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僕たちの戦争  作者: イケサキ
有名と成り上がる二人編
9/18

野生のフェミニズムと人工のラブマシーン


 特別な社会活動は参加するかしないかは個々の判断で、秋人と他二人に加え同学年三十人がバスに乗っていた。何をするか聞かされていないが、一年生の頃に度胸試しとして三人は参加した為ふざけていた。そのふざけっぷりに、不安な生徒が聞いた。

「なあこの社会活動って何する?」

「あ?」と桐崎が横にいる生徒を見る。「もうそろそろ先生が勝手に喋り出すから聞いとけよ、とにかく耳栓を忘れるな!」と笑いながら言った。

「俺水鉄砲で遊ぼうと思うんだよね」と秋人はリュックの中からそれを見せた。

「ガキかよ」と遊山。

「楽しんだほうがいいだろ」

 だが四人はリュックや耳栓を忘れるほど馬鹿騒ぎをしていたせいで、外に出ても何も持っていない違和感に気づけず森の中に進んでいった。

 

「既に参加したことがある人は手を挙げろ」と教師が拡声器を通して行った。「少ないな。じゃあ少し説明をしておこう」先生は台の上に上がり、拡声器にまたテストテストと反復していた。

 

「結局さ、あのやり取りって何時間くらい続けてたの?」体育座りした後の静かな中で遊山が聞いてきた

「五時間くらい。今日も夕方練習兼ねてやって、来週から俺が出る『地獄から帰ってきた奇跡の霊能力者〜死者と交信して世界平和を図ります〜』が始まるから見とけよ、大地」秋人はあくびをした。

「それで何円?」と指に身につけている高そうな指輪を見ながら言った。

 秋人はニヤッとして小声で言った。

「万つきの500円」

「わ、まじか…いいな」

「ちょうど昨日、裸トゥーという運動がスクランブル交差点で行われた。知っての通り、悪性フェミニズムを患った女たちが裸になって行進する運動だ。この活動は政府から全国の高等学校に依頼されている、フェミニズム確保およびサンプル採取だ。この森の中に、フェミニズムが大量に潜んでいると報告を受けている。お前たちがやる事を今から短めにいうからしっかり聞いておけよまず耳…」

「ぶうぶう、ぶうぶう、ここからお金の匂いがしますよ、どうしてでしょう?」と桐崎が豚の鼻をつけてやってきた。「おやおや、秋人君もこれでお金持ちでしか、羨ましいでしねえ」

「なんだよ急に…嫉妬してんのか?言っとくが貯金するからな。豪遊とかする気はねえからな」と純金のネックレスを邪魔そうに指でいじった。

 桐崎は豚の鼻マスクをとると太ってる女、田辺に向けて投げた。

「痛… 隼人君、これ私を豚って言ってる?」と怒り出す。

「あ?豚はお前と違って痩せてんだよ。勘違いしてんじゃねえぞデブ」と桐崎は中指を立てた。

 田辺が桐崎をぶん殴ろうと走ってくる、その時、教師が大声を上げた。

「お前ら、話を聞いてたか!」

 四人は先生を見た。

「活動はもう既に始まっているぞ」

 気づくと周りには秋人、桐崎、遊山、田辺、だけになっていた。

「四人か、それに去年もいたなお前たち。なら説明はいらないな。さっさと行け。集合時間になったらサイレンを鳴らすからな。…ここに集合だぞ」

「はあ田辺と行くのかよ、こいつデカすぎて視界が欠けちゃうんだよな」

「だったら隼人前歩けよ」

「そしたら勝手に休みそうじゃん。信用できねえんだよデブは、もう体が自白してんだからな」

 二人はまた拳を上げて殴り合いをしそうになった。秋人と遊山が二人の間に立って静止した。

「早く行こう」と遊山は桐崎を押して歩く。

 秋人を見ている田辺は、動かない。

「早く行けよ」

 と秋人が言うと、

「押さないの?」

 と返ってきた。

 秋人は無視して進み出した。

「あはは、ノリ悪いなあほんと秋君て」

「君付けはやめろ。みみずが走る」

「虫唾じゃないの?…」

 やがて四人は、森の中を歩いていた。

「熊とフェミニストどっちがマシだと思う?」と桐崎が聞いてくる。「500万円君」

「なんだよ、桐崎ちょっと変だぞ」

「失礼、成金君だったね」

「はあたまんね。大地、お前はどっちが怖い?」

「金持ったとたん性格が変わる糞成金かな」遊山は秋人が履いている高そうな靴を見て言った。

「はあ?」

「なに、秋君お金持ちになるの? いつもお弁当が目に入ってたけど、これからはちょっと豪華になるんだ。よかったねえ羨ましい」と田辺が小さく拍手した。

「人の弁当見んなよストーカー予備軍め」

「でも席近いから勝手に目に行かない?女子はみんな男子の弁当を見ていたりするよ」

「はいはい女は全員ストーカーでしよ」

 

