第61話 動いたー!
お菓子で栄養補給を終えた三人の子供たちは、再び元気を取り戻し、楽しそうに洞窟の奥へと進んでいった。
「ねえ、次は何があるのかな?」
キスティーは、無邪気な声でそう言い、先頭に立って歩いた。ギルは、その後ろで、拳を握りしめながら周囲を警戒していた。
「また、お宝が隠れてるといいな!」
「きっと、もっとすごいお宝が眠ってるわよ!」
アリシアも、好奇心に満ちた目で、洞窟の奥を見つめていた。
そんな彼らの後を、レイエスがついていく。彼の隣には、相変わらずリリアナがぴったりとくっついていた。
「レイちゃん、まだ歩くの…?私、もう疲れたわ…」
リリアナは、そう言って、レイエスの腕にさらに強くしがみついた。レイエスは、そんな彼女をなだめながら、一歩ずつ進んでいく。
そして、彼らの前を、騎士団長が、疲労困憊の体に鞭を打ち、警戒しながら進んでいた。彼の心労は、もう限界を遥かに超えていたが、それでも、この国の未来の王と后を、そして殿下が連れてきた子供たちを守るために、彼は進まなければならなかった。
しばらく進むと、洞窟の床に、ちらほらと骨のようなものが転がっているのが目に付いた。何の骨かは分からないが、人間の骨のようなものも混じっているように見えた。
「あれ…なにか落ちてるよ…?」
キスティーが、不思議そうに骨を指差した。しかし、彼女は、それが何であるかを、まだ理解していなかった。
「な、なによ…あれ…」
リリアナが、その骨を見て、顔を青ざめさせた。
「レイちゃん…もしかして…ここは…まずい場所なんじゃない…?」
リリアナの言葉に、レイエスも、その通りだと感じていた。彼の脳裏には、騎士団長の言葉が蘇っていた。
(あの洞窟に、足を踏み入れた者は、二度と戻れない…!)
レイエスは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。
「…騎士団長…」
レイエスが、声をかけると、騎士団長は、眉間にしわを寄せ、周囲を警戒しながら、静かに答えた。
「はっ…殿下。この感じ…奥に…何かが…」
騎士団長は、そう言って、剣の柄を強く握りしめた。彼の全身から、緊張感が張り詰める。
しかし、子供たちは、そんな大人たちの心情など知る由もない。
「なんだろう?お宝かな?」
キスティーは、骨を拾い上げようとした。その瞬間、アリシアが、慌ててキスティーの手を掴んだ。
「ダメよ、キスティー!何でもかんでも拾っちゃ!」
アリシアは、、まったくもう、と言った感じで、キスティーを軽く叱った。
洞窟の奥へと進むにつれて、空気は、まるで人の魂が纏わりつくかのように冷たくなっていった。レイエスは、その冷気に、身を震わせた。
「な、なんだ…この空気は…」
レイエスは、リリアナをさらに強く抱きしめた。リリアナの体は、恐怖に震えていた。
「いや…いやよ!レイちゃん…!早く、ここから出ましょう…!」
リリアナは、半泣きでレイエスに訴えた。
騎士団長も、その異様な空気に、顔を青ざめさせていた。
「殿下…!これは危険すぎます!すぐに引き返さねば…!」
騎士団長が、レイエスに撤退を促そうとした、その時だった。
子供たちは、そんな大人たちの焦りなど知らず、さらに奥へと進んでいった。
「うわぁ!すごーい!たくさんあるよ!」
キスティーが、楽しそうに叫んだ。その声に、レイエスたちは、嫌な予感を覚えながらも、子供たちの後を追った。
そして、少し開けた場所に出た、その時。
彼らの目の前に広がっていたのは、紛れもなく、骸骨の山だった。
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」
リリアナの悲鳴が、洞窟に響き渡った。彼女は、その光景に、恐怖のあまり、レイエスにしがみついたまま、腰を抜かしてしまった。
レイエスも、その光景に言葉を失った。騎士団長は、顔を真っ白にして、氷のごとく、その場で固まっていた。
骸骨の山…それは、人間だけでなく、様々な魔物の骨も混じっていた。その中には、騎士の鎧を身に着けた骸骨も、無数に転がっていた。
「ま…まさか…この骸たちは…この洞窟に挑んで…」
レイエスは、震える声で呟いた。彼の脳裏には、この洞窟の恐ろしい伝説が蘇っていた。
(王家の墓の裏にある、古い洞窟…手がつけられないほどの凶悪な魔物が巣食い、多くの騎士が挑み、命が失われたために、やむを得ず封印されたという、『呪われた洞窟』…!)
