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規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?  作者: 初 未来
氷の世界へGO!

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第108話 お人形遊び?

 エリスからの「遊び」の提案は、極寒の湖畔に、それまでとは違う熱気を一気に注入した。三人の子供たちは、その一言で目の色を変えた。


 キスティーは、一瞬の緊張も忘れて、弾けるような笑顔になった。彼女にとって「遊び」とは、この上ない喜びであり、エリスが自分たちの遊びに付き合ってくれるという事実は、最高のプレゼントだった。


「お姉さん、一緒に遊んでくれるの?やったー!」


 彼女は、嬉しさのあまりピョンピョンと飛び跳ねた。その無邪気な歓声は、銀世界に、春の到来を告げる鳥のさえずりのように響いた。


 一方、ギルは、興奮を覚えつつも、先ほどのアリシアとエリスの険悪な口論を思い出し、少し警戒心を解けずにいた。彼は、巨大なアイアンブラッドベアの横から、恐る恐るエリスに問いかけた。


「ほ、ほんとに…大丈夫か?お、お姉さん?」


 彼の声には、年上の女性への遠慮と、何かしでかすのではないかという不安が混じっていた。


 そして、アリシアは、依然としてイライラモード全開だった。彼女の視線は、エリスの純白のドレスと、冷たいブルーのリップに釘付けになっている。


「遊ぶ?私たちと?子どもの体力についてこられるのかしら?()()()()?」


 アリシアは、吐く息は白いのに、口から出る言葉は真っ黒で、棘のある言い方で挑発した。彼女の心の中には、この女性を言い負かし、完全に打ち負かしたいという強い闘争心が渦巻いていた。


 エリスは、三人の反応を静かに受け止めた。彼女の深海の瞳は、キスティーの純粋な喜び、ギルの慎重さ、そしてアリシアの燃えるような敵意を正確に捉えていた。


「そうじゃな…氷…雪…戦い…うむ。雪合戦じゃ!」


 エリスが、そう告げると、キスティーはさらに喜びを爆発させた。


「お姉さん!冬と言えばだね!」


 キスティーは、手を叩いて大賛成したが、すぐにエリスの異様な格好が気になった。


「でも、その格好でするの?ドレスで動くの大変じゃない?」


 キスティーの視線は、雪の上に無造作に広がる、豪華なレースのロングドレスに向けられていた。


 エリスは、その心からの心配に、初めて心からの笑みを浮かべた。その笑みは、氷の冷たさとは裏腹に、不思議な魅力を持っていた。


「心配は無用じゃ。」


 エリスはそう言って、優雅に身をかがめると、自身のドレスのすそに、白く冷たい息を吹きかけた。


 その瞬間、純白のロングドレスは、まるで時間が逆戻りするかのように音もなく、滑らかに変形を始めた。雪の結晶のような繊細なレースのスカートが、膝上高くまで短く引き上げられ、動きやすそうな可愛らしいショートパンツスタイルに変わったのだ。エリスの引き締まった美しい足があらわになり、極寒の雪景色の中で、その抜群のスタイルが際立った。


