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8.騎士団長の推理(騎士団長目線)

金色のポニーテールが夕焼けを反射しながら遠ざかっていく。

先ほど目にしたのと同じすばしっこさで、ミルキーレナはあっという間に俺の視界から消えていった。


「やれやれ、逃げられてしまったな……」


鮮やかな去り方に感心しつつも、引き留めたい思いから反射的に発した己の言葉に、苦笑が漏れてしまう。


我ながら呆れるな。

よりによって咄嗟に口をついたのがズボンの丈への苦言とは……。


確かに足の露出に心がざわついたが、他に尋ねるべきことは山ほどあったというのに。

冷静に接したつもりでも、やはり浮かれていたらしい。


しかし、最後に手を振りながら微笑んだ彼女は、美しいと同時に非常に可愛らしかったと思う。

誘拐犯と対峙していた時は堂々としていて凛々しく見えたのに、実際に話してみた彼女は気さくな雰囲気で、どちらの姿も俺には好ましく感じられた。


「団長! 一体何があったんですか?」

「突然こちらの方角が光ったので……って、え、この倒れている者どもは例の子供を攫っていたやつらでは?」

「あ、子供もいるじゃないですか! すぐに保護しないと」


やってきた騎士団の面々がすぐさま犯人らを拘束し、子供を抱き起して介抱し始めた。

二人の子供は眠らされていただけで、やがて目覚めると母親を求めて泣き出してしまう。


「話はまた今度聞くとして、とりあえず子供たちは自宅に戻してやってくれ。船のほうはどうなっている?」

「はっ。なぜか見張りもいないので、残されていた子供たちを次々と救出している最中であります。それにしても、お一人で犯人全員をおびきだし気絶させるとは、さすが団長です!」


キラキラした目で部下に見つめられ、居心地の悪さからつい悪態を吐いてしまう。


「そういうのはいいから、さっさと終わらせて撤収するぞ。暗くなると面倒だ」

「「はいっ!」」


いい笑顔で部下が船に向かって駆けていくが、正直俺は今回何もしていない。

好奇心からミルキーレナを追いかけ、あとは彼女が男に殴りかかるのをハラハラしながら見守っていただけなのだ。

いつでも加勢……いや、彼女を守れるようにとスタンバイはしていたものの、結局俺の出る幕など全くなかった。

自分の不甲斐無さに笑えてくるほどである。


そういえば、途中、男たちから妙な黒い煙が立ち上がっていたな。

嫌な気配を感じたし、皆うつろな表情な上、腕をだらんと下げた不自然な格好で近付いてきていた。

あれはなんだったのだろうか?

そして、彼女の不思議な力……。


「邪悪な魂を高貴な光で照らしてさしあげましょう。魔の力よ、わたくしの元にひれ伏しなさい!」


ミルキーレナはそう声を張り上げ、その後「ミルキーサンシャイン」と声高に叫んだと記憶している。

するとたちまち彼女の持っていた扇子から光が溢れ、眩しさに思わず瞑った目を開けた時には、奴らは地面に伏していたのだ。


あれは一体……?


気にかかることは多いが、とりあえず犯人の捕縛と攫われた子供たちの保護を終えた俺は、騎士団本部へと戻ったのだった。



「いやー、お手柄だったね、クラレンス! 皆、君の話で持ちきりじゃないか」


とりあえず本日分の処理を終え、本部を出たところで声をかけられた。

相手はオリバー殿下で、第二王子の彼とは騎士学校で共に汗を流した仲だ。

『氷の騎士団長』などと呼ばれる俺に、普通に声をかけてくる奇特な人物でもある。


「これはオリバー殿下」

「ん? なんだい、その浮かない顔は。せっかく人身売買の犯人を船ごと摘発できたというのに。これで今まで謎だった組織の実態が解明できるかもしれないのだろう?」

「それはそうなのですが」


確かに犯罪組織の内情が明らかになるのは良いことだが、自分は何もしていないのだ。

手柄だと言われて複雑な心境になるのは仕方がないと思う。


すべてはミルキーレナの活躍に過ぎないしな。


しかし、彼女のことを報告するのはなぜか憚られ、誰にも真実を告げられてはいない。

とても不可思議な出来事だったし、だからこそ情報を共有するべきだと頭ではわかっているのに、報告したくなかった。

ミルキーレナという存在を、他の人間に教えたくないと思ってしまったのである。


彼女はどうしてあの場にいたのだろう。

奴らの悪事を知っていた?

正義の味方と言うには可愛らしい顔をした、華奢な女性だったが。

……また会えるだろうか。


最初は人かどうかも疑っていたというのに、今では一人の女性としか見えなくなってた。

しかも、彼女のことを考えると自然に顔が熱くなってくる。

これでも氷の騎士団長と呼ばれ、騎士にすら恐れられているというのに。


ありがたいことに、殿下は俺の顔色に気付くことなく話を続けてきた。


「それにしても良かったよ。人さらいが出ると貴族たちの間にも不安が広がっていたし、怖がる令嬢も多いと聞いていたからね」

「令嬢……」


そうだ、令嬢だ!

彼女は『魔法令嬢ミルキーレナ』と名乗っていたではないか。

何者かがわかれば、また会えるかもしれない!


「殿下、ありがとうございます!」


俺は殿下の手を握ってブンブン振ると、ポカンとする彼を置いて、そのまま騎士団寮の自室に籠った。


そうだ、『魔法令嬢』と自ら名乗ったのだから、彼女は令嬢という立場にある者と考えるのが自然だ。 

『ミルキー』がミルキー王国からきていると考えれば、他にヒントになるのは『レナ』か。


「『ミルキーレナ』、次に会えたら今度は逃さないからな」


クラレンスが推理力を働かせ、初めての執着を見せる頃、イレーナが思い切りくしゃみをしていたのは言うまでもない。

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