騎士団長は、その光景を前に、涙を流していた。
「あ…ああ…!やはり…!ここは…!」
騎士団長は、震える声で、この場所が、伝説に語られる『呪われた洞窟』であることに間違いないと、レイエスに告げた。
「な、なによ…!怖い…!レイちゃん、帰ろう…!早く…!早く帰りましょう…!もう、ダイヤモンドだけで十分よ!」
リリアナは、恐怖のあまり、レイエスの腕にしがみついたまま、ぶつぶつと呟き続けた。
そんな大人たちの恐怖をよそに、子供たちは、相変わらず楽しそうだった。
「すごい!お骨がいっぱいだ!」
キスティーは、そう言って、骸骨の山を指差した。
「おい、キスティー!お前、そんなこと言って、怖くねえのかよ!」
ギルが、そう言って、拳を握りしめた。しかし、彼の目には、恐怖の色は一切なかった。
「だって、お骨だよ?動かないもん!」
キスティーは、そう言って、屈託のない笑顔を見せた。
「こんなにたくさんの人が、ここで戦って、眠ってるんだよ…きっと、すごく強い人たちだったんだろうね。」
アリシアは、そう言って、骸骨の山を静かに見つめていた。
その言葉に、レイエスは、ハッと我に返った。彼の心には、恐怖とは違う、新たな感情が芽生え始めていた。
(この子たちは…ここを…死の場所ではなく…英雄たちが眠る場所に…?)
レイエスは、子供たちの視点に、驚きと感嘆を覚えていた。
実際のところは、キスティーたちはそんなこと一切思っておらず、ただの遊び場としか見ていなかった。
「レイちゃん…どうするの…?」
リリアナが、震える声で尋ねた。
レイエスは、リリアナの手を優しく握りしめると、静かに口を開いた。
「大丈夫だ。きっと…何も怖いことなんてないさ…彼らと騎士団長がなんとか…」
騎士団長はその言葉に、思考が停止した。撤退以外の選択肢とはいったい…?
レイエスのそんな言葉キスティーたちには聞こえておらず、はしゃいでいた。
しかし、その時だった。
骸骨の山が、まるで生きているかのように、ガタガタと音を立て始めた。
「な…何…!?」
リリアナが、再び悲鳴を上げた。
骸骨たちが、まるで操られているかのように、ゆっくりと、しかし確実に、立ち上がろうとしていた。
レイエスは、その光景に、絶句した。
「ま…まさか…!」
騎士団長も、その光景を信じられないといった表情で見ていた。彼の脳裏には、最悪のシナリオが蘇っていた。
「死者…!この場所は…死者が…!」
騎士団長は、そう叫んで、剣を構えた。
「いやああああ!」
リリアナは、動く骨を見て卒倒し、レイエスにこれでもかと言う力でしがみつき、失神した。
三人の子供たちは、骸骨が立ち上がる光景を、まるで新しい「遊び」が始まったかのように、目を輝かせて見つめていた。
「うわあ!お骨さん動いたー!」
「すごいわ!よくできてるわね!」
「ねえ、ギル!今度は、お骨さんたちと、力比べする?」
キスティーの言葉に、ギルは、にやりと笑った。
「おう!受けて立つぜ!」
レイエスたちは、後ろの岩陰から、息を潜めて見守るしかなかった。