「女性差別やめなさい!」

 と、茂みの中から叫び声が聞こえた。これには四人とも驚いて声をあげた。

「野生のおでましだ…」遊山が言う。

 茂みの中から静かに立ち上がり、眼を大きく整形でもしたかのように開けっぴろげで四人を舐めるようにじっと睨んだ。

「誰? 女の子をストーカー呼びした下品な馬鹿で鈍間で甲斐性皆無の男は」

 女から何かが落ちた。

「わ、わたしです」と田辺は言う。「冗談のつもりでした」と秋人をチラッと見て一瞬、優しく微笑んだ。

「う、なんか臭えぞ」桐崎が鼻に腕を覆う。

「そこの馬鹿で鈍間でビビりで甲斐性皆無の男、女性が脱糞して問題でもあるんですか? ここは自然の中ですよ、誰でも脱糞くらいしますよね? 男はしてもよくて女性はダメなんですか? 問題があるなら早く言ってください」

「…ないです」

「それとあなたたち、女性が一人で男性が三人なのは男女差別ですよね。男尊女卑ですよね。スウゥゥ…」

「む! 来るぞ!絶叫だ!」

「まずい! 耳栓忘れた!」

 四人は耳を塞いだ。田辺はあらかじめ弱くさしていた耳栓を強く押し込んだ。

「ギャアァァァァアァァァォォオン!!!」

 野生のフェミニストの大声は住宅街に住むフェミニストと違って鼓膜に傷をつけるほどその絶叫には力があった。その絶叫は女だけに、低確率で悪いフェミニズムにするという力があった。

