第115話 なんか考えろよ!
その頃、湖面でアイスゴーレムと対峙していたキスティーとギルは、未だに膠着状態に苦戦していた。湖面の氷は、エリスの魔力によって創られたゴーレムの冷たい光沢と、太陽の反射で眩しく輝いていた。ゴーレムは、キスティーとギルに向けて、間断なく氷玉を連射しており、その一撃一撃が硬質な金属の衝突音を立てていた。
キスティーは、特製のスケートの刃を装着した雪靴で、アイスゴーレムの周囲を、風のように軽やかに滑りながら考えていた。彼女の視線は、巨体の弱点を探るように、ゴーレムの全身を舐めるように追っていた。
「うーん…とうしようかな?森から音してるから、きっとアリシアだよね…急がないと。」
キスティーは、遠くの森から聞こえる、氷が砕けるような激しい衝突音に、不安を感じていた。アリシアが一人でエリスと渡り合っているであろう状況を考えると、暴走したら大変と思い、一刻も早くこのゴーレムを「ノックアウト」しなければならない。
一方、ギルは、重厚な鉄の滑り止めが付いたブーツで、氷の上に力強く踏みとどまり、アイスゴーレムと文字通りの力比べをしていた。もはや彼は雪合戦ではない。彼は、ゴーレムの攻撃を、その分厚い筋肉と頑丈な骨格で真正面から受け止めていた。連射される氷玉は、彼の体に当たっては砕け散るが、特に傷つくこともなく、ただギルの全身を深く揺さぶる。寒いにも関わらず、彼の体からは湯気が立ち上り、汗が額から流れ落ちていた。
「キスティー!なんか考えろよ!飯食ってないから力入らないんだって!もう火魔法で溶かしちまえよ!」
ギルは、大汗かいて叫んだ。本来であれば、先ほどエリスに会う前に、温かい『熊』料理を食べる予定だった。それが、エリスとの突発的な「雪合戦」になってしまい、極度の空腹が彼の体力と集中力を削いでいた。彼にとって、目の前のゴーレムは、食べるべき獲物を邪魔する巨大な障害物でしかなかった。
キスティーは、ギルの腹ペコなのは分かっていたが、彼の提案をピシャリと断った。彼女はスケートを急旋回させ止め、口を尖らせた。
「もう!そんな事したら、ここら辺全部溶けちゃうじゃん!スケートできなくなるよ!」
彼女にとって、氷遊びが出来なくなるなんて、ありえなかった。そもそも今しているこれも雪合戦という「遊び」なのだから。
キスティーは、スケートの勢いを緩め、氷の上で静止した。彼女は小さな手を、防寒着のポケットの奥に突っ込んで、大量のお菓子の中を必死に探る。
指先に触れたのは、丸くて硬いもの。
(ん?これは…)
彼女の頭の上に電球が灯ったようにひらめいた。大人の発想ではない、無邪気な子どもの悪戯心に近いものであった。
「あ!これだ!これをああして、こうすれば…パーンっ!てなるかな!」
キスティーは、興奮を隠せない様子で、独り言のように呟いた。
そんな中ギルは、汗だくで歯を食いしばりながら、ゴーレムと力比べをしていた。
「何言ってるか分かんねーよ!なんでもいいから早くしろよ!」
キスティーの言葉はいつもよく分からない。ただ、いつも綺麗に事は運ばない。
キスティーは、汗だくのギルを見て、すぐに彼の元へ滑り寄った。
「ねえ!ギル?倒せなくても、穴開けられるよね?」
彼女の声は、ワクワクが抑えられない感じだった。それは、次の行動への確信に満ちた問いかけだった。
ギルは、額の汗を拭いながら答える。
「穴?ああ、開くけどよ…それじゃ倒れねーぞ?」
彼の剛力は、この氷の巨体に一撃でノックアウトを食らわせることはできないが、腹ペコでも厚い氷の体に穴を開ける程度の破壊力は持っていた。しかし、ゴーレムがすぐに自己修復することも知っていたため、その意図が分からなかった。
キスティーは、ギルの答えを聞くと、満面の笑みで頷いた。
「いいからやって!」
彼女は、ポケットから取り出した硬くて丸い小さなものを、何個かまとめて雪玉に入れ込んだ。そして、その硬くて丸い小さなものの中の仕掛けに、魔力を込めた。
ギルは、いつものことだが、キスティーの奇妙な行動に訳がわからなかったが、楽しそうな瞳を見て、深く考えることをやめた。ろくなこと考えてない瞳だと感じて。
「知らねーぞ…おりゃ!」
ギルは、トゲトゲのスパイク付きの靴で踏ん張り、全身全霊の力を込めた渾身の一撃を放った。彼が狙ったのは、ゴーレムの巨体の中でも、比較的動きの少ない中心の胸元だった。
ドゴッ!
硬質なゴーレムの胸部に、まるで岩盤を穿つような重い衝撃音が響いた。氷の破片が飛び散り、ゴーレムの胸元に、拳大の少し深めの穴が開いた。
「穴開いたぞー!」
ギルはキスティーに叫んで知らせた。




