第52話 宝物がいっぱいあるの?
豪華な朝食を終えた三人は、広間のソファーでくつろいでいた。一足先に到着していた騎士団長は離れた場所で、心労でげっそりと痩せた顔で彼らを見守っている。
「いやー、食った食った!やっぱ王都のご飯は最高だな!」
ギルは満腹そうに腹をさすりながら、満足げにソファーに深く座り込んだ。
「うん!蜂蜜たっぷりパンケーキ、最高だったー!」
キスティーも満面の笑みで頷く。しかし、アリシアだけは浮かない顔で、うつむき加減で黙っていた。そんなアリシアの様子を見て、キスティーとギルは顔を見合わせ、不安そうに声をかけた。
「どうしたの、アリシア?まだ何か心配してる?」
キスティーが尋ねると、アリシアはゆっくりと口を開いた。
「だって…昨日のことよ。本当に、国王陛下が私たちを許してくれたのかしら…?」
その言葉に、ギルとキスティーも表情を曇らせた。
「そうだよな…いくら王子様が言ってくれたからって、訓練場、めちゃくちゃにしちゃったし…」
ギルが震える声で呟くと、キスティーも不安そうにアリシアの手を握った。
「うん、…やっぱり捕まっちゃうのかな…」
「そ、そんなことないわよ!大丈夫よ!キスティーは何もしてないもの!」
アリシアはそう言いながらも、内心では不安でいっぱいだった。
「でも…もし、国王陛下が、やっぱりお前たちは危ないからって、私を閉じ込めるって言ったら…」
アリシアがそう言うと、ギルは首を横に振った。
「そんなの、させねえ!もしそんなことになったら、俺が騎士団の奴ら全員、ぶっ飛ばしてやる!」
ギルはそう言って拳を握りしめるが、アリシアは困ったように微笑んだ。
「ダメよ、ギル。このお城の騎士さんたち、みんなすっごく強そうだったわ…」
「うぐっ…それはそうだけどよ…でも…!」
ギルが言葉に詰まっていると、キスティーが泣きそうな声で言った。
「うー…どうしよう…帰りたい…コレットに帰りたいよー…」
その言葉に、三人の間に重苦しい空気が流れる。しかし、その空気を破ったのは、いつも騒がしいキスティーだった。
「うーん…だいたい、アリシアが悪いんだよ!あんなに怒るから、訓練場がめちゃくちゃになっちゃったじゃない!限度があるよね?」
「なっ…!何言ってるのよ!あなたが叩かれたから、私が怒ったんでしょ!そもそも、あなたとギルが最初に…」
「お、おい!俺は関係ねえだろ!」
「関係あるわよ!この話は船の穴から始まってるの!」
いつものように、三人の口論が始まった。広間いっぱいに子供たちの言い争う声が響き渡る。
「…もう!どうしてこうなるのよ!私はもう知らない!」
アリシアはそう言って、ソファーの背もたれに体を預け、ぷいっと横を向いてしまった。ギルもキスティーも、何も言えずに気まずい沈黙が流れる。
その様子を見て、騎士団長は深いため息をついた。
(ああ…本当に…この者たちは…)
彼の心労は、まだまだ尽きそうになかった。
三人がソファーで言い争いを始めた、ちょうどその時。
広間の扉がゆっくりと開き、レイエスが入ってきた。彼の姿を見た騎士団長は、ハッと我に返って飛び起きると、疲れ切った顔をできる限り正し、慌てて背筋を伸ばし、最敬礼をした。
「レイエス殿下!おはようございます…!」
レイエスは騎士団長の敬礼に軽く頷くと、三人のいるソファーに向かって優雅な足取りで歩み寄った。ギルとアリシア、キスティーは、レイエスの真剣な表情を横目で見ながら、石のように固まっていた。
「みんな、おはよう。昨夜はよく眠れたかい?」
レイエスが優しく声をかけると、三人は控えめに返事をした。
「お、おはよう…ございます…」
「…はい…おはようございます…」
「お…おはよう…です…」
レイエスは、そんな彼らの様子を見て、にこやかに微笑んだ。その笑顔は、昨日の訓練場で三人を庇った時のものと全く同じ、優しさに満ちたものだった。
しかし、三人はその笑顔を見て、逆に不安でいっぱいになった。
(やっぱり…捕まえに来たんだろ…!)
(国王陛下の前で、あんなにめちゃくちゃにしたんだから、当たり前よね…)
(王子様、笑ってるけど…怖いよ…)
アリシアは思わず、キスティーの手をぎゅっと握りしめた。ギルも、ソファーの背もたれに隠れるように身を潜める。
(どうしよう…今から、昨日壊した訓練場の修理代を請求されたりしたら…それとも…もっと恐ろしい場所に連れていかれるとか…?)
三人の脳裏に、捕縛された冒険者が連行される、恐ろしい地下牢の映像が浮かぶ。
「…そんなに怖い顔をしなくていい。君たちを捕まえたりなんかしないさ。」
レイエスは、三人の不安を察したかのように、穏やかな声で言った。
「むしろ、昨日は嫌な思いをさせてしまった。そのお詫びと言っては何だが…今日は、特別に洞窟探検に行かないか?」
「洞窟…ですか…?」
その言葉に、騎士団長が不思議そうに首を傾げた。
「そうだ。王家の墓の裏にある、古い洞窟なんだ。宝探しに行こう!」
レイエスがそう言うと、三人の顔は一瞬で輝きに満ちた。
「た、宝探し…!?」
「ほんと!?宝物がいっぱいあるの!?」
キスティーは、先ほどまでの不安などどこへ行ったのか、目を丸くして身を乗り出した。
「お、王子様…!本当に、宝探しに連れてってくれるのか!?」
ギルも興奮を隠せない。その瞬間、アリシアの心にあった不安も、すっかりどこかへ消え去っていた。
「ああ。きっと、まだ誰も見つけていないような、素晴らしいお宝が眠っているに違いない。」
レイエスは、まるで童話の王子様のように微笑んだ。
(やったー!お宝探しだー!)
(宝物って、どれくらいすごいんだろう!?)
(これで、コレットのみんなに、お土産をたくさん買って帰れるわ!)
三人は、まるで新しい「遊び」を見つけたかのように、瞳を輝かせた。
その光景を見て、騎士団長の顔は、みるみるうちに青ざめていった。
(洞窟…王家の墓の裏の…まさか…!)
騎士団長の脳裏に蘇ったのは、代々語り継がれてきた、王家の歴史の中で最も危険な場所とされる、一つの洞窟の記憶だった。
(あの…!手がつけられないほどの凶悪な魔物が巣食い、多くの騎士の命が失われたために、やむを得ず封印されたという、あの『呪われた洞窟』か…!?)
騎士団長は、いてもたってもいられず、レイエスに駆け寄って必死に止めようとした。
「レイエス殿下!お待ちください!その洞窟は…!」
しかし、レイエスは騎士団長の言葉を全く聞く耳持たず、楽しそうに三人に声をかけた。
「さあ、みんな!準備はいいかい?さっそく出発しよう!」
「うん!」
「いくぞー!」
「はーい!」
三人は元気いっぱいに返事をすると、それぞれ部屋に戻り、冒険の準備を始めた。
「レイエス殿下!どうか!どうかご再考を…!」
騎士団長は、彼らの行く末に、再び絶望的な不安を覚えるのだった。