「なんで女の子一人なの! なんで女の子一人で男は三人いるの!ギェェェェェエアアアア!」

「うるせえぇぇなあヒス野郎が! わかったよ!呼べばいいんだろ!」と桐崎は大声をあげる。するとフェミニストは張り詰めた様子で桐崎を睨んだ。

「優希! 優希! 聞こえたら大至急来て!今から女来るからな」

「女性です」

「なに? 隼人?」と優希が駆けてきた。「近くから呼ぶ声が───あ、野生のフェミニスト見つけた?」

「なんで女性が髪を結ぶのに対して男は結ばないんですか?」

「長くないから、かな?」と秋人。

「これは不公平ですよね!」と息を思いっきり吸い込む。

「どれだけ正当な回答でもダメっぽいな」

「森の中だと邪魔になるから結んでるんだよ?」

 その答えも虚しく絶叫に変わった。

「あれ耳栓は? 早くつけろ優希!」

「やっ───」

 首から下げている耳栓を取ろうとしたが遅かった。しかし優希の両耳に手が当てられていた。その後ろに、遊山が無防備のまま立っていた。

「大地!」と桐崎は叫ぶ。

「知ってるか? 鼓膜ってのはな、傷ついても若いなら治ってくれるんだぜ」

 耳から血が出ていながらも立つ姿がゆっくりと崩れると、優希が抱えた。

「大丈夫? 大地君! しっかりして!」

「もうなんも聞こえねえ…」と遊山は言った後、涙を流して眼を閉じた。気を失った。

「大地君! 大地君! …ひどい、ひどいよ、なんでこんなことするの?」と優希も涙を流してフェミニストを見た。

「ちょっと、女性と男の距離が近いです。それに比べて太ってる女性は近くないって、これ差別じゃないですか?!」

「じゃあこうすりゃあいいのか?」と秋人は田辺の肩に手を回した。「これでどうだ? この糞女、静かにできるか?」

「できるわけないでしょ! 男が三人、女が二人って、もう輪か──」

 言い切ろうとした時だった。桐崎が横から走ってきて、その放った拳がフェミニストの顔面に刺さった。

「いい加減にしろクソアマァ! 人が来る森ん中で糞をするな! それに女の前で輪…なんて発言をすんな…この糞女が!」

 殴られた野生のフェミニストは両眼を赤くしながら、歯をむき出しにして口をあけると空気を目一杯取り込もうとした。

「あ、まずい! お前ら逃げ…田辺はどこ行った!?」

 秋人と優希が指差した先は桐崎の横にいるフェミニストだった。見てみると、田辺が野生のフェミニストを抱きしめていた。

「一人で寂しかったよね…」と田辺はフェミニストに語りかけた。「ずっと森の中、一人で恋人もできずに、人と関わることがなかったから性格がひねくれちゃって、怖かったよね、孤独になることが、自分という存在が社会から切り離された感覚に陥るのは…でも、もう大丈夫だよ、わたしが抱きしめてあげるから。もうあなたは一人じゃないよ。これからは学校の監察室でみんなに温かく見守られて囲まれながら過ごすからね、一緒に頑張っていこうね」

 フェミニストは眼を大きく開いたまま、口をあんぐり開けっぱなしにしていた。眼をよく見ると瞳孔が開き、涙が流れていた。

「名前は? 教えて…?」と田辺はフェミニストを見て優しく微笑みを見せた。

「かな子…願いが叶うように…て、お母さんがつけてくれた、かな子、そんな名前…」

「さすが田辺だな、肉厚だから包容力が凄いんだ」と桐崎が遊山に囁いた。

「かな子…美しい名前。わたしなんて美咲だよ。夢を叶える…どんな夢?」

「最低でも年収二千万以上の大企業の社長か富豪と結婚する事と宝石とブランド物をたくさん買ってそれから整形とかして超有名イケメン海外モデルと不倫したりそれと高級──」

 田辺はフェミニストの口に指先を当てた。

「もう休んでいいから…でもまだちょっと歩けるかな?」

「…どこに行くの? パーティー?」

「そんなところ」と田辺はゆっくりとフェミニストを起こした。「静かに行こうね。そうしないと大企業の社長が萎縮して逃げちゃうからね」

「わかったわ……」深く頷いた。

「無事終わったっぽい?」と桐崎が秋人に聞く。秋人は頷いた。

 

 彼は田辺に近づき軽く空いてる手を繋ぐかのようにハイタッチした。そして秋人の手に、台詞が書かれた紙があった。田辺に言うよう進めたのは秋人だった。その紙は昨夜に予備台詞として書かれたものだった。

 トトが興味津々でヨコミの膝の上で立ちながら机にある紙を見ていて、その隣で度数が強い牛乳瓶眼鏡をかけていた秋人が談笑しながら書いた。

「まあ日本人はモデルに向く体型じゃないからな。尿瓶に服を着せた感じだからさ」と秋人は自分の言った発言で笑った。彼は眼鏡を外してトトの前に置いてからペンを持ってメモした。

「尿瓶を着せた感じの体型…と。今日の課題終わり! 寝よ寝よ…」

 そんな風にしてできたバラバラな単語と、断片的な文章を田辺は抱きしめながら上手いこと喋ってくれて、秋人は感心と一緒に安堵していた。

 本来の作戦は、発狂させたあげく泡を吹かせて引きずってでも連れて確保する事だった。去年は古賀透といういつも一人で行動している同級生から借りたモノでハイにさせたあと確保していた。

 ちょうどサイレンが鳴り始めた。

 全員が集まる時に、台の上で立たされているフェミニストは五人いた。フェミニストはまるで今から絞首刑にでも合うかのように縄を首にかけられて並んでいた。五人ともそんなことには気にせずディベートに励んで、周りにいる生徒に気づいていないようだった。

「他校だと全然フェミニズム捕まえられなかったと聞くが、やはりうちの高校はしっかり訓練されてるようだな」

「この人たちを、どうするんですか先生」

 と、ある生徒が聞く。

「ん、最初に説明したと思うんだがな。こいつは今後、学校の生育調査室、又の名を監視室で観察される事になる。どうしてこんなフェミニズムを過剰に持ってしまったのか、お前たちもわかってる通りかなりの問題となっている」

「女性の行動が迫害されている!」と一人のフェミニスト。

「悪いがお前たちは野生のフェミニズムだから女性ですらないんだ。概念の状態なんだ。お前たちの性格、思想、行動と遍歴を調べた上で健忘症にも似たヒス、すなわちトラウマを国家公認の心理学者が検査することになっている。それが嫌でもこれは国から出た命令だからこちらとしてはどうしようもできない。だが謝っておこう。捕まえた組の代表が」

