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カーブでは体を起こすべからず

初投稿です!

長編のさわり部分かな?っていう感じで書いてみました。

 郊外の住宅地にある北条家。

 この家のリビングには美しい模様の描かれた小箱が置かれている。それは17年前からそこに存在しているのだが、さりげなく空間に溶け込んでいて住民はもはやそこにあることを意識すらしていなかった。


 裕福な北条家の庭は広く、門構えも大層立派である。その頑丈そうな門を突き破る勢いで250ccのバイクが飛び込んできた。いや、実際には門は全開だったので突き破ることはなかったし、もちろんライダーも無事である。


 ライダーは慌てた様子で玄関ドアを開けると靴を脱ぎ散らかして、框の角にひっかかりそうになりながらも廊下へと走りあがった。


 フルフェイスのヘルメットのシールドを上げてのぞかせた顔はお世辞にも整っているとは言えない。だがこの男、嫌みのない性格と面倒見の良さから彼女にも友人にも恵まれ、それなりに学生生活を謳歌していた。地元の大学の2回生、この家の長男・真人である。


 その真人が只ごとではない様子でリビングに駆け込むと、のんきにおやつを口からこぼしながらテレビに見入っていた少女が振り返った。


 大きな足音に目を丸くしてはいるが、かなりの美少女だ。


 黒目がちの瞳を彩る、クルンと上向きにカールした長いまつ毛。ふっくらとした頬はやや幼さが残るが、それが見る者の庇護欲をかきたてる。クセのないさらさらの黒髪に輝く二重のエンジェルリング。小さな鼻はツンと尖り、桜色の唇には・・・お菓子の粉が盛大についていた。


「花音!おばあちゃんがまた危篤だって。病院へ急ぐぞ!」


 呼ばれた少女、花音は手に持っていたクッキーを、毛足の長い高級そうな絨毯にぽとりと落とした。


「こっ このまえ持ち直してみんな安心してたのに~」


 青ざめた顔でポーチを肩にかけ、玄関へ走り戻る兄のあとを追う。


(おばあちゃん!おばあちゃん!)


 おばあちゃんっ子の花音の心臓がバクバクと早鐘を打ち出した。


「お兄ちゃん、お父さんとお母さんは?」

「先に病院に着いているはずだ・・・ってお前なあ」


 真人があきれたように言う。


「家にひとりでいる時は玄関も門も鍵をかけておけってあれほど・・・」

「あっそうだった」


 慌てて玄関の鍵をかける花音。


「はあ・・・まあいい急げ!」


 真人はバイクのリアボックスからヘルメットを出し、花音に投げて渡した。

 それをキャッチしようと手を前に出す花音。


 ゴロン


 むなしく手を通り過ぎたヘルメットが玄関先の芝生を回転していく。


 ゴロンゴロン


 転がるヘルメット。


 チュー!


 植え込みに逃げ込む灰色ネズミ。


 ネズミ!?


 だが真人と花音はネズミどころではない。ヘルメットを拾い上げた花音は急いで自分の頭にズボッとかぶせた。

 まごまごとヘルメットのDリングにひもを通す。


「ごめん、お前に投げてやったオレがばかだった。でもまあ、できるだけ急げ」


 真人の口調はあくまで優しい。


「はーい。こ、これでちゃんと被れてる?」

「ああ、きちんと締まってるな。だけどお前―――」


 花音の顎ひもの張りを確認した真人は、思い出したように言葉を続けた。


「カーブを曲がる時に怖いからって身体を起こすのだけはやめてくれよ。あれされるとバランスが崩れて危ないんだからな」

「この前も叱られた」

「いいからオレの動きに合わせろ。長い直進で退屈だからって足をぶらつかせるのもダメだ」

「わかった」


 ライダー泣かせの花音を乗せたバイクは軽快な音を立てて走り出す。焦る2人の気持ちも知らずに。


 順調に住宅街を抜け、大通りへ。ここにカーブがある。左折だ。


(左・・・左・・・)


 眼をつむって兄の背にかじりついていた花音は、バイクの傾きに逆らうことなく動きに合わせて体を左に傾けていく。


(やだこわい!)


「こら花音。身体を起こすな!」


 真人が慌てて叫ぶ。

 花音は必死に兄の言葉にならって体を左に戻した。


「おいおいもうカーブは終わったぞ!いつまで左に倒れてるんだ。直進では体はまっすぐ!」

「ご、ごめんなさい!」


 ヤンキー漫画のような乗り方になっていることに言われて気づく花音であった。


「いいかお前!ぜーーーーったいに免許を取ろうなんて思うなよ」

「お兄ちゃんに乗せてもらうからいいもーん」

「そ、それも怖い。お前は早く寛容でマッチョな彼氏を作ってくれ。オレはそいつに任せたい」

「なによぅ」


 逃げ腰の真人の背中でため息をつく花音。


(わたしトロいからなぁ。彼氏なんて思いもよらないよ)


 兄とは似ても似つかぬ美少女の花音であったが、このトロさと鈍さである。

 恋のコの字も知らない16歳の春が過ぎようとしていた。


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