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僕たちの戦争  作者: イケサキ
Tokyo白銀セキリュティTokyo青山Japan侘び寂びゲート編
2/18

Tokyo白銀セキリュティTokyo青山Japan侘び寂びゲート

 小学校以来、鷹木とは会う事はなかったが、今でも秋人は彼を思い出せた。

 

 あの色めきある頬に…頬に…頬に…まだ幼い面影を、その姿を緩やかな輪郭を通して記憶に残されていた。

 

 たしか鷹木の家、血が濃くなるのを恐れて混血だったかな。通りでちょっと異国に感じるわけだ。と秋人は思い出していた。

 

 最後に会った日はよく晴れていた。しっとりとした眼差しが印象的だった。その眼から一つ一つの言葉が変成器を迎えていない素朴な声で蘇った。

 

 どうして会わなくなったんだっけ? 秋人は地下SLの車内でガスマスクをつけながら窓から見える真っ暗な風景を見て物思いに耽った。

 

 …絶交したんだっけ。

 

 鷹木の両親は名誉のある仕事に就いていた。秋人の父はといえばトラックドライバーだった。母親は保険会社を勤めており、世田谷では平均寄りといっても港区では最低に等しかった。要するに地位はなかった。

 今も昔も子供は親を自慢したがった。世田谷区は身の丈を知っていた為ほとんど流行ることはなくても、港区はそういうのが盛んだった。一握り二万円の寿司屋で百巻食べたと自慢する子がいるように親もそうなる対象なのだ。

 鷹木にいる友達は、秋人が世田谷区の人間だとも知らないで遊び始めた。

「俺は外科医だよ。年収2000ま!」

「俺は弁護士の家系だから」

「俺は野球選手。戦力外通告されたけど頑張ってるよ」

 

「俺はトラックの運転手だよ」

「トラックの運転手? 年収は?」

「知らないよ」

 このあと秋人は馬鹿にされて仲間外れにされたとはいうまでもなく、泣くことはなかったけれどぼーっと空を見ていた。

「元気出してよ」

 鷹木がやってきた。

「お前はいいよな、父親も母親も立派な仕事をついてさあ」

「…言ってきてあげたよ。これでも俺と秋は血が繋がってるんだって。そしたらみんな黙ったよ。秋はいとこだけど、僕のお兄ちゃんだから」

「俺は一人っ子だし、お前を弟と思うなんて無理。なんで兄の俺より弟のお前の方が裕福なんだ? ほんと居心地悪いときた。世田谷だったら、周り派遣社員の子供や看護婦が多いのに。ましてや血の繋がりでここまで格差があるとムカムカする」

「じゃあ一緒に格差を埋めようよ」

「よーしじゃあどうやって埋めるか考えてみよう。俺はお前より頭がいいから。まずお前は地位、富、名声もあれば友達も多くて、みんな金持ちで、高学歴が多くて、どうせ背も高くなる、どうせコネで大企業に就職する、どうせ縁談で名家の美人と結婚して、子供を産んで、その子供ももれなくエリートの道を歩むだろう。わかるか? お前は全てを持ってるんだよ。

 さて、俺はどうだ? 地位もないければ富もない。名声なんて死ぬまで肉体労働者呼ばわりさ。友達だって貧乏が殆ど、労働者の高校から就職する奴が多ければ進学率はわずか2%で、行ける大学だって世田谷区出身だからって落とされる訳だから限られる。仕事はコネなんかないからよくわからん中小か工場で働くかの二択。どちらにせよ派遣社員。結婚なんて考えちゃいない。

 だって女は美人なら貧乏でも金持ちが拾ってくれる。最近じゃあ一夫多妻制を暗黙に認める動きがあるせいで一生独身者は決定した。そんな女たちの出してる本を教えてやろうか?『私はこうして成り上がった』『貧乏から金持ちまでの道のり』『私はどのようにしてお金持ちと結婚したのか』ばっかしだ。何が言いたいかってつまり、こいつらは同じタイプとは付き合う気なんてさらさらないって事だ。

 …じゃあ、この格差を埋める方法を考えよう」

「…」

 鷹木は萎縮していた。

「早く埋めてみろ!」

 秋人は鷹木に迫ろうとすると、遠くから鷹木を呼ぶ声がした。見るとさっきの友達だった。

 

「行けよ、俺はもうお前とは二度と会いたくない。お前は他人だよ」

 秋人が帰ろうとする。鷹木は彼の腕を掴んで止めた。優しい力の加減を見て腕を引っ込めると、秋人は鷹木を押し倒した。

「気安く触んなアホ」

 

 ああした軋轢が今も続いているように感じる。鷹木は立ち上がることもせず見ていた眼は涙を流していた。夏だったか? 思い出そうとすると秋人の胸は熱くなった。

 

 …春だった気がする。

 

