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最後の審判

作者: 小雨川蛙

 

 荒廃した星の果て、最早たった二人きりになってしまった人類が泥水を欠けたコップに入れて乾杯をしていた。

 彼らは世界で最後に起きた戦争の生き残りだった。

 何故、最後と断言できるのか。

 それは此度の戦争で二人以外の人間が滅び去ってしまったからだ。

「まずいな」

「そりゃ、泥水だからな」

 そう言って二人は笑う。

 乾いた大地に響く、ヒビのある笑い声。

 鳥や獣の息遣いは聞こえない。

 死に絶えてしまったから。

 這う虫さえも居ない。

 地面の中さえも人間の兵器で汚染されてしまったから。

 二人はほぼ同時に視線をタイムマシンへと向けた。

 そう。

 これは二人が偶然見つけた希望そのものだった。

 密かに開発されていたこの機械は、大戦争が起こる直前に多くの特権階級の者達を他の時代に逃したのだ。

 きっと、逃げた人間達は思い思いの時代で幸せに暮らしているに違いない。

「なぁ」

 一人が問う。

「本当に良いんだな?」

 投げかけられた言葉に対し、もう一人は淀みなく頷いた。

「あぁ。俺はそれでいいさ」

 答えを受け取った方は皮肉的な笑顔を浮かべる。

「それじゃ、押すか」

「あぁ。二人でな」

 言葉を交わして二人はタイムマシンに乗らないまま発進のボタンを押した。

 直後、タイムマシンは二人の前から消えた。

 そして、その数秒後。

 残されていたはずの二人もまた存在そのものが消えてしまった。


 時代は万単位の時間を遡り、まだ文明という概念が出来たばかりの人類の下にタイムマシンが不意に出現した。

 当然ながら人類はこれが何物であるのかを調べ始めたが、まだ人類たちには時代を移動するという概念が存在しなかった。

 だからこそ、謎の物体の中に入っていた一つの箱にこそ興味を惹かれていた。

 箱自体は鉄で出来ていたが、この時代の人間でも時間をかければ破壊することは容易だった。

 そして、開かれた箱の中身は。

「空っぽだ」

 始めに中身を覗いた人間が言った。

 その言葉を聞いた人間達が次々に箱の中を覗き、その言葉が事実であるのを確認し落胆した。

 箱の中は空っぽだった。

 少なくとも、この時代を生きる者達にはそうとしか見えなかった。

 しかし、真実は違った。


 二週間ほどして、人々の間に不治の病が流行りだす。

 遥か未来……つまり、タイムマシンを発進させた二人の時代ではありふれた病だった。

 だが、この時代においては治療法が存在しない。

 病は風のように早く、隙間もなく、人々に伝染し十年を待たず人類そのものを絶滅させてしまった。


 この星から人間を消し去り、全ての命を守るという願い。

 最早誰も知る由もないが、今や存在しない未来に居た最後の人類の悲願はこうして果たされたのだった。

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