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規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?  作者: 初 未来
氷の世界へGO!

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第100話 行ってみようよ!

 寒い戸外に出たキスティーは、勢いよく飛び出してきた時とは打って変わって、店の軒先に設けられた小さな木製のベンチに腰掛け、じっと一点を見つめていた。


 彼女の視線の先には、冷たい石畳の隙間に小さな穴を見つけ、その穴から出てきた一匹の小さな虫がいた。その虫は、自分より遥かに大きな、乾燥したパン屑を一生懸命に引っ張り、巣穴へと運んでいる。雪がちらつく厳しい寒さの中での、静かな生命の営み。


 (がんばれ、がんばれ…)


 キスティーは、無言で、その小さな奮闘を応援していた。彼女にとって、世界はいつも興味と発見に満ちた場所であり、アリシアを待つ時間さえ、貴重な観察の時間に変わる。


 やがて、店のドアが開き、何枚も重ね着をしたアリシアが、凍えるような顔をして出てきた。


「キスティー、お待たせ。…くしゅんっ! どこ行くの?決めた?」


 アリシアは、鼻をすすりながら、いかにも寒そうな声で尋ねた。


 キスティーは、虫から視線を外し、ぱっと顔を輝かせてアリシアを見上げた。


「これだけ寒いと、あの湖、凍ってるんじゃない? 行ってみようよ!」


 キスティーが言った「あの湖」とは、町から見て広大な魔獣の森の外れに位置する、少し離れた人間が近づかない、「人外」が出ると恐れられている場所だった。今でも騎士団の討伐隊が出動するほどの危険な場所とされていたが、キスティーたちにとっては、小さな頃から慣れ親しんだ、秘密の静かな遊び場だった。特に、極寒の季節には、湖面が完全に凍りつくため、格好の遊び場となっていたのだ。


 アリシアは、その場所の名前を聞いた途端、病的な不調が好奇心と興奮に塗り替えられた。


「あそこ?凍ってるかしら?いいわね!標高も高いし、雪もすごいかも。一面銀色の世界になってるかも!綺麗なのよね!」


 彼女の瞳がきらめく。危険な場所への無頓着さは、彼女たちにとっての「日常」だ。


「行きましょう!…くしゅんっ!」


 アリシアは、強いくしゃみで鼻をすすりながらも、迷いのない声で決めた。


 キスティーは、嬉しさのあまりピョンと飛び上がった。


「やった!じゃあ、ギル誘ってくるね!」


 キスティーは、勢いよく走り出し、鍛冶屋へと向かった。アリシアは、くしゃみと寒さで少し足取りが重そうに、その背中を追いかけるようにゆっくりと続いた。


 キスティーは重いオーク材の扉を押して、鍛冶屋の大きな工房へと足を踏み入れた。


 入り口の冷たい金属の匂いを押し分けて、くすぶった木炭の香りが漂っていた。


 工房の中は、外の光をさえぎる高い壁と、すすで曇った窓のため、全体的に薄暗い。しかし、天井近くの天窓から差し込む一筋の光が、ほこりの中を金色の帯となって降り注いでいる。


 奥には、堂々とした石造りの炉が鎮座しており、赤々と火が燃え盛る。炉の前に置かれた巨大な金床は、無骨な黒い塊だ。


 壁沿いには、キスティーが見てもわけの分からない、用途不明の多様な道具が整然と、あるいは無造作に掛けられている。巨大なトングやハンマー、タガネ、そして磨き上げられたやすりなど、これらがどれほど激しく働いたのかを物語るように、どれも柄が黒く油で光っていた。その中にまだ新しい小さなハンマー、ギルが買ってきたお土産もかかっていた。床は叩き固められた土で、ところどころに石炭の砕けたカケラや、使い古された木材、そして火花が飛び散った焦げ跡が見て取れる。


 工房の一角には、おそらく完成品か修理待ちの品々だろう、様々な金属製品が棚に並べられている。


 キスティーは周りを見渡して、大きな声で尋ねた。


「ギルいる? あ、おじさんおはようございます!」


 作業台の奥から、ギルのお父さんが、煤で汚れた大きなエプロン姿で顔を出した。その顔には、疲労と優しさが混じり合っている。


「おお、キスティー、おはよう。悪いな、あいつまだ起きてないんだよ。昨日、夜遅くまでなんか工房で作っててな。くたびれ果ててるようだ。すまんな。どこ行くんだい?伝えておいてやろう。」


 キスティーは、少し残念そうにしながらも、すぐに明るい表情に戻った。


「わかった!じゃあね、湖にいるって伝えといて下さい。凍ってるかもって!」


 キスティーは、いたずらっぽい笑顔で、手を振って、鍛冶屋を後にした。


 その直後、肩をすぼめたアリシアが、優雅な仕草ながらも心底寒そうな様子で鍛冶屋に到着した。


「あら?ギルは?いないの?病気?…くしゅんっ!」


 アリシアは、再びくしゃみをしながら尋ねる。


 キスティーは、立ち止まってアリシアに答えた。


「まだ寝てるって。だからあとから来られるように、場所をおじさんに伝えてきたよ。湖だよって!」


 アリシアは、寒さで少し重い頭を頷かせた。


「わかったわ。きっと後から来るわね。さあ行きましょうか…くしゅんっ!」


 アリシアは、顔を緩ませて微笑んだが、その表情は寒さによる体調不良を隠しきれていなかった。しかしアリシアは、この季節はいつもこんなものだと割り切っていた。


「うん!出発!」


 キスティーは、元気よく返事をした。彼女は、使い込まれたいつもの大きなリュックを背負い、アリシアは王都で新調した皮製の洒落たバッグを肩から斜めにかけ、二人は雪がちらつくコレットの町を、一路「人外の湖」へと向かった。その道行きは、子供たちの無邪気な遊びと、アリシアの止まらないくしゃみで彩られそうだった。

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