「どうじゃ?これでよいであろう。」


 エリスは、自身の変化に満足したように微笑み、その完璧なスタイルに揺るぎない自信をのぞかせた。


 アリシアは、その魔法のような変化に驚きを隠せなかったが、すぐにその驚きを、冷ややかな皮肉で覆い隠した。


「年甲斐もなく足なんか出して、どれだけ体に()()かけていらっしゃるのかしら?」


 アリシアはその身体に綺麗と素直に思いながらも、一度火がついたものはなかなか消えなかった。


 エリスは、アリシアのその棘のある言葉が聞こえていたが、あえて無視した。彼女は、再び雪合戦のルールへと話を戻した。


「ルールはそうじゃな…当たったら負け…なんて生ぬるいのは嫌じゃの、よし!ノックアウトしたら負けじゃ。」


 エリスは、そう告げると、その深海の瞳を鋭く光らせた。彼女にとって、この「遊び」は、子供相手とはいえ、手加減なしの「戦い」なのだ。


 キスティーは、その過激なルールに、心からの心配を覚えた。


「お姉さんは大丈夫?当たったら痛くない?怪我しない?私たちは慣れっこだけど…」


 キスティーの視線は、エリスの華奢きゃしゃに見える体と、雪合戦でノックアウトするほどの衝撃を受けることへの純粋な恐れに向けられていた。


 エリスは、その優しさに再び小さく微笑み、自信に満ちた口調で応えた。


「心配無用じゃ…お主たちより頑丈にできておるわ。気にするでない。」


 その言葉には、「人外」としての自負が込められていた。


 アリシアは、その言葉を聞き逃さなかった。彼女の瞳には、ギラギラとした闘志が宿った。


「じゃあ全力でぶつけていいのね、()()()()!」


 アリシアは、わざと「おばさん」という言葉に力を込めた。彼女は、エリスの力を試したいという欲求と、先ほどの侮辱を返す好機を得たことに、興奮していた。


 エリスの表情は一変した。彼女の深海の瞳が、一瞬、殺気のような冷たさを帯びた。


「ああ、全力で来るが良い。ひねりつぶしてやろう。狐娘きつねっこ!」


 エリスは、声に魔力を込め、言い放った。その言葉は、凍てついた湖畔に、氷の刃のように突き刺さった。


 ただならぬ、魔力と魔力のぶつかり合いを予感させる空気が、二人の間に走った。アリシアは、そのプレッシャーに、武者震いするかのように身を震わせ、拳を握りしめた。


 ギルは、その二人の間に漂う殺気に、再び全身を硬直させた。彼の口から、不安そうな声が漏れた。


「でもよ、お、お姉さん一人でいいのかよ?さすがに三人対一人はだめだろ?」


 ギルは、雪合戦とはいえ、ノックアウトのルールと、アリシアの尋常ではないやる気を目の当たりにし、公平性を保とうとした。


 エリスは、ギルの心遣いを一瞬受け止めた後、不敵な笑みを浮かべた。


「それならば問題はない。」


 そう言うと、エリスは、氷の湖面に視線を向け、自身の口から冷たい息を吐き出した。その息は、ただの息ではなく、極限まで圧縮された氷の魔力を帯びていた。


 ゴゴゴ…


 湖面の分厚い氷の下から、重く鈍い地響きのような音が響き渡った。その音は、湖畔一帯の静寂を打ち破り、空気を震わせた。


 やがて、アリシアが開けた巨大な穴の横から、人より少し大きめの物体が、音を立てて氷を突き破り、ゆっくりと立ち上がった。それは、水滴と氷の破片をまといながら、エリスの姿を模したかのような人型の巨大な氷塊、そう、アイスゴーレムであった。


 エリスは、その姿を見て、満足そうに頷いた。


「久しぶりじゃが、まあまあじゃな。こ奴らが我の仲間としよう。」


 エリスは、アイスゴーレムに向かって指をさした。そのゴーレムは、関節こそ粗雑だが、エリスの魔力で完全に動いていることが一目でわかった。


 キスティーは、その巨大な氷の創造物に、目を輝かせた。


「すごーい!粘土で作ったやつの氷バージョンだ!」


 彼女の頭の中では、ゴーレムは粘土遊びの延長にある、楽しい「おもちゃ」でしかなかった。


 ギルもまた、その力強い造形物に興奮を隠せなかった。


「おおー、すげーな、強そうだな!力比べしてーな!」


 彼は、すでに雪合戦のルールを忘れ、アイスゴーレムとの肉弾戦を想像し、熱い眼差しをゴーレムに向けていた。


 アリシアは、その光景を冷めた目で一瞥いちべつし、再び毒を吐いた。


「誰か呼ぶかと思ったら、お人形遊び?そんな性格だからボッチなのね。」


 彼女の呟きは、エリスの心に、チクリと小さな痛みを残した。


 エリスは、三人のそれぞれの反応、キスティーの純粋な喜び、ギルの力への関心、そしてアリシアの陰湿な皮肉を全て受け止めた。彼女の顔には、複雑な感情が一瞬よぎったが、すぐに強い決意の表情に戻った。


「よし、これで三人対三人じゃな。場所はこの辺り一帯じゃ。湖、森どこでも構わん。」


 エリスの言葉に、三人は一斉に闘志を燃やした。


 エリスは、最後に、アリシアに向かって、不敵な笑みを浮かべ、付け加えた。


「忘れておった。狐娘きつねっこ、『魔力』込めての全力で良いぞ。《《お姉さん》》が受けてやろう。」


 エリスは、アリシアの規格外な力を知っているかのように、その力を解放する許可を与えた。


 アリシアは、その言葉を聞き、目の色が変わった。彼女の瞳に宿っていた苛立いらだちや体調不良の色は消え去り、代わりに遊びへの純粋な歓喜が宿った。彼女は、ギュッと拳を握りしめた。


 二人の間に、目に見えない戦いの熱が、冷たい湖畔に立ち上った。アリシアは、体調不良など忘れ、最高の「遊び」の始まりに、全身の魔力が沸騰するのを感じた。


 しかし、その尋常ではない空気を感じ取ったキスティーとギルは、少し不安になった。彼らの目の色が変わったのは、雪合戦という「遊び」の範疇はんちゅうを、すでに超えているように感じられたからだ。果たしてこの「遊び」は、単なる雪合戦で終わるのだろうか。

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