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規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?  作者: 初 未来
氷の世界へGO!

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第101話 できてないのよ

 雪がちらつくコレットの町を後にしたアリシアとキスティーは、次第に民家が途絶えた森へと足を踏み入れた。使い込まれたキスティーの大きなリュックと、王都で新調された皮製のアリシアの洒落たバッグが、その道行きの対照的なムードを象徴している。


 二人の足取りは軽やかで、顔を突き合わせての会話が止まらない。しかし、アリシアの鼻は真っ赤に染まり、数分に一度は、その会話を中断させる音を立てていた。


「ね、アリシア、見て!あの木の枝に、ほら、雪うさぎが乗ってるみたい!」


 キスティーが指差した先には、積もった雪が風に削られ、まるで小さな動物の形になったかのように見えた。キスティーは屈託のない笑顔で、その小さな芸術作品に目を輝かせた。


「ふふ、本当ね、キスティー。あなたって本当に、そういう小さなものを見つけるのが得意ね。…くしゅんっ!」


 アリシアは優雅に微笑み返したが、次の瞬間、その笑顔は大きく歪んだ。


「でも…くしゅんっ! この寒さ…もうすぐ大雪かもね。」


 アリシアはカシミヤのショールをさらに首元に巻き付け、まるで魔法の力で暖を取りたいとでも言いたげに、両腕で自分の体を抱きしめた。彼女の吐く息は白く、その様子は寒がりな貴婦人のようだった。


「ねえアリシア、あの時王都で買ったスミレのブローチ、つけてるんだね!」


 キスティーは、アリシアの襟元に輝く銀のブローチを指さした。雪景色の中で、その銀細工は控えめながらも上品に光を放っている。


「ええ、もちろんよ。…くしゅんっ! キスティーとのお揃いなんだもの。大切にしてるわ。…でも、ギル、ちゃんとストラップ腰につけてるかしらね?」


 アリシアは、ギルのぶっきらぼうながらも温かい友情を思い出して、優しい笑顔になった。


「大丈夫だよ!ギルはああ見えて、そういうの絶対大事にするから!」


 キスティーは、アリシアの言葉に自信を持って頷いた。彼女は、王都でのお揃いの贈り物が、三人の友情をより強固にしたことを知っていた。


 二人は、町の外れにある「魔獣の森」の入り口へと差し掛かった。そこは、背の高い常緑樹が密集し、太陽の光さえ届きにくい、薄暗い場所だ。町の喧騒はすでに遠い過去となり、聞こえるのは自分たちの足音と、ちらつく雪が枝葉を叩く微かな音だけ。その空気は、一気に人里離れた厳しさと、魔力を帯びた静寂へと変わる。


「…くしゅんっ!やっぱり、この森の空気、他より冷たいわね。」


 アリシアは、鼻をかみながら冬の訪れを感じていた。


「うん、でも、もう慣れっこだもん!」


 キスティーは寒さよりも、楽しさのほうが勝っていた。


 森の奥へと進むにつれ、道の両脇に生える木々が、ますます巨大な針葉樹に変わり、地面を覆い尽くしていた土の道は、次第に雪と氷に覆われた滑りやすい獣道へと変わっていった。


「見てアリシア!だんだん銀色の世界になってきたよ!」


 キスティーは、両手を広げて、その静謐せいひつな雪景色に感動した。枝という枝に綿のような雪が積もり、遠くに見える山々の稜線は、墨絵のように、しかし厳かな白で縁取られていた。


「…くしゅんっ!本当に綺麗ね…!やっぱり、雪って、全てを浄化してくれるような気がするわ。」


 アリシアの瞳に映る雪の輝きは、彼女自身の、銀色の髪と瞳の色を、一層冷たく、美しく引き立てていた。


 彼女の体調不良は改善しないが、この美しい光景が、彼女の心を満たし、体の不調すらも、この旅の特別なスパイスのように感じさせた。


 二人は、まるで森の精霊のように、雪が積もる森の奥へと深く進んでいく。その道中、キスティーは楽しそうに歌を口ずさみ、アリシアは数分に一度のくしゃみをしながらも、その澄んだ空気を楽しんでいるようだった。


 その時、二人の視界の先に、巨大な黒い影が現れた。


 それは、雪に覆われた獣道を進む、体長3メートルはあろうかという巨大な熊型の魔獣だった。その毛皮は鉄色に近く、強靭な筋肉が体躯を覆い、鋭い牙と爪が獲物を引き裂くために存在していることが一目でわかる。その獰猛な姿から、恐れられ凶悪な魔獣に分類されるアイアンブラッドベアだった。魔獣は、雪の中をゆっくりと歩きながら、二人の存在に気づき、低く唸り声を上げた。その声は、森の静寂を打ち破り、心臓を鷲掴みにするような重い音だった。


 アリシアは、その魔獣を一瞥いちべつし、心底うんざりしたような、日常的な不満の表情を浮かべた。


「あら、クマさんじゃない。…くしゅんっ! もう、邪魔だわ。この寒いのに冬眠してないの?」


 アリシアは、鼻をすすり、いかにも面倒くさそうな声で言った。魔獣への恐怖や驚きは微塵も感じられない。


「キスティー、見ての通り、私くしゃみで魔力の調整が上手くできないかも、だから。…くしゅんっ!」


 アリシアは、軽い口調で、キスティーに魔獣の処理を依頼した。


「うん、わかった!任せて!遊んでくるね!」


 キスティーもまた、魔獣を目の前にしても、それはただの遊びだった。彼女は、ただ指を上げ、その指が静かに大地を指し示すと、地中から重い音を立てて、巨大な土の壁が現出した。


 土の壁は、熊型の魔獣と二人の間を完全に隔てるように立ち、魔獣はその予期せぬ出現に驚き、一瞬動きを止めた。


 続いて彼女は、足元の雪に埋もれていた、拳大の丸い石を拾い上げるとそのまま軽く、その土の壁の側面に向かって、「えい!」と声を出して投げつけた。


 カツン…


 石は小さな音を立て土の壁に当たり、壁を「ドミノ倒し」の要領で倒した。衝撃を受けた土の壁は、その重みと構造的な弱点から均衡を失い、轟音を立ててアイアンブラッドベアのいる方へ倒れ込んだ。


 巨大な土の壁は、逃げる間もなかった魔獣を直撃し、雪と土埃の柱を天に突き上げた。魔獣の苦しそうな唸り声が一瞬聞こえたが、すぐに、重い土の壁に完全にかき消された。


 土埃が舞い上がる中、アリシアは、何事もなかったかのように、鼻をすすりながらキスティーに話しかけた。


「…くしゅんっ! 珍しくうまくいったわね、キスティー。もう大丈夫かしら?」


 それを聞いて、キスティーは口を尖らせて反論した。


「珍しくって何?いつもできてないみたいじゃん!」


「できてないのよ。」


 アリシアは微笑み、迷いなく即答した。


 二人は崩れた土の壁と、その下に埋もれている魔獣を、何の関心も払うことなく通り過ぎた。


 二人の会話は、魔獣を処理した直後にも関わらず、何の変化もなく、続いていた。


「ね、アリシア。湖が凍ってたら、氷のお家作ろうよ!」


「くしゅんっ! いいわね。去年も作ったものね!」


 二人は、無邪気な会話とアリシアのくしゃみに彩られながら、雪に閉ざされた「人外の湖」へと進んでいくのだった。

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