いたことに、レイエスは安堵した。
騎士団長は、頭を抱えていた。
「このような時に色恋沙汰など…しかし、ダイヤモンドをどうするのだ…?ばらまくのか?骸骨兵を買収するのか?…わからない…」
彼の思考は、もう限界だった。彼は、この状況を打開する知恵を、もはや持ち合わせていなかった。子供たちの行動は、彼の理解を遥かに超えていた。
(この子たちは…一体…この先何をしようとしているのだ…?私は殿下を、リリアナ様を無事に帰還させられるのだろうか…)
彼は、ただ、頭を抱えて、絶望的な気分に浸るしかなかった。




