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規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?  作者: 初 未来
氷の世界へGO!

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第106話 阿呆か?

 沈黙は、てついた湖面を滑るように、長く、重く引き延ばされた。白い世界に、深海の青い瞳と銀色の髪を宿した異質な女性が、まるで時間を止めたかのようにたたずんでいる。


 その張り詰めた空気を破ったのは、女性の方だった。


「…まあよい…わらべたち…ここで何をしておる?」


 彼女の声は、先ほどと同様に澄んでおり、感情の起伏をほとんど感じさせない。


「ここは危険な場所…知らぬわけがなかろう?」


 女性の視線は、アリシアとキスティー、そしてギルを品定めするかのように巡った。彼女にとって、こんな子供が三人もこの場所にいること自体が異常なのだ。


 女性の言葉を聞き、アリシアは首を傾げた。彼女の表情には、体調不良からくる、よく分からない苛立いらだちと、こんな場所にいる異質な存在への好奇心が混じり合っている。


「ええ、魔獣は多いと思いますけど、《《それだけ》》ですよね?」


 アリシアは、鼻をすすり、問い返した。彼女たちにとって、魔獣遭遇はただの日常でしかない。


 女性は、アリシアのその無頓着な返答に、深海のように深い瞳を細め、心底けげんな顔をした。


「その魔獣が、危険なのであろう。お主、阿呆あほうか?」


 女性の口調は、完全にアリシアを見下しており、その言葉は、てついた空気をさらに冷たくした。


 アリシアは、その見下した物言いと「阿呆か」という直接的な侮辱に、カチンッときた。彼女は馬鹿にされたことに、体調の悪さも手伝って、その怒りのボルテージは一気に跳ね上がった。


「熊なんて狩るのは日常茶飯事ですけど? それよりもそんな格好でこんな所にいる方が危険だと思いますけど?()()()()?」


 アリシアは、最後の「おばさん」という言葉に、強い皮肉と意図的な侮辱を込めて言い放った。彼女の銀髪が、怒りでかすかに逆立つ。


 女性は、その最後の言葉に、一瞬の硬直を見せた後、アリシアを射抜くような鋭い視線でにらんだ。


「小娘… 我はどう見ても()()()()じゃろうが!」


 女性の声には、これまでの平静さが消え、苛立いらだちと怒りが混じり始めた。彼女にとって、「おばさん」という言葉は、何よりも踏み込んではならない領域だったようだ。


 アリシアは、睨まれたからこそ、さらに意地になった。彼女は、寒さも忘れ、感情を剥き出しにして睨み返した。


「はぁ?私たちからしたら、どう見ても()()()()なんですけど!ね?キスティー?」


 アリシアは、いきなり始まった言い合いを、隣で呆然としているキスティーに振った。


 キスティーは、二人の一触即発の言い合いに、ただただ唖然あぜんとしていた。目の前で繰り広げられる大人の女性と子どもの口論、しかも、「おばさんかお姉さんか」という幼稚なテーマに、彼女の純粋な心はついていけていない。


 アリシアに突然振られて、キスティーは慌てて、しどろもどろになった。


「あ、え?う…うん…いや…おばさんかな…でも見た目は綺麗だし、お姉さん…?」


 キスティーの返答は、論点を避け、両者に配慮するという、彼女らしい優柔不断なものだった。


 しかし、女性は、その曖昧な答えの中の「綺麗」という言葉に反応した。彼女の険しい表情が、一瞬にして緩んだ。


「綺麗? 我が綺麗か?そうかそうか、そちは良いわらべじゃのう。」


 彼女は、まるで褒められたことがよほど嬉しかったかのように、口元を緩ませた。


「そっちの狐みたいな小娘とは違うのう。」


 そして、再び冷たい視線をアリシアに戻し、追い打ちをかけるように言った。


 アリシアは、「狐みたいな小娘」という言葉に、怒りを通り越して、ただただムカついた。彼女は、体調不良のくしゃみが出ない代わりに、毒舌が止まらなくなっていた。


「あなたが綺麗? え?()()の聞き間違いじゃないのかしら? 耳が遠いなら、やっぱり()()()()よね!」


 アリシアは、馬鹿にしたような笑みを浮かべ、わざと大きな声で言い放った。彼女の体調不良が、理性のタガを外していた。


 女性は、アリシアの容赦ない言葉に、再び深く睨み返し、言葉ではなく、魔力による威圧的な視線をアリシアへと送った。湖畔の冷たい空気が、魔力のプレッシャーによって、さらに一層冷たくなった。


「小娘… いい加減にしろよ… わらべと思い優しくしておれば、なんという物言い… 痛い目に合いたいのかのう…」


 女性の声は、冷酷で低く、本気の怒りをにじませていた。


 アリシアは、その冷たい魔力のプレッシャーを感じても、一歩も動じず、むしろ楽しんでいるかのように、口角を上げた。


「あら?もうおしまい? 言葉じゃ勝てないと思うとすぐ力押し…あー、こわーい、ふふ。 こんな子供に言葉で勝てないなんて恥ずかしいわね、()()()()!」


 アリシアの銀色の髪の毛が、魔力の波に呼応するかのように微かに逆立ち揺らめく。彼女の表情は、挑発に満ちていた。


 その時、事態の深刻さを察したキスティーが、二人の間に割って入った。


「だめーーーー!! もう!アリシア言い過ぎ!!」


 キスティーは、小さな体を精一杯広げて、二人の間に立ち、仲裁に入った。彼女の無垢な笑顔と真剣な目は、子供の純粋な善意に満ちていた。


「お姉さん一人でこんな所にいて、困ってるんだから優しくしなきゃ! お姉さんごめんなさい!」


 キスティーは、女性に向かって深々と頭を下げ、アリシアの非礼を謝罪した。彼女の心の中には、困っている人には優しくしなければならないという単純で揺るぎないルールがあった。


 女性は、キスティーの心ある謝罪と、「困っている」という言葉に、一瞬の戸惑いを見せ、目をパチパチさせた。そして、キスティーを見つめた後、せきを切ったように、豪快に笑った。


「ははは! お主、愉快じゃのう。」


 彼女の笑い声は、冷たい氷が砕けるかのように、湖畔に響き渡った。


「まあよい。お主に免じてそこの小娘、許してやろう。」


 女性は、完全に上から目線で、アリシアに言った。


 アリシアは、不満そうに顔を歪ませ、その言い方に気に入らないとばかりに、小さく呟いた。


「許す? 悪いことしてないのに、許されるも何もないんだけど?あのね…」


 アリシアは、まだ言い足りないという顔をして言い返そうとしたが、キスティーがその背中をパンッと叩いて、強制的に口を封じた。


「アリシア!終わり!!」


 キスティーの強い口調に、アリシアは渋々、口をつぐんだ。女性は、アリシアから興味を失ったかのように目をそらし、言い合いは強制的に幕を閉じた。


 その間、ギルは、二人の女性の言い合いを、まるで嵐を見ているかのようにただ呆然と見ていた。彼の心の中には、恐怖と困惑が渦巻いていた。


「女って、こえーな…ってか、やっぱアリシアこえーな…」


 ギルは、誰にも聞こえないように、雪に向かって一人つぶやいた。彼の心は、魔獣よりも女性の方がはるかに危険であることを、深く理解した瞬間だった。

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