第24話 あれ?引っかかった?
キスティーは、目の前の絶品料理に夢中だった。口いっぱいに頬張り、幸せそうに目を輝かせている。ギルも負けじと、豪快な食べっぷりで皿を空にしていく。
「ふふ、二人とも、そんなに慌てなくてもなくならないわよ。」
アリシアが微笑ましく見守っていると、ふと何かを思い出したように、二人に語りかけた。
「ねえ、さっき料理長さんに『タコ』について聞いてみたの。見たこともないから、どんな風に調理するのか気になって。」
キスティーとギルは、口いっぱいに料理を詰め込んだまま、「んー?」「んぐんぐ」と興味津々といった表情でアリシアを見つめる。
アリシアはそんな二人に苦笑いを浮かべ、言葉を続けた。
「そしたらね、タコの体はぬるぬるしてて、すごく掴みにくいんだって。だから、お塩でよく揉んでぬるぬるしたのを取り除いてからじゃないと、調理も大変らしいわ。一つ勉強になったわね。」
キスティーとギルは、口いっぱいの食べ物を必死に飲み込もうとしながら、感心したように声を上げた。
「へー!ほうなんら!」
(*へー!そうなんだ!)
「ふげぇな!ほんなやり方があふのか!」
(*すげぇな!そんなやり方があるのか!)
二人が興奮気味に続けて話そうとしたので、
「はい、ちゃんと飲み込んでから!」
アリシアは優しくたしなめた。
三人は、まるで競争でもするかのように、次々と料理を平らげていった。そして、一つ残らず、皿の上をピカピカにするほどきれいに食べ終える。
その見事な食べっぷりに、料理長は感動のあまり、目に涙を浮かべていた。
「お、お見事!!こんなにきれいに皿をなめ尽くすまで食べてくださるとは!!料理人として、これほどの喜びはありません!!」
料理長は熱く語りながら、三人の健やかな成長を、まるで親のように見守るのだった。
「料理長さ〜ん、ごちそうさまでした〜!すっごく美味しかった〜!」
「美味しく頂きました!ごちそうさまです!」
「うまかったぜ!ごちそうさまでした!」
三人は声を揃えて、料理長に感謝を伝えた。お腹いっぱいになり、満足げな笑顔を浮かべている。
昼食を終え、いよいよ釣りを再開する時間だ。三人は、我先にと釣り竿の元へと駆け寄った。
「よーし!今度は俺が絶対大物を釣ってやる!」
「えー!ずるいー!私だって大物釣るんだから!」
お腹いっぱいになり、満足げな笑顔を浮かべた三人は、我先にと釣り竿の元へと駆け寄った。しかし、昼食前に海に垂らしたままになっていたキスティーとギルの釣り糸が、まるで岩にでも絡まったかのように、びくともしないのだ。
「えー、もしかして、絡まっちゃったのかな?」
「ったく、お前がちゃんと竿を立ててないからだろ!」
二人は互いに非難し合いながら、力任せに竿を引っ張ってみる。
「せーのっ!」
「よいしょー!」
「ぜんっぜん、動かない…!」
「くそっ、どんだけ絡んでんだよ!」
何度か引っ張ってみたものの、糸はびくともしない。アリシアが二人の様子を見て、不思議そうに首を傾げた。
「もう!こうなったら、力ずくだ!」
ギルはそう言うと、全身の力を込めて、思いっきり釣り竿を引っ張った。すると、海面が大きく波打ち、やがて水面から、ぬるぬるとした巨大な「腕」が姿を現した。
「うわああああああ!」
その腕は、タコの吸盤のように巨大で、異様な色を放っている。その腕は、海面から甲板へと、ぬるぬるした体でしがみつくように引っ張り上げられてきた。
キスティーたちは、目の前の光景に呆然と立ち尽くした。
「え…?これ、なんだ…?」
「気持ち悪いー、なんかぬるぬるしてる…」
「見たことないわね…これって、お魚…?」
三人は、恐る恐るその巨大な腕を見つめる。それが何なのか、全く見当もつかない。
その時、甲板の手すりにもたれかかっていたレイエス王子と、その隣に立つ騎士団長の顔が、一気に青ざめた。
「デ、デスサイズオクトパス!?ま、まさか、本当に釣ってしまうとは…!」
騎士団長は、顔面を蒼白にさせ、悲鳴のような声を上げた。レイエスの顔も、驚きと焦りで引きつっている。
「殿下!お下がりを!危険です!あれは、アズール港を壊滅させかねない凶悪な魔獣…!」
騎士団長は、腰に差した剣に手をかけ、レイエスを庇うように一歩前に踏み出した。
レイエスは、そんな騎士団長の言葉を聞きながらも、すぐに気持ちを切り替えた。そして、大声で三人に呼びかけた。
「君たち!それが、目的の大物だ!アズール港の沖にいると聞いていた、巨大な『タコ』だ!」
その言葉に、三人は顔を見合わせて目を丸くした。
「やったー!タコだー!」
「え?本当に?ちゃんといたのね!」
「すごい!こんなに大きいんだな!」
恐怖で固まっていた三人の表情が、一気に喜びに変わる。彼らにとって、それはただの「大物」であり、「最高の遊び相手」だった。




