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規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?  作者: 初 未来
氷の世界へGO!

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第107話 統べる者?

 口論は、キスティーの純粋な仲裁によって何とか収束したが、湖畔の空気は、いまだてついた氷のように張り詰めていた。白いドレスの女性と、アリシアの間には、より一層冷たい空気が漂っている。


 アリシアは、女性から少し距離を取り、まだ納得していないという様子で頬を膨らませていた。彼女の銀色の長い髪は、怒りの余韻で微かに揺らめき、その瞳は不機嫌さを隠そうともしない。体調の悪さからくる苛立いらだちが、彼女の理性を完全に凌駕していた。


 キスティーは、二人の間に立ち、不安そうにアリシアと女性の顔を交互に見つめていた。彼女の笑顔は、この緊迫した状況を和らげようと必死に努めているが、頬は寒さと緊張で引きつりかけている。ギルは、アイアンブラッドベアの横にそっと移動し、巨大な魔獣の体を盾にするかのように、事態の成り行きを固唾を飲んで見守っていた。彼の背中には、冷や汗が流れている。


 女性は、そんな三人の様子を、感情の読めない深海の瞳で静かに見つめていた。彼女の純白のドレスは、雪の上に広がり、その存在そのものが、この極寒の湖畔に静謐せいひつな違和感をもたらしている。


「…して、何をしておったのじゃ?」


 女性は、静かに、しかし威厳のある声で問いかけた。その口調には、先ほどの口論での激情は消え、再び氷のような平静さが戻っていた。


 キスティーは、この問いかけを、エリスが自分たちに興味を示してくれた、仲直りの兆候と受け取った。彼女はすぐに笑顔を取り戻し、元気いっぱいに答えた。


「湖が凍ってると思って、遊びに来たの!雪も深くて、思った通りだったよ!」


 彼女は、氷の上に足を滑らせて転んで見せた時のように、楽しそうに笑い、辺りの雪景色を見渡してはしゃいだ。


 女性は、そんなキスティーの屈託のない様子をじっと見つめ、小さく頷いた。その視線は、アリシアを通り過ぎる時に、一瞬、鋭い冷たさを帯びた。


「ふむ…そうか。特に害のあるわらべたちではなさそうじゃな。」


 女性は、そう呟くと、再びアリシアに冷たい視線を向けた。その言葉には、「お主以外は」という含みが明確に含まれている。


 アリシアは、その冷たい視線を感じると、さらに不機嫌になり、フンッと鼻を鳴らして、プイッと顔をそむけた。彼女の銀髪が、雪景色の中で挑発的な態度を強調する。


 女性は、アリシアの子供っぽい反抗を無視し、三人に顔を戻した。


「名は何と申す?」


 女性の問いに、キスティーは、アリシアの機嫌を気遣いながら、小声で、しかし丁寧に答えた。


「えーと、私はキスティー、大きな男の子がギルで、……あっちのふてくされてるのがアリシアです……」


 彼女は、アリシアを指さす時、さすがに声が小さくなった。


 女性は、その紹介を聞き、三人を順に、品定めするように見つめた。


「そうか、では我も名乗ろう。我はエリス。雪と氷をべる者。この世のものは『人外』と呼んでいるらしいがの。」


 彼女は、そう名乗ると、まるで自分の名前と肩書きに疑いの余地はないというように、堂々とした風格を漂わせた。その言葉は、湖畔の静寂に、凍りついた空気をさらに注入する。


 その時、アリシアが、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、毒を吐いた。


べる者?すべる者じゃないの?氷ですべって転べばいいのよ…」


 その呟きは、雪と氷の世界に、チクリと刺さる小さな棘のようだった。


 エリスの深海の瞳が、再びアリシアを射抜いた。彼女の顔には、怒りが明確に浮かび上がっていた。


「聞こえておるぞ…ほんとに口の悪い狐娘きつねっこじゃな。」


 エリスは、声を荒げることなく、静かに、しかし本気の怒りを滲ませた。彼女の周囲の空気が、微かに揺らぎ、氷の結晶が瞬く。


 キスティーは、再び一触即発の事態に、慌ててエリスに駆け寄った。


「お姉さん!ごめんなさい。アリシア調子が良くなくて、なんかイライラモードなの…」


 キスティーの表情は、完全にパニックに陥っていた。彼女は、アリシアが「おばさん」という言葉を使ったのも、体調不良のせいだと解釈し、何とか場を収めようと必死だった。


 エリスは、そんなキスティーを見て、ふうっと小さく息を吐き出した。


「まあ、我も許すと言ったからのう…二言はない。」


 エリスは、言葉では許すと言ったものの、その顔は全く笑っておらず、深海の瞳の奥には、アリシアへの冷たい敵意が残っていた。


 エリスは、改めて三人を見つめ、観察するように、視線を巡らせた。


「それにしても、お主たちよく見れば、たいした魔力量じゃな…この世にこんな者がおるとは。」


 エリスは、その驚きを隠さなかった。彼女の口調には、先ほどまでの感情的なやり取りから一転し、純粋な感心の色がにじんでいた。


 キスティーは、その言葉に目を丸くした。


「え?そんなの見ただけで分かるものなの?魔法も使ってないのに?」


 キスティーは、自分が魔法が使えて、魔力を持っていることは知っていたが、それが「たいした魔力量」なのかどうかも、見ただけで分かるという事実に、純粋な驚きを覚えた。


 エリスは、この質問に、自慢げに胸を張った。


「ふふん…我の力をもってすれば、見ただけで相手の力量くらい手に取るように分かるわ。長年生きておるからのう。」


 その言葉には、自分の能力への絶対的な自信を見せていた。


 アリシアは、その言葉を聞き逃さなかった。彼女は、再びエリスの言葉の端に噛みついた。


「長年?やっぱり()()()()じゃない。なんならおばあちゃん?若作りしすぎよ。ブルーのリップって何時代の流行りなの?」


 アリシアは、エリスの自慢げな態度に苛立ち、さらに強烈な皮肉をボソボソと呟いた。彼女の言葉は、まるで氷を削るかのように冷たく、容赦がなかった。


 エリスは、その呟きを耳聡みみざとく聞きつけ、再びアリシアを強く睨みつけた。彼女の銀色の髪の毛が、苛立ちによってわずかに逆立つ。


「聞こえておるぞ。全く…次から次へと。よく言葉が出てくるものよ…」


 エリスの声には、怒りというよりも、呆れと疲労の色が混じり始めた。彼女にとって、この小さな女の子の毒舌は、予想外の強敵だったようだ。


 エリスは、深いため息をつきながら、そんなアリシアの不機嫌な横顔を一瞥いちべつし、ふと何かを思いついたかのように、口元にかすかな笑みを浮かべた。その表情は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようだった。


「そうじゃ、遊びに来たんじゃったな…ならば共に遊ばぬか?」


 エリスは、三人を遊びに誘った。その言葉の響きは、冷たい氷の世界で、次の展開への静かな期待を予感させた。

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