第49話 アリシアだけじゃないもん!
レイエスに案内され、三人は大広間の前に立った。扉が開くと、そこには息をのむほど豪華な食事が並べられた大きなテーブルが、部屋の中央に堂々と鎮座していた。
目の前に広がる光景に、三人はさっきまでの不安などどこへやら、感嘆の声を上げた。
「わー!すごい!すごい!」
キスティーは目をキラキラと輝かせ、テーブルに駆け寄ろうとする。そこには、金色のソースがかけられた大きなローストチキン、色とりどりの野菜が美しく盛り付けられたサラダ、そして見たこともない形をしたパンやデザートの山が並んでいた。
「うわあああ!おいしそう!全部食べられるの!?」
「おい!あれ見ろよ!あの肉、デカいぜ!」
ギルも興奮を隠せない。彼の視線の先には、骨付きの巨大な肉塊が盛られている。焼きたての香ばしい匂いが、三人の空腹を刺激した。
アリシアもまた、その光景に目を奪われていた。
「本当に…まるで絵本の世界みたい…」
彼女は、テーブルの隅に置かれた、花のように美しく飾られたフルーツタルトに目を留めた。こんなに豪華な食事は、生まれて初めてだ。
三人の無邪気な歓声を聞いて、レイエスはホッと胸をなでおろした。
(よかった…普通の子どもに戻ってくれたか…)
彼らの心にある傷を癒すには、やはり美味しい食事が一番だ。レイエスは、この食事が、彼らの心を少しでも穏やかにしてくれることを願った。
「さあ、席について。国王陛下がお待ちだ。」
レイエスに促され、三人はしぶしぶと席に向かう。しかし、その足取りは重い。テーブルの向かいには、すでに国王が穏やかな顔で座っていた。その威厳ある姿を再認識した途端、三人は再び緊張で固まってしまった。
「…ひゃっ!」
キスティーは思わず小さな悲鳴を上げ、アリシアの隣に身を寄せた。
「やっぱ、先にお説教なんだろうか…」
ギルが、震える声で呟く。
王様は、そんな三人の様子に気づくと、優しく微笑みかけた。
「さあ、遠慮はいらない。美味しい料理を、好きなだけ食べるがよい。」
その言葉に、三人は顔を見合わせる。
(え…怒らないの…?)
(あんなに訓練場をめちゃくちゃにしちゃったのに…?)
彼らの頭の中は混乱でいっぱいだった。
その時、三人の背後で、心労でげっそりとした顔の騎士団長が、何かあった時のためにと、いつでも飛びかかれるように構えている。国王の優しい言葉とは裏腹に、彼は気が気じゃなかった。
(王様と食事だぞ…!何かあってからでは遅いのだ…!)
騎士団長は、テーブルに並んだ豪華な料理を、まるで爆弾でも見るかのような目で見ていた。彼にとって、この食事会は、いつ何が起こるか分からない、恐ろしい時間の始まりにしか思えなかった。
三人は、国王の優しい言葉に少しだけ緊張が解け、ゆっくりと席に着いた。彼らの目の前には、夢のようなご馳走が並んでいた。
「「「いただきます!」」」
三人は声をそろえてそう言うと、待ちきれないとばかりに、一斉に料理に手を伸ばした。さっきまでの緊張はどこへやら、彼らの目は輝きに満ちていた。
キスティーは、大きなエビのグリルをフォークで突き刺すと、大きな口を開けて頬張った。
「んんー!美味しいー!甘くてプリプリだー!」
口の周りにソースをつけながら、彼女は幸せそうに笑った。その横では、ギルがローストチキンの塊にかぶりついている。
「やっぱこれだぜ!んー!すっげえ柔らかい!今まで食ったどの肉より美味い!」
骨付き肉を片手に、彼は豪快に肉をむさぼった。アリシアは、一口サイズのタルトを口に運び、その上品な甘さに目を丸くした。
「本当に…美味しいわ…こんなにも、甘くて香ばしいもの、食べたことがないわ…」
三人はそれぞれの料理に夢中になり、まるでこの世に自分たちしかいないかのように、賑やかに食事を楽しんだ。
そんな三人の様子を、国王は穏やかな笑みを浮かべて見つめていた。まるで自分の子供たちが食事を楽しんでいるかのように、温かい眼差しを向けている。
国王の視線に気づいたアリシアは、ハッと我に返った。先ほどの訓練場での惨劇が脳裏に蘇る。このまま食事を続けることなどできない。アリシアは、意を決して顔を上げ、国王に深々と頭を下げた。
「恐れながら国王陛下…先ほどの訓練場では、大変失礼をいたしました。あれは…すべて、私がしたことです。もし罰をお与えになるのであれば、どうか、私一人だけにしてください…!」
アリシアは、今にも泣き出しそうな瞳で、必死に訴えた。彼女は、この場にいる誰よりも、自分のしてしまったことに対して罪の意識を持っていた。。
アリシアの言葉を聞いたキスティーは、慌てて口を挟んだ。
「アリシアだけじゃないもん!わたしも一緒!」
キスティーはそう叫ぶと、アリシアの隣で、国王に頭を下げた。
ギルも、二人に続いて声を上げた。
「お、おう、そうです!俺も一緒です…!俺も、今までたくさん壊しました…だから…アリシアだけには、しないでください…!」
三人は、自分たちの行動が招いた結果に、責任を感じていた。
三人の言葉を聞いた国王は、微笑みを深くした。
「…ふむ。友を想う、心優しい子供たちだな。良いことだ。」
国王はそう言うと、三人に静かに言葉を続けた。
「先ほどの件は、すべてトビアが悪い。お前たちに咎めはない。」
その言葉に、三人は顔を上げた。
「そもそも、はじめに何が起きても、そなたたちに咎はないと、トビア自身が誓いも立てておる。気にするでない。」
国王は、玉座から降りて、三人のそばまで歩み寄ると、さらに驚くべき言葉を口にした。
「むしろ、キスティーとやら…トビアがそなたを傷つけてしまって、すまなかった。親のしつけ不足だ…」
国王は、一国の王であるにもかかわらず、深々と頭を下げた。
その光景に、三人はただただ茫然としていた。自分たちを叱るどころか、この国の最高位の人物が、頭を下げているのだ。彼らはどうしていいか分からず、ただただ、呆然と突っ立っていた。
「もう、気にするでない。そして、再び食事を楽しんでくれ。」
国王がそう言うと、三人は顔を見合わせ、まるで示し合わせたかのように、テーブルに額を叩きつけてお辞儀をした。
「「「はいっ!!!」」」
三人のあまりにも奇妙で、しかし真剣な行動に、国王は笑い声を上げた。レイエスも、騎士団長も、そしてこの広間にいる全員が、その様子を見て笑った。張り詰めていた空気は、一瞬にして和やかなものへと変わっていった。




