第58話 あれ…欲しい!
ギルは、ゴーレムとの力比べに集中していた。彼の全身から力が溢れ出し、荒い息を吐きながらも、決して諦めなかった。
「うおおおおお!」
ギルは、最後の力を振り絞って、ゴーレムの巨体を押し出した。ゴーレムは、ギルの力に耐えきれず、ついに円の外へと押し出され、そのまま洞窟の壁に叩きつけられた。
ドゴォォォォォン!
轟音とともに、ゴーレムの巨体が壁に激突し、辺り一帯に土煙が舞い上がった。
「やったー!」
ギルは、力こぶを作り、満面の笑みで勝利を叫んだ。
「すごいー!ギル、すごいよー!」
キスティーとアリシアも、歓声を上げてギルに駆け寄った。ギルは、二人の称賛に得意げに胸を張った。
「だろー!俺にかかれば、ゴーレムだってこの通りだぜ!」
そんな三人の様子を、レイエス、リリアナ、そして騎士団長は、ただただ呆然と見つめていた。彼らの脳裏には、ゴーレムの巨体が壁に激突する、信じられない光景が焼き付いていた。
「…い、今の…何よ…?」
リリアナは、恐怖に顔を歪ませながら、掠れた声で呟いた。レイエスは、言葉を失い、ただ目の前の土煙を見つめるしかなかった。
「はっ…まさか…ゴーレムは…!」
騎士団長が、何かを叫ぼうとしたその時、土煙の中から、ボロボロと岩の体が剥がれ落ちる音が響いた。
ゴゴゴゴゴゴゴ…
ゴーレムは、まだ生きていた。いや、むしろ、先ほどよりも巨大な魔力を放ちながら、再び立ち上がろうとしていた。
「え…まだ起きるの…?」
キスティーが、驚いたように目を丸くした。
ボロボロと剥がれ落ちていく体の土が、まるで鱗のように砕け散っていく。そして、その下から現れたのは、光を反射し、虹色に輝く、全身金剛石で覆われた、まばゆいばかりのゴーレムの姿だった。
「うわあ…!」
アリシアが、思わず感嘆の声を漏らした。
「すごーい!ついにお宝登場だね!!」
キスティーは、目をキラキラと輝かせ、大はしゃぎした。彼女にとって、それは、ゴーレムという遊び相手が、お宝というご褒美に変わった瞬間だった。
「うおおお!すげえ!全身宝石じゃねえか!」
ギルも、興奮を隠せない。彼の目には、もう力比べの相手ではなく、まばゆいばかりの輝きを放つ、巨大な宝の山にしか見えなかった。
三人の歓声が、洞窟の中に響き渡る。しかし、レイエスたちの心は、絶望の淵に突き落とされていた。
「あれは…なんだ…?」
レイエスは、震える声で呟いた。彼の知るゴーレムの知識には、全身が金剛石でできたゴーレムなど、存在しなかった。
「レイちゃん!見て!綺麗…!私…あれ…欲しい!」
リリアナは、恐怖も忘れて、キラキラと輝くゴーレムを指差した。彼女の心は、もはや恐怖よりも、目の前の美しい宝石への物欲が勝っていた。
「リリアナ様!お止めください!あれは…!まさか…ダイヤモンドゴーレム…!」
騎士団長は、顔を真っ青にして叫んだ。彼の脳裏には、騎士学校の歴史の授業で、教師が震える声で語った、一つの大厄災の記憶が蘇っていた。
「それは、古代の魔術師が作り上げた、最強にして最悪のゴーレム…!その魔力は、一国の軍隊を一夜にして壊滅させるほどで、暴走した際には、王都を壊滅させかけた…!」
騎士団長は、震える声で、その伝説をレイエスに告げた。彼の心には、王都が、そしてこの国の未来が、今、この場所で、終わるかもしれないという、途方もない絶望が渦巻いていた。
そんな大人たちの絶望をよそに、キスティーは、再び「遊び」の続きを始めた。
「じゃあ、次は私ね!」
キスティーは、そう言って、先ほど作ったおじさんゴーレムを、ギルが叩きつけた場所から少し離れた、円の中央に立たせた。そして、アリシアに顔を向けた。
「ね、アリシア、お願い!」
「どうしたの?」
「あのね…おじさん、私の大きさくらいに大きくしてくれない?私、たぶん丁度よくできない気がして…へへ。」
キスティーは、そう言って、困ったように頭をかいた。自分でも細かいのが苦手なのは理解はしているようだ。前にアリシアと作って遊んだ時は、家の中で大きくして、大きくなりすぎて、天井に穴を開けてしまったからだ。
「もう、仕方ない子ね。」
アリシアは、そう言って、キスティーの頭をポンッと軽く叩き、優しく微笑んだ。その表情は、まるで姉が妹をたしなめるようだった。
アリシアは、おじさん人形に向かって、軽く指をかかげた。すると、信じられない光景が、再び彼らの目の前で繰り広げられた。
「うわあああ…!」
リリアナが悲鳴を上げた。おじさんゴーレムは、まるで風船が膨らむかのように、みるみるうちに大きくなっていった。そして、キスティーと全く同じくらいの背丈になると、その膨張はぴたりと止まった。
「ふう…よし、これで大丈夫ね。」
アリシアは、満足そうに頷いた。
「じゃあ、第二試合、開始よ!」
アリシアが、そう言って、にっこりと笑った。
「よーし!頑張るぞー!」
キスティーは、自分の分身となった、巨大なおじさんゴーレムを前に、元気いっぱいに叫んだ。
その光景に、レイエスは言葉を失った。
「い…今…何を…?指を掲げただけで…人形が大きくなっただと…?」
彼の脳は、この信じられない光景を、全く理解することができなかった。
「ま、まさか…戦うのか…?あのダイヤモンドゴーレムと…勝てるのか…?」
レイエスは、口をパクパクとさせながら、震える声で呟いた。
「レイちゃん!私、ダイヤモンドが欲しいの!絶対手に入れてね!」
リリアナは、そんなレイエスの心情など知る由もなく、目をキラキラと輝かせながら、彼の腕を揺さぶった。
「終わりだ…王都は…終わりだ…」
騎士団長の目には、もう目の前の光景は映らず、そのゴーレムが王都を焼き尽くす光景がありありと目に浮かび、絶望的な声で呟いた。彼の心は、もはや限界を超えていた。
そんな大人たちの絶望をよそに、三人の「遊び」は、さらに加速していく。彼らにとって、目の前の光り輝くゴーレムは、ただの「お宝」に過ぎなかった。




