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魔法令嬢に変身したら、氷の騎士団長サマがかまってくるのですが。  作者: 櫻野くるみ


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10/15

10.カメは見抜いていた! 氷の騎士団長はただの拗らせ男だと

初めてミルキーレナに変身した二日後、私はペロペロの居る庭で地団太を踏んでいた。


「もう、全部ペロペロのせいよ! 『最近イレーナお嬢様の様子がおかしいと思ったら、とうとうカメと心を通い合わせたらしい』とか、屋敷中で噂になっているんだから!」

「ふぉっふぉっ、当たらずとも遠からずじゃな」

「どこがよ! 大ハズレもいいところだわ!」


プリプリする私の隣で、ペロペロは今日も呑気に菜っ葉をむさぼっている。

怒りついでにミルキーレナの変身過程や決めポーズ、台詞の改善について訴えてみたが、あえなく却下されてしまった。

そういう細かい部分はそれぞれの変身道具の個性なんだとか。

なんじゃそら。


「どうせ誰に見せるものでもなし、多少気に入らなくとも構わんじゃろう。『気にしたら負け』じゃ」

「またそれ? 実際、あの偉そうな態度を騎士団長様に見られちゃったのよ? 気になるに決まっているじゃない」

「おぬし、あの男にホの字なのじゃな?」

「古っ! そんなんじゃないもの……たぶん」

「ふぉっ、若いのう」


照れ隠しで芝生をプチプチ抜きまくる私と、甲羅干しをするカメ――

そんなのどかな昼下がりに、またしても鳴り響くブローチの音。


「え、ペースが早くない? また何か事件が起きたの?」

「ふむ。怪しい化粧品を売る店があるようじゃ。買った客に健康被害が出ておるようじゃの」

「それはひどい話ね。女性の敵じゃない。すぐに行くわよ! ……って、いちいち部屋に戻って変身するのって結構面倒よね」


庭から自室まで戻っている時間が惜しい。

しかもペロペロの移動速度はなかなかにスローリーなのである。


「ワシの小屋()を使ってよいぞ。実はあそこにも認識阻害の……」

「出た、認識阻害! 悪いけど私、ソレ信用していないのよね」

「本当に失礼な女子(おなご)じゃのう。誰にも見られやせんて。初回は姿見があるほうがよいと思ったから移動しただけじゃ」

「まあ周囲に誰もいないし、いっか。だったら遠慮なくお借りするわね。お邪魔します」


考えてみれば私が頼んで用意してもらった小屋なのだが、なんとなくお客様気分でカメの小屋に足を踏み入れ、叫ぶ。


「ミルミルミルキー、ドレスアップ!」


ブローチから光が溢れ……以下略。

私はまたしても例の悪役令嬢ポーズで変身を終えていた。



ぬいぐるみになったペロペロを肩に乗せ、街に向かい、路地裏の小さな店の前に辿り着くと。


「ミルキーレナ! また会えたな!」


なぜか嬉しそうに破顔する騎士団長サマが立っていた。


この方、本当に氷の騎士団長と呼ばれているのよね?

こんなに表情が豊かだなんて聞いていないわ。


見上げるほど身長が高く、剣を握れば(かな)う者なしと恐れられているクラレンスだが、今の彼はまるでしつけの行き届いた美しい大型犬のようだ。

もししっぽが見えたなら、きっとブンブンと素早い速度で大きく揺れているに違いない。


しかし、それだけ再会を喜んでくれているのかと思うと、こちらも嬉しくなってしまう。

もう一度会いたいと願っていたのはこちらも一緒なのだから。


「騎士団長様、またお会いしましたね。今日はどうしてこちらに?」

「最近この店の商品を使用した者の肌が爛れたり、高熱を出したりしていると耳にした。俺の部下の妻も寝込んでいるという話だ」

「まあ、ひどい! やはり商品に問題があるのでしょうか? 私、偵察してきますね」


入口の扉に手をかけた私だったが、即座に左腕を団長に掴まれてしまった。


「待て。危険だ」

「大丈夫ですよ。それに、ここは化粧品を扱うお店ですよ? 女性の私のほうが適役でしょう?」

「だがしかし……」


団長は渋っているが、正直あの尊大な態度で戦う様子を彼にはあまり見せたくない。


「ちょっと様子を見てくるだけなので、団長様は店の外でお待ちください。何かあればお呼びしますから」

「では約束してくれ。商品には絶対触れないこと。もし君のこの愛らしい顔が爛れることになったら俺は……」


へ?

愛らしい顔?


首を傾げようとしたが、団長の大きな手のひらが私の左頬を包み込み、顔を覗き込まれてしまった。

近付いた深い群青色の瞳に吸い込まれそうになるのを、ペロペロが蹴って現実に引き戻してくれる。

グッジョブ、ペロペロ!


「何をしておる。()くぞ」

「そうだった。うっかりときめきモードに入るところだったわ」


そっと団長から離れるが、なにやら彼のモノローグらしきものは続いている。


「いや、たとえ姿、形が変わろうとも君の魂の美しさは変わることはないのだが。戦う君の姿は凛々しく、気高い。俺は君という存在を感じるだけで……」

「……ペロペロ、団長様は大丈夫かしら? もしかして悪の組織に意識を乗っ取られていたりする?」

「気にせんでよい。ちょっとした(恋の)病じゃ」

「え、大変じゃない」

「じきに治るじゃろ。……お前さん次第じゃが」


え、私?


疑問に感じつつも、店のドアを今度こそ開ける。


『どいつもこいつも世話が焼けるのう。特に氷の騎士団長(あやつ)は拗らせすぎた、ただの面倒な男じゃな……』


ペロペロが長い溜め息を吐いたが、私が気付くことはなかった。

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