 Tokyo白銀セキリュティTokyo青山Japan侘び寂びゲートという港区の門。閉鎖的で排他的な、小さい頃はなかったものの前に立つ秋人はじっと立っていた。ゲートは開いており、今日は多様性の日だった。よって、身分証を提示しなくても入ることはできた。警備員はいつも酒で潰れていた。

 門をくぐり抜けると、反対運動をしている港区の住民が秋人に罵倒を浴びせた。

「入って来るな!」

「港区に住む住民は出て行け!」

「多様性は尊重します。でも入ってこないで!」

『不良品は不要』という看板を掲げている男もいたが、マスクと黒いサングラスをしていた為性別は分からなかった。全員そんな服装をしていた。

 

「子なし院建設の頃からなんも変わってねえな…下手な成功体験を作ると蛆虫が湧きやがる」

 と秋人は旅行気分で言っていると、後ろから見知らぬ男が秋人にまで追ってきて紙を背中に貼り付けてはどっか行った。取って見てみると『私は貧乏人です』と書かれている。

「おいちょっと待て!」

 と、秋人は逃げていく男を呼び止めた。

「なんだ!」と威勢だけはいい。脚が震えていた。

「この下に『お金下さい』と書け!」

 すると、男は油性マジックを持って文字の下に書いて再び走っていった。

「よーしこれで乞食ができるぞ」と秋人は呟き、胸に貼って歩き出した。少し歩いて行くと、ちょっとした広場に両親らしき二人と、向かい合って愉快そうに腕を組んで誇らしげに立っている男がいた。展示物のように足元には説明書きがされているものがある。

 

『種求。条件、国産で海外の有名な大学卒業、身長は180センチ以上、肥満体質でないこと、病気や障害や犯罪歴を持つ家系ではないこと、当人も含む、IQ180以上…一級ギフテッドを希望』

 

「これはなんだ?」と秋人は聞いた。

 男は秋人の方に顔を向いた。極度の斜視でこちらを見ているようには思えなかった。

「そんで、中度の知的障害を持っておいらが生まれたってわけ」

「じゃあ膝をついているお前たちは両親なんだな」

 両親は泣いていた。秋人にとって第三の子供の親の片方はどちらかが片親だという考えがあり、内心では嫌気していた。

「棄てるべきだった。お前は悪魔の子だ」

「悪魔? そうさ俺は悪魔さ。だから殺しても文句はねえよなあ?!」

 突然、男は隠していた包丁で片親と隣にいた父親だと勘違いしている男を刺した。母親も刺した。秋人はその場に座って見ていた。両親を殺し終えた男は、自ら腹に包丁を刺して死んだ。血が流れてきて、指で触って見た。

「劇じゃない。マジか。まいいか」

 秋人は再び歩き始めた。覆面パトカーの音が後ろから聞こえてきた。何やら大声で警告をしている男の声がした。

「包丁を捨てれ! じゃにいと発砲すんが!」

 そう聞こえた直後に何発も発砲。全て外していた。

「死にたくたい!死にたくたい!」と車に戻って発進して秋人よりも先にいるお散歩していた幼稚園の子供たちをもれなく全員轢いてガードレールにぶつかった後の煙が出ている警察車両を横目にしながら秋人は歩いた。運転手の警官はフロントガラスに頭をぶつけて血を流しながら意識がなかった。彼は下を見ずに歩いていたため幼児の手を踏んだり、体を踏んだりとした。幼稚園の先生が子供を守ろうと覆っていたが、出ている頭を踏んづけて歩いていた。

 

「ちょっと休もうかな」

 秋人は警察車両の天井に乗り、引きずり出した幼児を枕代わりにしながら新聞紙を空に向けて広げた。

 

『外国種流行の兆し? 10万人調査では黄色よりも白色がいいと答えた総合日本人は先月96%を越えた。昨年の先々月にした調査では95%と年々上がっている見込み。それと障害児を産みたくないという新婚者もおり、すでに外国種を頼んでいる子なし家庭もある「だって、日本人は尿瓶のような体型で見栄えが悪く、あの人も言ってましたけど頭だって悪いですもの。主人も納得したと思います、もちろん内緒です。産んだら0歳から化粧の方法と顔面加工ボトルの使い方を教えるつもりです」と言って有名ブランドの0歳児向けの化粧道具セットを宣伝した。』

 

「あの…」

「あ」

 秋人は頭を上げて聞こえた方を見る。喋ったのは枕にしていた幼児だった。

「助けてください…」

「王の命令で無理。それにお前たちを助けたところで結局得するのはお前たちだけでな、俺のような人間はいつだって損の役回りならば、ここでお前の死ぬ哀れな姿よりも、こんの綺麗な大空を見て過ごした方がずっと気持ち良いだろうよ」

