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第二話 ぐるぐる

縁を切った親父が死んだ。

交通事故だった。

警官は続けて言った。

「お父様は事故の日の朝、家族の方に『ちょっと出てくる』といい車で家を出ました。そしてここから1kmちょっとくらいの国道で中央分離帯に突っ込み、亡くなられました。運転中に突如、持病の発作が起きたと推定されます。」

男は驚いた。なぜ親父は自分の家の近くで死んだのか。男の実家は他県にあり、ここに来るには車で3時間くらいかかる。

(それに親父は昔、交通事故で妹…俺にとっては叔母をなくしてそれがトラウマでよっぽどのことがないと車を出さなかったのに!)

さらに警官は続きを語る。

「搬送された病院では、お父様は貴方の名前をずっと繰り返し読んでたと看護師の方から伺いました。」

男は理解した。親父は自分が死に際だとわかっており、最後に自分に会おうとして車を出したのだ。そして事故が起き、逝ってしまった。

理解した瞬間、男は膝から崩れ落ちた。

警官二人が駆け寄ったが振り払った。

ゆっくりと立ち上がり警官に会釈すると、男はドアを閉めた。


俺のせいだ。 なんてありきたりな自分を責める台詞がぐるぐると駆け巡る。


もしちゃんと一人前に働いていれば。

もし定期的に電話でもしてれば。

もし罪を犯さなかったら。

もし生まれてなかったら。


ぐるぐるぐるぐる

ぐるぐるぐるぐる


俺がいるから

俺ががいたから

俺がいなかったから

俺がいなくなったら


ぐるぐるぐるぐる

ぐるぐるぐるぐる


3日たった。

男は中身が乏しい財布を持ってホームセンターに行く。

何を買って何をするかは決まっている。

作業用ロープ ¥600

無言でカゴに入れる。レジに並ぶ。

前に並んでいたのは親子だった。

「おとーさん水鉄砲ありがとー!」

「よし!帰ったら試運転だ!かかってこいよ!」

ただのどこにでもいる父と息子の楽しげな会話。男はそれを見た途端、胃から酸っぱいのが込み上がってきた。買い物カゴを放り、急いでトイレに駆け込んだ。吐いた。吐いた。吐いた。

ここ3日何も食べずにいた体とは思えないほどの量の嘔吐物が吐き出された。白い便器はみるみる周りを汚してく。

そして口からだけでなく、目からも体液を垂れ流した。大粒のそれは視界をぼやけさせる。

ただ、声をあげて泣くことはなかった。

己の声を失った男は泣き方すら忘れ、ただ嘔吐による息苦しさで喘いでるだけだった。

どれだけ経っただろうか。

嘔吐がおさまり、男は少し落ち着いた。無論、吐き気はまだ全然残っている。目を擦って自分の姿を見ると汚らわしいという言葉では罵るのに足りないほど汚れていた。着ていたジャージは嘔吐物の酸っぱい匂いと黄色い汚れがつき、下は股間の辺りが濡れていた。失禁もしていたみたいだ。

男はただ虚しかった。これまでは少し羨ましいと思っていたくらいの他人の姿が、ひどく羨ましく、そして憎く思った。

とりあえず掃除をして、この格好ではレジに戻ることもできないので帰路に着くことにした。ホームセンターを出てしばらく歩くと、いつも見慣れている店広告に不意に目が留まった。

『アフリカ大陸観光ツアー』

そこは老舗の旅行代理店だった。昔は繁盛していたが大手に客を取られて、現在は近くの中小企業の社員旅行を中心に業務を行っているらしい。

なんとなく目に留まったアフリカツアーの広告。売れてるのかは知らないが大々的に飾られてるそれには、大きな滝が写っていた。

その壮大さは写真でもとても伝わってきた。

そして同時に思った。

ここで俺は死ぬのだと。

帰った俺は汚れた服のことも忘れ、ゴミ箱を漁った。滅多にゴミ出しをしないから古いのだと半年前のゴミとかがある。さっき自分の口から出たものに等しい匂いのゴミ箱を漁り、しわしわになったそれを取り出した。

終末旅行券。

悪魔と思われる者から送られたそれを握りしめた。

(手紙にはイメージってあった。さっきの滝を思い出して…)

【目を瞑った。壮大な滝、崖。自分をちっぽけと感じさせる瀑布。水のカーテン。】

イメージ中、男は大事なことを思い出してキッチンの走った。おそらく2、3回しか使わなかった果物ナイフ。刃にチラシを巻いて懐に入れた。落下だけは生き残ってしまうかもだから。自分をそんな屈強だとは思ってないが。

再びイメージ。

【目を瞑った。壮大な滝、崖。自分をちっぽけと感じさせる瀑布。水のカーテン。】

空気が変わった。

風を感じ外に出たのだと思い目を開けた。

目の前に広がっているのは大瀑布。

ヴィクトリアフォールズだ。



いきなり汚いシーンきて不快に思った方いたらごめんなさい。

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