健気に生きる三人の物語
秋人たちは図書館に行き、シラミのようにいる高齢者どもを蹴散らしながら最新の新聞紙を握り取ると読み始めた。だが高齢者をけちらしたことで司書から追い出され、出禁勧告を受けた。
「大丈夫だよ。もう行かねえからな。この阿呆図書館!」と桐崎は落ちてあった空き缶を出入り口に投げた。カランカラんと虚しい音だけが聞こえた。
「なあお前たち、俺を褒めろよ」と遊山はワクワクした抑揚でスマホを二人に見せた。動画が撮られており、内容は新聞紙を鮮明に映し取ったもの。
「よくやった!」と二人は感激。
だが背後に立って反撃の狼煙を静かに上げていた高齢者によって遊山のスマホは握りしめられている勇敢な杖で叩き落とされた。二人の表情は一転して暗くなる。そして急激に顔を赤くさせ、高齢者を階段から突き落とした。
「このボケジジイ!」
落ちた先で頭から血を流しているのを見ながら、三人はまた振り出しに戻ったと嘆いた。
「こら!君たちなにをしてるんだ!」
警察官がやってきた。階段の上にいる三人を見上げた。
「署までご同行願おうか!」
すると桐崎が言った。
「そんな事したって日本の未来は暗いままだ!」
「…あ、確かにな」警察官はそう言うと拳銃を取り出して頭に撃って倒れた。
三人が呆然としてる中、サラリーマンらしき男がやってきてその拳銃を手にすると頭に撃って倒れた。また恋人も心中した。残りの二発は鳩、蟻。最後に一人の男がやってきた。拳銃を握って頭につけて引き金を引くも弾はもうない。
「あぁ…残念だけど、死ぬにはもう弾はないぜ」と秋人が声をかける。
「殺してくれ、俺を殺し──」男が近づいてこようとした時、高齢者が乗った軽トラックが彼を巻き込んだ。
「お前ら身勝手すぎるだろ!」秋人が言う。
「命は自由です!」とママチャリに乗った女が向かいの道路で止まると、拡声器を口に当てて喋り出した、「誰が産めと頼んだの!私は反出世主義者です!」
「興味ねえからそこの女どっか行け!」秋人は片っぽの靴を脱いでおんなにむけてなげた。
「女じゃなくて女性です! 恋人じゃなくてパートナー!古い価値観をアップデートしてください!ギヤァァァァァアアア!!」
女はペダルに足をかけて動こうとした。
「ちょっと待って! 女性らしさは固定観念! 差別です!差別反対! そこの三人、わざわざ階段に上がって私を見下さないでください!女性差別だ!ギャァァアァァァァアアア!!」とまた別の女がママチャリに乗って現れた。二人は多分、いつものようにディベートをしながらどっか行った。
「女ってヒス多いな」
「あれってただの縄張り争いだろ?」
何処からか「ギャォォォオン!」という叫び声がした。「わたしはヒス女じゃないです!ギヤァァァァォォォォォオンン!!」
「ほら、どっちが大きな声を上げれかっていうさ」
遠くからギャォォオォン!
「よう三人衆」と軽トラの助手席にいた坂上が窓をあけて声をかけてくる、「変な女に絡まれて大変だな」
軽トラの後ろには荷物がいっぱい乗っていた。
「あ、坂上さん」と遊山、「なにしてるんですか?」
「引っ越しの手伝い。一万円もらえるんだ。こんなのでさ、日本明るくない?」
「たった今ちょっとしたことでいっぱい死人が出ちゃいましたよ」
「え?」坂上は窓から顔を出して下を見る。
「日本じゃよくあることだろ。気にすんな」
「最初から気にしてませんよ」
「まあ毎日こんなんだしね」と遊山。
「坂上さん、質問なんですけど最近のストライキについてなんか思い当たるところってありませんか」
「スト? そういうのさっき見かけたな。ボーリング場がそうなってたよ」
「実は…」と秋人が説明をし始めた。
「なるほどな」と坂上、「これは意図的に集団で起こされてると考えた方がいいだろう」
「そうかな? 今更日本にストがかかるってむしろ自然とあり得る話な気がするけど」
「いや、日本の未来は明るい。俺の親は大企業の社長で、月に五千万円仕送りで送ってもらってるから。未来は明るいよ」
「それあんただけでしょ…」
「そう?」
三人は頷いた。
「なにか、ストライキに思い当たる節はありませんか?」
「ん、ないな。でも遊山の家に明らかに宗教っぽい服装の人たちがやってきていたけど」
「…は?」
三人は急遽遊山の家に向かった。
「やっぱりお前の家がストライキを起こしてんじゃねえのか!」と秋人は言った。
「そんなわけないだろ! 俺の家族はいたって普通だ!」
