第32話 え?ピクニック♪
馬車がコレットの町を出てしばらくすると、キスティーは「むー」と小さくうめきながら、背負っていたリュックをガサゴソと漁り始めた。
「お腹空いたねー!ちょっとだけ食べよっか!」
彼女はそう言うと、アリシアとギルにニコニコと笑いかけた。
アリシアはため息をつきと呆れたように言う。
「もう、キスティー。本当に食いしん坊なんだから。」
ギルもツッコミを入れた。
「お前、さっき朝飯食ったばっかりだろ!」
「いいじゃん!遠足なんだから、おやつは大事なの!」
キスティーはそう言って、リュックから色とりどりのお菓子を取り出す。箱に入ったクッキーや、袋に入ったカラフルな飴玉、そして小さな容器に入ったゼリー。甘い香りが馬車の中に広がり、子どもたちのテンションは一気に上がった。
「見て見て、これ!新しいお菓子なんだって!」
キスティーが自慢げに見せたのは、星や月の形をした可愛らしいクッキーだった。
「へえ、美味しそうね。本当にあなたはお菓子に関してだけは詳しいわね。」
アリシアが感心したように言った。
「ほんと頭の中お菓子でできたんじゃないのか?」
ギルはそんな言い方していたが、キスティーが差し出したクッキーを手に取って一口食べた。
「…ん、うめぇじゃねぇか。」
ギルは素直な感想をこぼし、アリシアも微笑みながらクッキーを口にした。
「はい、王子様にも!」
キスティーは、お菓子の中から一つ選んで、レイエス王子に差し出した。それは、プルプルと柔らかい、不思議な形をした小さなお菓子だ。
「これはね、グミっていうの!色んな味があるんだよ!」
レイエスは、見たこともない奇妙な形のお菓子に、どうすればいいか分からず戸惑った。
(これは…一体何だ?見たこともない…食べ物なのか…?)
グニャグニャとした不思議な感触と、鮮やかな色合い。王宮で出される洗練された菓子とは全く違う、その素朴で無邪気な一品に、レイエスはしばし言葉を失い、持ったままじっと見つめていた。
レイエスは、グニャグニャとしたグミをしばらく見つめていたが、やがて優雅な笑みを浮かべて口を開いた。
「王都までは、まだ長い時間がかかる。もしよければ、途中で昼食でもどうかな。天気がいいから、開けた場所でピクニックと洒落込もうと思っているんだが。」
その言葉を聞いた瞬間、キスティーの目がパッと輝いた。
「ピクニック?わーい!ピクニックだ!」
キスティーはぴょんぴょんと飛び跳ねて大喜びだ。
「ねーねー、アリシア!ピクニックだよ!ご飯作ってくれる!?」
「ええ、もちろんよ。でも食材持ってきてないわね?それにお菓子でお腹いっぱいじゃないの?」
アリシアは微笑みながらも、キスティーのリュックを一瞥する。
「いいのいいの!ご飯は別腹だよ!」
アリシアはギルに頼んだ。
「ギル?食材現地調達になるけど、獲ってきてくれる?」
「おう、任せとけ!デカい肉獲ってやるぜ!」
ギルも興奮した様子で力こぶを作った。
「お菓子を食べてー、お弁当を食べてー、ピクニックで遊んでー…ね、王子様!どこでピクニックするの!?」
キスティーは身を乗り出して、レイエスに質問攻めだ。
「フフ…それは、着いてからのお楽しみだ。」
レイエスはそう言うと、静かに目を閉じた。彼の心の中には、ピクニックという名の「次の遊び」の計画がすでに練られていた。
一方、馬車の外では、騎士団長が心底疲れた顔で馬を走らせていた。
(ピクニック…だと?また、どこかの凶悪な魔獣を討伐するつもりか…!)
彼の頭の中には、すでに最悪のシナリオが次々と浮かんでいる。
(この先に待ち構えているのは、凶暴なオーガか、それとも森の守護者と呼ばれる巨大なベアか…はたまた、空を飛ぶワイバーンか…)
前回の旅から、心身ともに限界を迎えていた騎士団長は、遠い目をしながら馬車を見つめていた。
(どうか…どうかこのまま、何事もなく王都までたどり着けますように…)
彼は、胸の中で静かに祈るしかなかった。
馬車は、楽しそうにはしゃぐ子どもたちと、またも彼らの力を利用しようと計画するレイエス王子を乗せて、そして心労で疲れ切った騎士団長が並走し、王都へと向かう道をひた走る。
三人は、自分たちがこれからピクニックという名の新たな「遊び」で、どんな魔獣と出会うことになるのか、まだ知る由もなかった。
馬車は、広大な草原の中央でゆっくりと止まった。
「そろそろだな。到着だ、みんな。」
レイエスの言葉に、キスティーは待ってましたとばかりに馬車から飛び出した。
「わーい!ひろーい!気持ちいいー!」
開けた草原は、空の青と草の緑がどこまでも続き、太陽の光が降り注いでいる。爽やかな風がキスティーの髪を揺らし、彼女は両手を広げて、楽しそうにクルクルと回った。 アリシアとギルも、馬車を降りて大きく息を吸い込む。
「本当にいい天気ね。ピクニックにぴったりだわ。」
アリシアが微笑むと、ギルも
「おう!腹いっぱい食えそうだぜ!」
と、空に浮かぶ雲を眺めながら力強く頷いた。




