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9.揺れる乙女心……?

出て行った時と同じように、窓から自室へひらりと侵入すると、私はすぐさま変身を解いた。

『魔法令嬢ミルキーレナ』から、ただの『伯爵令嬢イレーナ』に戻ると、途端に安堵感を覚えてしまう。


慣れないことをしたせいで、精神的に疲れてしまったわ。

身体は元気そのものなのだけど。


何もやる気が起こらなかったが、ペロペロには一言物申さずにはいられない。

いや、二言、三言は言いたいところだ。


「ちょっと、ペロペロ! 思いっきり騎士団長様に見られていたじゃない! ミルキーレナには認識阻害の力が働いているんじゃなかったの?」

「そうじゃのう~、おかしいのう~」

「あの人、『氷の騎士団長』って呼ばれているのよ? いつも無表情で、噂では『剣の腕は王国一、その怖さは大陸一』とか言われているんだから!」

「それはこわいのう~」

「そんな怖い人に見られちゃって、もし私が『ミルキーレナ』だなんてバレたら……」

「それはこまったのう~」


私が必死の形相でペロペロに詰め寄っているというのに、カメの反応はすこぶる鈍い。

変身を解き、私が元の紺色ワンピース姿へ戻ったのと同時に、ペロペロもぬいぐるみから大きなカメへと戻っているのだが、さきほどから床で微動だにしないのである。


おじいちゃんカメであることから推察するに、もうおネムの時間なのだろう。

というか、もう半分寝ている。


それにしても、変身には時間がかかったのに、解除は簡単すぎて呆気ないほどだった。

『解除』と念じるだけで一瞬でイレーナに戻れていたことを考えると、変身する時にかかっていたあの時間や光もただのパフォーマンスだったのではないかと勘繰りたくなってしまう。


「それにしても、騎士団長様にはどうして私の姿が見えたのかしら?」

「只者ではないのう~」

「しかも話までしてしまったわ」

「お前さんに興味があったんじゃのう~」

「そりゃあ、あんな姿であんなことしでかす女がいたら、誰だって興味を持つでしょうよ」

「……そういうことでも……ないんじゃが……のう……」


意味深に呟いたまま、とうとうペロペロは目を瞑って寝てしまった。

人を振り回しておいて、自由なカメにもほどがある。



しばらく部屋を留守にしていたにも関わらず、私の不在に気付いた者はいないようで、屋敷はいつも通りだった。


案外気付かれないものね。

まあ、前世の記憶を取り戻してから私が挙動不審なせいで、ちょっと距離を置かれているせいもあるのかもしれないけれど。


夕飯まではまだ少し時間がある為、さきほどの事件を思い返してみることにした。


魔法の力がすごいのは理解できたけれど、問題は無意識に高飛車な言動になっていることよね。

台詞もポーズも、全体的にそこはかとなく『残念な悪役令嬢感』が漂っていたもの。


その辺についてはペロペロに改善を求めたいところだが、『ミルキーレナ』に変身して戦うことに関しては、思ったほど嫌ではなかったのが不思議だった。


自分でも予想外だったけれど、案外気持ちが良かったのよね。

本来守られる側である令嬢の私が、あの騎士団長様より先に悪を倒したのよ?

特に危険な目にも遭わなかったし。

それにしても、氷の騎士団長様ってあんなにイケメンだったっけ?


今までもパレードなどでクラレンスの姿を目にしたことはあるはずなのに、前世の記憶を取り戻して好みが変わったのか、今日の彼はとてつもなく素敵に見えた。

世間で言われている怖いというイメージよりも、真面目で頼りになる格好いい騎士という印象が強く残ったのだ。

初めて見た彼の笑顔のせいかもしれない。


クールでストイックな美形騎士団長サマとお近付きになれるなんて、これも変身したご褒美なのかもしれないわ!


「露出した足を気にするあたりが、普通の青年っぽさも感じられてポイント高いし。もしや、氷の騎士団長様って硬派に見せかけて実はムッツリ……」

「ムッツリ……ムニャ……」


私の独り言を変な所だけ繰り返すカメのせいで、うっかり前世の七つの玉を集める物語のカメの仙人を思い出してしまった。

どうにも少女漫画になりきれない自分に苦笑してしまう。


ミルキーレナに変身したら、また団長様に会えるのかしら?

会いたいような、正体がバレてしまうことを考えると会いたくないような……。


なんて、まるでヒロインになった気持ちで揺れる乙女心を楽しんでいたら――

あっという間に騎士団長サマに再会してしまったのだった。

早くも二日後、次の現場で……。


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