第124話 またね!
アイアンブラッドベアの肉を堪能し、湖畔には満腹感と幸福感に満ちた静けさが戻っていた。熾烈な「雪合戦」と、美味しい料理を通して、エリスと子供たちの間には、強い親愛の情が生まれていた。
エリスは、皿を優雅に置き、満足げに微笑んだ。
「美味しかったぞ。こんなに美味しいものを食べたのはいつぶりかのう。アリシアは本当に料理がうまいのじゃな。これは我の完敗じゃな。」
彼女の言葉には、純粋な称賛と、アリシアへの愛情が滲んでいた。
アリシアは、エリスからの最高の賛辞に、満面の笑みを浮かべた。
「やったー!エリスさんに勝った!美味しいって言ってくれた!どう!これが料理よ!ふふん!」
彼女は、自慢げに胸を張り、Vサインを作った。その誇らしげな、しかしどこか可愛らしい姿に、キスティーとギルは、「やれやれ」とでも言いたげに、同時に肩を竦めながらも声を上げて笑った。エリスもまた、口元に手を当てて、優しく穏やかな微笑みをアリシアに向けた。アイアンブラッドベアというただの魔獣を最高の料理に変えたアリシアの能力は、彼女の強さの一部として、エリスの心に刻み込まれた。
しかし、西の空は、いつの間にか燃えるような朱色に染まりかけていた。太陽は、雪を抱いた西の山々へと傾きかけ、湖畔に木々の長い影を、切なくも静かに落とし始めていた。
満たされた時間には、必ず終わりが来る。
キスティーが、その黄昏の空を見上げ、少し名残惜しそうに口を開いた。
「もうすぐ暗くなっちゃうね。もっとエリスさんとお話したいけど…この雪じゃ、夜になったら帰り道がわからなくなっちゃうよ。」
「そうだな。日暮れたら気温も急激に下がるし、雪も深いしな。戻るか。」
ギルも、暗くなりつつある空を見つめて言った。
アリシアは、エリスとの別れを惜しむように、彼女の方を見つめた。
「エリスさん、本当に楽しかったけど、そろそろ帰らないと。お母様たちが心配するの。」
エリスは、その言葉を聞き、母親を気遣う子供たちの姿勢を優しく受け入れた。
「そうじゃな。親を心配させるのは悪いことじゃ。早く帰るがよい。みんな、楽しかったぞ。」
彼女は、三人に深い慈愛に満ちた、母親のような微笑みを向けた。その優しさを見て、アリシアとキスティーは、この温かい場所を離れるのが淋しくなり、衝動的にエリスに駆け寄り、ギュッと抱きついた。二人の瞳は、別れの寂しさから、涙目になっていた。
エリスは、突然の抱擁に一瞬びっくりしたものの、すぐに二人の小さな背中を優しく抱きしめ返し、まるで母親のように優しく語りかけた。
「これこれ、そんなにしたら、離れられなくなってしまうぞ。そんな顔をするでない。今生の別れでもあるまい。いつでも会える。我はどこにも行かぬ。」
彼女は、優しく微笑みながら、永遠にこの地にいることを告げ、二人を安心させた。
エリスの言葉を聞いて、キスティーとアリシアは安堵の笑顔を取り戻した。
その間に、ギルは手際よく、調理に使った鉄板や鍋、そして残った食材をすべて片付け終えていた。
エリスは、片付けを終えたギルも含めた三人の仲間としての絆を、温かい瞳で見つめた。
「良い仲間じゃな。大切にするがよい。」
キスティーは、もう寂しさは消え去り、明るい笑顔でエリスに手を振った。
「エリスさん!楽しかったよ!ありがと。またね!」
ギルは、少しだけ照れたように頭を下げた。
「あの…その…アリシアが迷惑かけてごめんでした。ありがとうございました。」
そして、最後にアリシアが、エリスに向き直り、丁寧に感謝を伝えた。
「色々あったけど、ありがとうございました。」
エリスは、三人を温かい眼差しで見送った。
「気を付けて帰るのだぞ。まあ、そなたたちならば、何があっても問題なかろうがのう。」
彼女は、笑いながら、彼らの規格外の力を認めつつ見送りの言葉を贈った。
三人が歩き出した後、アリシアが最後にもう一度、満面の笑みを浮かべて振り返り、親しみを込めた一言を投げかけた。
「またね!おばさん!」
その言葉には、もはや悪意はなく、最高の親愛が込められていた。エリスも、それに対し怒ることはなく、元気になったアリシアを見て、微笑みながら見送った。