「ほんと沢倉って責任移すよな」と後ろの生徒。

「日本人だし」

 

「私が出よう」と秋人が前に出た。

「は、捕まえたのは田辺だろ」

「いや、田辺はしっかりとフェミニストを捕まえる役割を果たしてくれた。これ以上彼女に役職を与えることは個人的な意見として不服だ」

「けっ、金があると余裕ができていいな秋人」

「ふん」とダイヤモンドが装飾された腕輪を桐崎に見せつけた。「糞のお前らには出せない輝きだよ」

「糞でも輝くときは輝くさ!」

「瑞々しかったらあり得るかもな」秋人は鼻で笑った。「もし輝いてたら糞を宝石店で売ってみたらどうだ無価値くん」ズボンの裾を上げて足首につけられた金の輪を見せた。

「あの糞野郎…」

「秋人君…」

 

 代表が台の前に立った。

 

 鹿波秋人、話術でフェミニズムの警戒を解き、宥めながら確保。…

 橋本金と銀、漫才をして気絶するほど笑わせた後確保。…

 千年優希、優しく心温まる声でフェミニズムを癒してから確保。…

 木田雄二、過去の話をぶっ続けで行っている途中で眠ったフェミニズムを確保。…

 古賀透、不明。…

 

「ん、古賀…またお前は不明か。一体どうやって確保したんだ? これは全学校と手を取り合って確保する精度を上げているから経験を聞かせてほしいんだが」

「ただ連れてきただけでス…ァ」コートから落ちたスタンガンらしきものをすぐに拾った。「なんでもありませン…ホントに連れてきただけでス…」

「そうか。じゃあ…連れてきただけ、と。よしお前ら、謝罪しろ」

 

 全員が声を合わせた。

「すみませんでした」と頭を下げた時、

 

 足場が落ちる、かな子を除いた。

 

「安らかにお眠りください」

 おもむろに手を合わせて。

 

「女性が不当に殺されている! 女性が不条理に立たされている!」

 そう叫び声を上げているかな子は注射器を打たれて眠らされた。マスクを被せられ、拘束される。

 

「名前を取れたのは秋人のグループだけか。お前たち、よくやった」

「ほんと残酷…」と田辺は言う。

「サンプル採取のためとはいえ、この国の倫理はいつから狂ったんだろうな」と秋人は言った。「まあでも、ようやくかな子っていう女が現れたおかげでこれからはもうないだろう」

 

「ラブマシーン、出番だ」と教師。

 

「愛ヨー!」

 と、森の中からガタガタやってきた。

「四体の死骸を検査、開始」

「愛アルヨー!」

「お前ら、今日はここで終わりだ。学校には行かずここで解散という形になる。あとはもう好きにしろ。ここからは金が出ない」と教師は死骸を食っているラブマシーンの側に歩いて行った。

「起立!」と先頭に生徒が立って生徒に向かって行った。

「立ってるよ」

「見りゃわかんだろ?」

 秋人は両腕を広げる。

「じゃあまずは着席…座って?」

「ここでもすんのかよ」

「尻汚れるから鎌デース」と誰か。

「尻をつけなくてもしゃがむとかでもいいよ」

「…へいへい」

 全員がしゃがんだ。

「よし、起立!」

 全員が立つ。

「礼」

「ありがとうございました」

「はいはいサービス残業ありがとうございましたっと」と教師はレポートを書きながら言った。

「田辺、アイスクリーム屋さんに行こう」

 と、秋人は誘った。

「良いけど、なんで?」

「お礼だよ。せっかくだし高い店行こう」

「ほんと? やったあ!」

「決めたら行くぞ、さっさ」

 と、秋人は歩き出した。


田辺の語り掛けはもう少しありましたが個人の事情で一部消しました。

なので悪性フェミニズムに語りかけるというよりも孤独な人間に語りかけるようなものになってしまってますがご了承ください。あとフェミニズムの話は引き継いでまともになっていきますので批判はご遠慮願います。

最後にこうした後書きは今後一切しません。注意書きにあるようにブラックな話が多いと理解した上で、今後とも楽しく読んでいただけたら幸いです。

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