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1.私が『魔法令嬢』!?

久々の連載形式です。

ぶっ飛んでいますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

「お前さんには魔法令嬢に変身し、この世界の平和を守る使命があるのじゃ!」

「へ? 使命? 魔法令嬢?」


魔法令嬢って……何だっけ?


午後のティータイムを早めに切り上げ、顔を出した屋敷の庭にて。

明るい日差しと甘く香る花々の中、聞き覚えのない単語に思わず首を傾げ、頭の中に大きな疑問符を浮かべてしまった私は悪くないと思う。

確かに私は貴族の令嬢ではあるけれど、この世界に魔法なんていうものは存在しないはずなのだから。


「そうじゃ。『魔法令嬢』じゃ」

「えーと、前世で流行っていた『悪役令嬢』ではなくて?」

「ふぉっふぉっふぉっ。そういえばそんな者もおったかのう。いや、ワシが言っとるのは『魔法少女』とか、『魔法戦士』の仲間の『魔法令嬢』じゃよ」

「あ~、そっちね~」


……って!

そっちってどっちよ!?


魔法少女や変身ヒロインなら、私だって少しは知っている。

正直違いはよくわからないけれど、前世の知識、日本で暮らしていた記憶があるからだ。


それはわずか三日前のことである。

伯爵令嬢である私、イレーナ・グラスミルキーは十八歳の誕生日を迎えていた。

自分で言うのもなんだが、これまで令嬢の中でも楚々とした雰囲気だとひそかに評判だった私に、日本で生きていた頃の前世の記憶が唐突に蘇ってきたのだ――それも日付が変わった瞬間に。


どんな時限装置よ?と思わなくもなかったが、おかげで誕生パーティーの主役だというのにその日のコンディションは最悪だった。

前世での陽気でがさつな性格が急速に混ざり合ったせいか、私の妙なテンションとノリの良さに、家族だけでなく多くの招待客が引いていた。

確実に婚期は遠のいたと思われる。


まあ、それは一旦置いておくとして――今現在も進行形でダメージを負ってはいるのだけれど。


気を取り直して質問をしてみる。


「えーと、魔法少女なら知っているわ。変身して人助けをしたり、悪を倒す女の子のことよね?」

「うむ。『魔法令嬢』とは、言わばその令嬢バージョンじゃな。魔法で変身して悪の組織に立ち向かう令嬢のことじゃよ」

「なるほどねー……って、そんなの初めて聞いたけれど。もしかして、私の今の立場が令嬢だから『魔法令嬢』なの? 変身前の身分や立場で呼び名が変わるものだとは思っていなかったわ」

「まあ、ここは異世界じゃからのう。気にしたら負けじゃ」

「……そういうもの?」


魔法少女自体に詳しかったわけではないが、正直そんなシステムではなかった気がする。

年若い女の子という印象が強い『魔法少女』だが、大人になって職に就いたら『魔法保育士』や『魔法薬剤師』なんて呼ばれることもなかったはずだ。


そもそも大人でも魔法少女ってなれるのかしら?

あ、セクシーなお姉さんが変身するアニメもあったからアリかも?

でも『魔法薬剤師』って、ポーションとか作り出しそうなイメージでワクワクはするわね。


大きく思考が脱線してしまったが、しょせん魔法少女に関しては素人の私だ。

ここは日本とは違う異世界なのだし、違いなど『気にしたら負け』なのだろう。


つまり、今の私がとりあえず理解できたのは、何とも胡散臭い話であるということだけである。

ただ、自分が転生者であることを知っている相手との会話は、思いのほか心地良くもあり、もう少し続きを聞いてみたい気にさせられてしまった。


「まあ呼び名はともかく、お前さんにはこの世界初の『魔法令嬢』になってもらいたいのじゃよ。この国には『変身』すら浸透していないからのう」

「それが普通だと思うけれど」

「何を言う。『変身』はロマンなのじゃ。お前さんはこの世界における変身キャラの先駆けとなり、皆にその存在を知らしめるのじゃ!」

「ほうほう、私がこの世界で初めての変身キャラに。…………って! いやいやいや、無理だよね? 私、魔法も使えないし、変身だってできないわよ? なんてったって普通の貴族令嬢だもの」

「そんなの知っておるわい。だから魔法『令嬢』と言っておる。変身道具なら貸与するから安心するがよい」

「ありがとう!って、そういう問題でもないのよ。むしろ魔法道具でどうとでもなるなら、変身するのは町娘や侍女だっていいじゃない。この世界、令嬢もピンからキリまでいるんだから、何も私じゃなくたっていいでしょう?」

「だめじゃ」

「どうして?」


食いぎみに理由を問えば――理由は至極簡単なことだった。

私以外にこの世界に魔法少女や変身ヒロインの概念を持っている人間がおらず、その存在を一から説明をしなければいけないのが面倒らしい。

確かに予備知識のない初心者に、魔法やら悪の組織、謎の呪文やポーズの意義を説明するのは骨が折れるだろう。

……気持ちはわかる、わかるよ、わかるけれど!


「そんな消極的な理由で選ばれても……。それに私は令嬢なんだってば。気軽に外出したり、ましてやお転婆なことはまずいのよ。ただでさえ、記憶を取り戻してからの言動のせいで引かれぎみなんだから」

「ふぉっふぉっ。その点なら大丈夫じゃよ。ほら、アニメでも魔法少女は変身後もバレていないじゃろ? 顔が同じでも認識阻害っちゅうやつが働くんじゃ」

「そういうことを言っているんじゃないのよ……」


私は伝わらないもどかしさにガックリと肩を落としたのだった。

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