第65話 もう…ダメだ…
キスティーの一投がもたらした衝撃的な結果に、レイエスと騎士団長は、ただただ呆然と立ち尽くしていた。しかし、そんな大人たちの困惑をよそに、子供たちの「遊び」はまだまだ続いていた。
「次は俺の番だ!」
ギルは、そう言って、穴に指を入れ、両手で「球」を構えた。彼の顔には、キスティーに負けられないという、純粋な闘争心がみなぎっていた。
レイエスは前のめりになり、目を見開いていた。
「なんだ…まだ続くのか…希望と成り得るのか?」
「殿下!出すぎです!どうかお下がりを…」
騎士団長は、再び必死な声を上げた。彼の顔は、もう絶望に満ちていた。彼の脳裏には、先ほどキスティーが起こした、常識ではありえない光景が焼き付いている。今度は、あのギルが、一体何を…?彼の心は、恐怖で激しく震えていた。
しかし、ギルは、レイエスや騎士団長の思いなどまったく理解などしていない。ただ「遊び」に夢中なだけだ。彼は、骸骨兵の群れを前に、ニヤリと笑った。
「俺の渾身の一投よく見とけよ!よし行くぞー!」
ギルは、そう叫ぶと、助走をつけ、全身の力を込めて「球」を投じた。その動きは、まるで何年もボーリングをしてきた熟練の選手のような完璧なフォームだった。彼の小さな体からは、想像もつかないほどの純粋な馬鹿力が溢れ出し、「球」に乗り移っていく。
ドゴォォォォォン!
重く投じられた「球」は、轟音と共に、地面を滑っていく。その勢いは、キスティーの「球」とはまた違う、重厚な破壊力を伴っていた。「球」は、センターを少し外し、右へと向かった。
バキバキバキッ!ゴゴォォォォ!
「球」である頭蓋骨が「ピン」の骸骨兵の群れに突っ込んだ瞬間、再び凄まじい音が響き渡った。右側に並んでいた骸骨兵たちが、まるで巨大な岩で押し潰されたかのように、次々と砕け散っていく。しかし、骸骨兵たちは、先ほどのキスティーの「球」から学習したのか、盾を持った兵士を何重にも並べ、「球」の勢いを殺そうと試みた。
ギルの「球」は、次々と立ちはだかる盾を打ち砕き、骸骨兵たちを粉砕していく。しかし、十体、二十体と、盾を持った骸骨兵たちが立ちはだかるうちに、ついにその勢いを失い、最後は、何体もの骸骨兵に剣で一斉に叩き割られた。
「ちくしょー!真ん中外したー!」
ギルは、悔しそうに地団駄を踏んだ。彼の顔には、あと一歩だったという悔しさが滲み出ている。
「結構倒れたけどな。」
彼は、そう言って、少しだけ満足げな表情を浮かべた。
そんなギルの様子を、ニヤニヤしながら見ていたのはキスティーだった。
「ギル?私の方が「ピン」たくさん倒れたよね?」
キスティーは、そう言って、得意げにギルに問いかけた。
「…うぐっ…」
ギルは、言葉に詰まった。悔しくて、何も言い返せない。
「私の勝ちだね!」
キスティーは、満面の笑みで、勝利を宣言した。その無邪気な笑顔は、ギルの悔しさを、さらに深くした。
「くそー…!」
ギルは、すごく悔しがり、再び地団駄を踏んだ。
アリシアは、そんな二人のやり取りを、楽しそうに笑って見ていた。彼女は、勝敗などどうでもよかった。二人が楽しそうにしている、ただそれだけで、彼女は幸せだった。
レイエスは、そんな三人の様子を、岩陰から呆然と見守っていた。彼の脳は、この信じられない光景を、全く処理することができなかった。
(ま、まただ…!今度は、ただの馬鹿力だけで、骸骨兵を…!一体、この子たちは…!やはりこの国の希望と成りうる存在…)
彼の心は、恐怖と、そしてわずかな希望で、複雑に揺れ動いていた。
騎士団長は、この現実を、もはや受け止めきれなかった。彼の脳裏には、伝記の中で何度も読んだ、この国の歴史で最強と謳われた騎士たちが、死者の群れに挑み、そして敗れ去っていった悲劇の話の光景が蘇っていた。そのような絶望的な光景が目の前に広がっている。はずなのに…。それを、たった二人の子供が、遊びのように…しかも、骸骨の頭を投げるだけで、軽々と打ち破っているのだ。
「なんだ…伝記は所詮、ただのおとぎ話なのか…ああ…もう…ダメだ…何が真実なのか…わからない…」
騎士団長は、震える声で呟くと、その場にへたり込んでしまった。彼の心労は、もう限界突破寸前だった。
(私は…何のために…?この剣は…何のために…?)
彼は、自分の存在意義さえ見失い始めていた。
そんな大人たちの葛藤をよそに、アリシアは、二人の投じた結果を、冷静に分析していた。彼女の目は、ギルが砕き散らした骸骨兵たちの残骸と、未だに立ち尽くしている、無傷の骸骨兵の群れを交互に見つめていた。
「二人とも勢いはあったのに、後ろまで届かなかったわね…」
アリシアは、そう呟くと、考え込んだ。
「ということは、こちらの『球』の強度が弱いのね。どうしようかしら?」
彼女は、そう言って、周囲をぐるりと見渡した。彼女の視線は、レイエスと騎士団長がいる岩陰へと向かう。
レイエスは、その視線に、ハッとした。
「…な、なんだ?今、こちらを…?」
レイエスは、心臓がドキッと高鳴るのを感じた。アリシアの目は、まるで、何か面白いものを見つけたかのように、きらきらと輝いている。その視線に、彼は、得体のしれない不安を感じた。
「殿下!そんなところまで出ては危険です!何をしてるのです!早くお下がりを!」
騎士団長は、レイエスの動揺を察し、慌てて声をかけた。彼の顔は、恐怖で歪んでいた。
レイエスは、その言葉に、はっとして、再び岩陰に身を潜めた。彼の心は、困惑していた。一体、アリシアは、何を思いついたのだろうか?なんであんなにきらきらした瞳でこちらを見ていたのだろうか?不安しかなかった。




