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第三話 幸せな声

-ヴィクトリアフォールズ-

アフリカ南部に位置する国、ジンバブエにある世界三大瀑布の一つである。

昼間は観光客で賑わうそこは、しんと静まる夜に覆われていた。

男は絶景を見る余裕などなかった。

もう少しだ。

もう少し。

この瀑布の向こうにいけばもう苦しまないで済む。

あと一歩、一歩踏み出せば…

「どーしたの?」

幼い声が、一歩を遮った


振り返るとそこには、星の光りに照らされた少女がいた。暗くてよくわからないが、日本では絶対見ないような薄手の服装。民族衣装だとしたら彼女は現地の子供だろうか?

「ねえおじさん、なにしてるの。滝を見るなら昼の方が綺麗だよ」

少女が問う。だが男は答えない。捕まった日からほとんど閉じた口は声を発することを拒んでいる。というか、馬鹿正直に死のうとしているなんて言えるもんじゃない。

男は少女を視界から振り切り前を見た。観光用の柵を越え、もう20mも進めば終わりである。

懐から果物ナイフを取り出した。雑に巻かれたチラシの鞘を捨て、逆手で握った。

そして、走り出した。無我夢中で目の前にある死という褒美に向かって。

柵を飛び越える。

「ちょっと!なにしてるのよ!!」

少女が叫んだ。そして同時に走り出した。

男は狂っていた。目の前の死に喜びを感じた。

親父のところに行けなくても、償いになる。

嫌な現実も捨てれる。

苦しみから解かれる。

あと少し、あと少しでもう終わ、

「おとなしく、しなさいっ!!」

突如男の首を硬いものが掠める。

拳くらいの大きさの石だ。

それは少女が投じたものだった。

成人男性なら痛いで済む一撃は、心も体もぼろぼろの男の意識を刈り取るには十分過ぎた。


(やっと死ねる。解放される。本来望んでた方法ではないけど、)

男はどさりと倒れる。

曖昧な意識の中、一つの疑問が生まれた。

(現地語なはずなのになんで女の子の言葉がわかったんだろう?)



男の朝はいつも、ぼろぼろのカーテンから差し込む日光と、部屋に溜まったゴミの匂いから始まる。

ただ、今日は違った。

大きく開いた窓から日光が降り注ぐ。

目を開けて見える天井はシミがあちこちについてるものではなく、石造りの歴史を感じるような天井だった。

体を起こすと壁も床も石造りであることがわかった。

死ねなかった。

男は落胆で俯いた。

すると、何か賑やかな声が聞こえた。

母の温かい声、父の優しい声、子供の歓声…


懐かしかった。

男も昔はこんな家庭にいた。

それを遠ざけた。

遠ざけてしまった。自分自身で。

あの日男の元に来ようとしていた父は、そこに引き戻そうとしてくれていたのかもしれない。

そう考えるともう、目からは大粒の涙が流れる。

うーうーと、赤子のような情けない声で泣いた。成人男性がこんな泣き方をしたら普通はドン引きされるし外でしたら通報案件だろう。ただ男はもうボロボロで、言葉すら発せれない赤子同然だったのだ。

戸が開いた。

「あ!おじちゃん起きた!!」

出てきたのは、倒れる前に会った少女だった


コロナ感染とかで更新遅くなりました

すみません


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