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7.なろう主人公と万引き未遂

回路繋ぐゲーム、昔なんかのフラッシュゲームでやった経験があります……。

 今日の授業が終わり、バイトのために今日も『Random Play』に向かう。学校に友達はいないのでスムーズに校舎を出ることが可能である。悲しくなんてない。……ない。


 バイトの開始時刻までにはまだ時間があるから、ゆっくりと向かう最中の事だった。道端に座り込んでいるボンプがいる。電池切れではなく、なんだか調子が悪そうだ。時計を見てからそのボンプに近づいてみる。


「思った通り、調子が悪くなってるみたいだな。どれどれ……」


 俺は時々、調子が悪くなったボンプを見かけたら修理するようにしている。ボンプの修理方法はとっても簡単。向きがバラバラになった回路を適切な方向に回転させることで、電気が通るようになりボンプが復活するのである。


 ちなみに直してあげる理由は、どこからか小遣いがもらえるからだ。小遣いの出どころは謎だけど、なんと非課税。人助けはするもんですよ、やっぱり。人じゃなくてボンプだけど。



 修理はめっちゃ簡単、なはずなんだけど、こないだエンゾウさんとその話をしたら何故かとても驚かれてしまった。俺なんかやっちゃいました? とか冗談で思っていたのだが、なんか空気がガチすぎて怖かった。エンゾウさんは何かを考えこんだ後、うちの店で働かないかと勧誘された。

 

『いいかサク、ボンプをちゃっちゃと直せるやつなんざ俺の知ってる限りでもアキラとリンぐらいしかいねぇ。おめぇのその才能は燻ぶらせるにゃ惜しすぎる。よく考えておいてくれ』


 凄く真面目な顔で言うもんだからその時は言えなかったけど、今ならはっきりと言える。





 誰でも出来るわあんなん。




 

 適当に回してたらなんか出来てた、ぐらいの難易度じゃん。時々『お、ちょっーとだけややこしいな?』ぐらいのやつはあるけどそれで詰むほどじゃないし。


 あと修理にはもう一つパターンがあったな、あのリズム(?)ゲームが。正直あれでボンプの調子が直る仕組みは全然わからん。周波を一定にしてるとか? 低周波マッサージ的なことなのだろうか。知らんけど。




 店に入ると、レジには先に店番をしていた大人の女性が座っていた。いかにもメカニック、といった格好をしているその人は俺が入った事に気づいて立ち上がる。

 

「……時間通りに入ってきた学生の少年、という事は君が例のバイト君かな?」

「あ、はい。そうです」

「ふむ。なら私の店番という役目はこれで完了だ」


 彼女の名はグレース・ハワードと言うらしい。アキラから名前だけは先に聞いていて、俺の登校が終わり次第、彼女と店番を交代するという流れになっていたのである。どうも彼女は要注意人物だという噂があるのだが、パッと見そうは見えないからきっと別人だろう。


「それじゃあ私はこれで失礼するよ。アキラとリンには私の方から連絡を入れておくから安心してくれ」

「ありがとうございます、お疲れさまでした」


 おお、ビジネスライクな距離感。職場の関係って感じでなんか良い。もしかすると数少ない常識人なのかもしれないな。俺の横を通り過ぎて店を出ようとする彼女の後姿を見る。と、ここで俺は彼女のシルエットに違和感を発見した。



 

 

 あれ? グレースさんが脇に抱えてるの、イアスじゃね?





「あの、グレースさん? その抱えているボンプ……」

「ん? 私のイアスに何か用かな?」

「いやあんたのじゃないだろ」

「ンナァ……」


 なぜか我が物顔しているグレースさん。さっきは気づかなかったけどよく見たらイアスを見てよだれを垂らしている。あれ、もしかしてこの人も変人か? それにイアスがずっと怯えてるんだけど一体何があったんだ?


「え、まさか万引き? ビデオじゃなくてイアスを? とりあえずアキラかリンに連絡を――」

「待ってくれ少年! ……まずは聞いてほしい。機械に目が無さすぎて人の名前をまるで憶えないと定評のある私が、研究時間を割いて店の手伝いをしたんだ。ならば相応の報酬が必要、そうは思わないか?」

「……確かに報酬は必要ですね」

「だろう!? 私にとってはイアスをちょっとお借りして隅々まで研究すること。つまりこれは正当な報酬であるはずだ!」

「いや、その理屈はおかしい」


 何だろう、話せば話すほど彼女の良いイメージが崩れ去っていく。正当な報酬って貰う側が勝手に決めちゃいけないのでは? サクは訝しんだ。


「既にイアスの了承も貰っているんだ! そうだろうイアス!?」

「ナ・ナ・ナ、ン・ン・ン、ナ・ナ・ナ……」

「SOS信号出してるじゃねえか。速攻で嘘確定したぞ」


 とある歌が流行っていたお陰でSOSのモールス信号だけは知っている。これ絶対イアス了承してないじゃん。くそう、第一印象では常識人だと思っていたのに。ビジネスライクだったのは、単に機械にしか興味が無いだけだったとは予想外だった。



 彼女はイアスをしっかりと抱えて離してくれそうにない。しかしイアスは店長、もといパエトーンに必須の存在って聞いた気がするから守護らねばならぬ。


「……わかりました。ただし俺が今貴女を見逃すには1つ、条件があります」

「わかった、条件とは何だい? イアスのためなら私はどんな試練でも――」




 

()()()()()()()()()()?」

「――なっ!?」





 グレースさんは、人に興味がない。アキラから事前に聞いていたはずの俺の事を、名前で呼んでこない。


 そう、彼女は俺の名前を覚えていないのではないかと踏んだのだ。読みは当たっていたようで、とても追い詰められた顔をしている。ついでに俺の心はとても傷ついた。二文字ぐらい覚えてよ。こんな悲しい読み当たって欲しくなかったわ、ちくしょうめ。


「…………くっ、仕方ない。今回()引き下がるとするよ」

「今回()じゃなくて。万引きするんじゃなくてアキラに許可取ればいいんじゃ……」

「それが出来たら、どんなにいいことか! 許可を貰えた試しが一度もないんだよ……」


 どんだけ信用されてないんだよ。でもアキラの気持ちもわかる気がしてきた。この変人にイアス預けたら何されるかわかんないもんね。


「それじゃあ、私はこれで失礼するよ……。次こそは必ず……」


 こうしてグレースさんは渋々イアスを置いて帰っていった。あと不穏な事を言い残していった。グレースさん、俺の名前聞かなくてよかったのかな。盗もうとしたらまた同じ質問で俺に止められちゃうけど。……何だか泣けてきた、もうこないでねー。

作者は仮天井3連続すり抜けでグレースが2凸になった事をやや根に持っています。

他の恒常まだリナ無凸しか無いってのに……。

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