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親切なお姉さん?

放課後、約束通り3人はガッキー通りへと繰り出していた。

新しく出来たスイーツ専門店へ行きお目当てのスイーツを味見し合う。そのあとは通りの気になるお店を覗いたりしてしばらくぷらついたあと、商店街のゲートにある時計が6時の鐘を鳴らすのを合図に、それぞれの帰途へ着いた。

玉希と由加は駅へと向かう。電車通学だ。


徒歩通学の花音はいつものように近道である公園に入っていった。

左手に学生鞄、右手にはスイーツ専門店の紙袋が揺れている。


(お兄ちゃんあの店の味ならきっと気に入るわ。いつも迷惑かけているから甘いものでゴマすっておこう)


いたずらっぽくほほ笑みながら夕暮れの木立を軽い足取りで進む花音。

道の両端には灯がともりつつあるが、その奥、木々の先では黒々とした闇が勢力を塗り替えようと迫っていた。人の気配はなく、辺りに響くのは花音の足音だけである。誰もいないことをいいことに花音は調子外れの鼻歌を歌い出した。


ふ・ふ・ふーん♪ ふ・ふ・ふーん♪ ふふふふーん♪ ふふふん♪


有名な曲のようだがおそらく花音以外には何の曲かわからないだろう。

そんなことはお構いなく、スイーツの袋を振り回して行進するかのように手足を大きく動かしている。袋の中身が焼き菓子であることを祈るしかない。


そんな花音の後ろを音もなくついてくる男女がいた。


「本当にあの子なのか?」

「間違いありません」


先に声を発したのは、暗がりの中でもはっきりとわかるほどの美貌を持つ女だ。透き通るような白い肌に、艶やかな桃色の唇。だがその瞳は赤く、闇に溶け込む黒髪も危険な色をにじませている。


反して男のほうは中肉中背かつ黒髪黒目のいたって普通の、すなわち害のなさそうな東洋人といった見た目をしていた。


「だが全くといっていいほど何の波動も感じられない。平凡な高校生にしか見えないぞ」

「ライマさま。実際いくつかの現場であの子の存在が確認されているんです。いずれも傷ひとつなく平然としていました」


ライマと呼ばれた女がいぶかしげに男を見下ろす。


「逃亡したチョワンのことなど興味はないが、その話が本当なら」

「本当です。信じて下さい」


男はおどおどとライマに言いすがった。


「あの年頃の女の子にそんな能力があるのなら見逃してはおけないな」

「殺しますんで?」


ライマが己の言葉を信じたことに気色ばみ、ギョッとするような提案をする男。ライマは冷ややかな視線で男の発言を否定した。


「では連れ去りますか?」

「うむ。我らの求める者と違ったとしても記憶を奪って元に戻せば良いだけのこと。まだこちら側で波風をたてる時ではない」


「私が眠らせて抱いていくから、騒がれぬよう連れてこい」

「かしこまりました、ライマさま」


ライマの言葉を受けた男は恭しく頭を下げると木立の中へスーッと姿を溶け込ませた。

花音はというと、背後での物騒な会話に気づくことなくふんふん♪と行進を続けている。


縫うように闇を抜けた男が花音の前へと躍り出ようとしたその時、


ゴチーン!


響き渡る衝突音。

男は弾き飛ばされ、草むらでゴロゴロと転がったのち仰向けのままあっけなく気を失った。


歩道に張り出した木の枝が不自然に上下している。

ちょうど男の額の位置にあたる高さだ。

急な物音に行進をやめた花音は、目の前で転がっていった男に走り寄ると声をかけた。


「おじさん!大丈夫ですか?暗い公園は危ないんですよ」

「危ないのはあなたよ」


凛、と通る声が近づく。ライマだ。微笑んではいるが、瞳に浮かぶのは獲物を捕らえる捕食者のそれである。


「お嬢さん、女の子がひとりで暗い公園を歩くなんて危険なことよ。私が外の通りまで一緒に行ってあげるわ」

「え、でもこの人は」

「おおかたあなたを狙った痴漢でしょう。放っておきなさい。早く行かないともっと危ない目に遭うかも知れないわよ」


ライマの言葉に花音はニコッと笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ。私って危ない目に遭ったこと、一度もないんです。この公園もいつも近道にしてるけど何も起きたことないですから」

「そうなの?でも私はひとりだと心細いわ。ねえ、手を繋いで歩いてくれないかしら」


眉を下げて困ったように手を差し出すライマに花音は逡巡する。


(大人でも夜の公園を怖がる人っているんだ。時々デートしてるカップルだって見かけるのに)


「ダメかしら?」

「えっ、いいですよ。公園を出るまでですよね」


右手に持ったスイーツの紙袋を左手で学生鞄と一緒に持ち直し、空いた右手でライマの手を握りしめる。瞬間、ライマの顔にはっきりと苦痛が浮かんだ。


(く・・・っこれは!)


握りしめられた手から焼けるような痛みが広がってくる。耐えかねたライマは花音の手を衝動的に振り払った。


きょとんとする花音。ライマは茫然と花音を見つめている。


「あの、大丈夫ですか?」


花音が声をかけるも、ライマの表情は抜けたままだ。微笑みはとうに消え、人形のような無表情。だがその瞳の奥で急激に沸き起こる怒りがライマの意識を支えた。


(私を拒絶しただと!?こんな小娘が?あり得ん!)


強引に腕を掴もうと再び手を伸ばすライマに花音はここにきてようやく異変を感じる。


「いやっ」


身を引いて避ける花音。距離をつめようとさらに腕を伸ばすライマ。そのライマの手首を何者かが掴んだ。


そしてグイっと後ろに捻り上げるとライマの背中越しに低く鋭い声で囁いた。


「ライマさん、今度は女の子を誘拐ですか?僕が許しませんよ」

「貴様、なぜここに!」


ライマは自分の手首を捻り上げた男にくってかかった。2人は顔見知りのようである。

そして花音もその丸い瞳をさらに丸くして、男の顔を見入っていた。


「なぜ?僕にはあなたが居ることのほうが不可解だ。この女の子を連れ去ろうとした理由は何です?」

「離せエース!貴様には関係ない!」


身体を捩って逃れようと暴れるライマ。だがエースはもう片方の手を前に回し、ライマの動きを完全に封じた。悔しそうに歯ぎしりをしたライマは、すぐさま口汚くエースを罵り始めた。


「あのれ許さんぞ!このような真似を!」

「覚えておれよ!ここでなければ貴様など捻りつぶして」

「そもそも貴様は雑魚のくせして生意気なんだ」

「くそっ貴様など・・・貴様などっ!」


思わぬ人物の出現に一瞬思考が飛んでしまっていた花音だったが、ライマの騒ぐ声で我に返る。

そしてゴソゴソと制服のスカートのポケットを探り出した。


(良かった!持ってる。あの人の落としたお守りみたいなの)


「ライマさん、あなたの手下のカンがそこで伸びていますよね。わけを聞かせてもらえませんか?僕は上司に説明する義務があるので教えて貰えないと困るんです」

「知ったことか!」

「ではいつまでたってもこのままですよ」

「うるさいうるさい!」


エースは花音を背後に隠すように器用に移動しながらライマを問い詰めていく。


「ライマさん、観念してはどうです?どうしてこの女の子を・・・」

「ええい!しつこい。人の親切を無視する者に用などないわ!私は帰る!」


ライマは叫ぶと、霞のように姿を消した。


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