と、遊山の家の前が見えてきた時、三人は足を止めた。遊山の家に、明らかな宗教っぽい服装の男たちが入って行ったのを見た。
秋人と桐崎は遊山を殴った。
「やっぱりお前の家が原因だろ」
「おいふざけんな。わかってるだろ。俺の家が普通の家だって、何年付き合いだ?」
「一…二…」
「少なくとも七年以上の付き合いがあるだろ秋人! お前馬鹿すぎるぞ!」
「糞みてえな宗教作って俺みたいなやつを作る家の息子に言われたくねえなあ!」
二人は猫の喧嘩のように殴り合った。桐崎は二歩下がって気まずそうに唇をキュッと結び、周囲に人が見てないか気を配った。
「君たち! やめなさい!」
遊山の家の二階、窓から身を乗り出して拡声器をこちらに向けている人が言った。
「…パパ?」
「おい高校生なのに未だパパ呼びって恥ずかしくねえのかよ」秋人は笑った。
「滅多に顔も合わせないお前のよりマシだね。そもそも呼んだことないだろ」
二人はまた殴り合った。
「やめなさい! みなさん、あの子たちを家に連れてきてください」
宗教の服装をした男たちが彼らを担いだ。桐崎は後ろから「友達です」と言って付いてきた。
家に入ると、地下に案内された。そこは遊山も行ったことがなく、大勢の人を見てかなり驚いていた。
「パパ、なんでこんな事をしてんの?ストライキとか、パパの宗教がやってる?」
「大地、これは仕方がなかった。みんながいつまでも静かで何もしていないのを見過ごせなかったんだ。ましてや日本の未来は暗くなっていく現状。こうなったらストライキ教でも起こさないと思ってな!」
「宗教じゃなくても、呼び掛ければわかる人でそうだけど」
「それが宗教じゃないとやってくれないんだ。この人たち自分の責任になるのが嫌で、もし咎められたら宗教のせいにすればいいっていう気持ちがあるようでね」
「はあ?」
「だから大地、これは私を責めるんじゃなくて信者たちを責めてくれ。あと今のパパは仕事を辞めて収入源をこの宗教の信者たちから貰ってるお金で生活のすべてが成り立ってることも忘れちゃならないよ」
「え──」
「でもお父さん」と桐崎、「この宗教のせいで俺たち学校を退学させられそうになってるんですよ」
「ほぼ確実に」
「だったらお前たちもこの宗教の手伝いをしたらどうだ? 月二十三万円で雇ってやるぞ」
「おいなかなか良くねえか?」と秋人は桐崎に小声で言った。
「俺も思った。これならゲームとか漫画買い放題だろ。月収が十三万とかの人間が多い中、これはかなり多い方じゃねえか? なあ大地、これは──」
「絶対に嫌だ!」
そのあと、遊山は何度も辞めてほしいと父に言ったが父は首を縦に振ることはなかった。二人も協力したが、嫌われただけだった。
三人は家から追い出され、途方に暮れながら歩いていた。
「どうしよう…このままじゃ中卒だ。ほんとにお先真っ暗になっちゃうよ」と遊山。
「お前が変に騒いでなきゃ雇ってもらえたんだがな」と桐崎は少し怒っていた、「まあ中卒でも雇ってくれるところはあるよ。鳶職人とかあるだろ、色々」
行きつけのコンビニはストが起こされていて行けなかった。賃金上げろ!
三人は塾に向かった。その中、薔薇が木に出会った。
「あ、桐崎先生と秋人! あと誰?」
「遊山だよ。これが噂の薔薇が木? 可愛いじゃん、君たち」と遊山はにっこりと視線を薔薇が木まで下げた。
薔薇が木の一人、吉田は助走をつけて走って遊山に向かった。抱きしめてくるかと思って遊山は両腕を広げたが、頬を重い石が入ったバックで投げられるだけだった。
「気安く可愛いなんて言うんじゃねえ」
「そ、そうだ」と宮良が言う。
「なんだ歩、言われ慣れてないのか」と秋人は初めて薔薇が木が可愛いと思えた。そもそも薔薇が木という名前も、それに見合った名前だと思えてきた。
「おいおい、俺たちは可愛いキャラで生きるつもりはないからねえ」と瀬古が言った。
「次可愛いなんて言ったら殺すからな」
「ここ日本かよ。…わかったよ勇気ちゃん」
すると吉田はバックから包丁を出して秋人に襲い掛かった。が、秋人はそれをわかっていたようにすぐ反撃して吉田を倒した。
「ふん」
「…許さねえ、絶対許さねえ。いつか殺してやる…」
「大丈夫か? 大地?」
遊山はさっきから顔を俯かせて殴られた頬をさすっていた。
「…閃いた」
「ん?」
「え?」
「こいつらを使ってあの宗教を終わらせる」
「でも、そうしたら収入源はどうするんだ」
「そんなん後から考えればいい。今や街中はストライキだらけ、この無秩序を止める事だけを考えろ!」