「…助けて…生きたい…」

「おいおい散々搾取しといて金持ちは何処まで貪欲なんだ? 時には死を受け入れろ。死神さんだってほら」

「ほんとだよ、アキヒト」と頬杖をつきながら幼児の横で不満げに言いながら鎌をちらつかせた。

「ありゃこいつは俺のだ。お前のはあっち!」

 幼児の死神はフラダンスを踊っていた。

「ふん…金持ちの死神も呑気か。あれが今のお前だよ」

 再び秋人は腹に頭を乗せて新聞紙を読んだ。

 

『第三者の子供が産業廃棄物として捨てられる数が先月14万人を越えた。これに対して文部大臣は「身の丈に合わせて奴隷という選択があれば彼らは生きているはずだった。倫理と正義を恨んでいる」とまさかの発言。野党は捨てられた子供たちと握手しながら「なんとかする」と伝え高級車の運転を体験をさせた後、帰った。あの時から二年以上経過しており、いまだに何らかの行動は見られない。その議員に尋ねてみると「まだそんな事を気にしてるんですか? いつまで気にしてるんですか? 今、この現実を見てください。普通、よくわからない団体とかが助けるでしょうよ。関係ありません。次この質問をした人は侮辱罪で訴えますので」と記者たちに暴力を及んでいた。また彼はいつも捨てられる子供たちを救うと歌って投票を促していた。

 他、悪戯に種を偽る男性たち。中には天皇だと自称している男を信じた女性の被害』

 

『政略結婚に終止符? 港区の障害児、健常児を上回る。富裕層が多く、いつまでも右肩上がりの港区では千代田区と同様に政略結婚が盛んであることが知られており、これまで足組み専門家や本棚コンテストで優勝した学者が警鐘用の鈴を部屋で鳴らしていたそうである。その傍ら行われた政治家の平均IQは88から71だった。

 そして今日、遂に健常児よりも障害児が上回った。血の流れが金の流れとも言われる中、富裕層の増加はそれでも頭打ちになる事はないものの、最近だと詐欺が港区で横行している。なぜ狙ったか聞くと「馬鹿しかいないから」と発言。事実港区のIQは世田谷区よりも低い。

 この件について牧首相は「不妊治療を支援する姿勢を示す」と言って礼儀正しく背筋を伸ばすと拳三つ分机と距離を離していた』

 

『知らずに近親者と子供を産んでしまうことを防ぐためのDNA分析を義務化する案と同一種拡散禁止法案が不可決となった。女性議員達は「いりません。不要。気持ち悪い、ロボットのようだ。これはファシズムで性的搾取でディストピアです。日本がナチズムに支配される日も近いでしょう」と発言に男性議員たちからは誇張だと失笑が聞こえた。批判の声もあったがそれら発言について侮辱罪で起訴する予定とのこと。それに雄虫を社会から追放する女神会も協力する方針』


 

「見て、時代遅れを読んでる奴がいる」

 気になる文面を読んでいた秋人に、誰かが言っていた。

「時代遅れ?」と秋人は聞こえる方を見る。

「それ、時代遅れ。めちゃくちゃやばいよ」

「めちゃくちゃ時代遅れ。やばいね」

「Zz世代か? 語彙どうなってんだ?」

「語彙? 時代遅れやめて、めちゃくちゃやばいよ」

「やばい。知的障害だと思う。やばいやばい」

 秋人は立ち上がって威嚇すると、二人は補助輪をつけた自転車のペダルに足をつけず跨りながら歩いて逃げた。

「あたしたち最高ー最コッコー!」

「マジ感慨深い。めちゃくちゃ感慨深い」

 

「しゃくれ鳩かよ。…鶏か」

 秋人は車から飛び降りた。

「まったく、裸足でも歩きやすいようにしとけよ…」

 

 

『富士山、取り壊し計画「もう富士山は時代遅れ? 観光客が年々減少! 破壊計画にZz世代は太鼓判!』

 

 

 鷹木もこうなってるのかな?

 

 

『優生保護法の復活が港区在住のZz世代から懇願書として牧首相に渡される。牧首相は「私たちは全員障害者です。もしこれを復活させたら全員死んでしまいます」と発言してその場で破く言動に野党はこぞって批判した。「あれは首相の器ではない」や「今すぐ辞任するべきだ」と政治ごっこは今日も続く』

 

『Zz世代は破滅の世代?歴史改変と文化と伝統破壊に抵抗無し。識字率の回復を専門家は「彼らは映画を見るよりも感想とファストだけで補う。したがって感想文を読んでいるうちに勝手に文字が読めるようになったのでは」また他からは言葉の意味が変わったとの指摘もある。言語学者は「言葉は生きているから時代と共に変わる。彼らは読めない、意味のわからない言葉を都合良く解釈する傾向がある」と発言しており、漢字の廃止と文脈破綻しながらサクッとすきまじかん自己肯定論をZz世代が支持している理由もそこからだと断定。そのような時代を肯定的に見ながらも、学者は今後の展開に憂いている様子だった。

 

 またZz世代を調査してゆくと彼らは最新の他全てを時代遅れと嘲笑い、若者以外と認めてくれない層を総じて老害認定していた。千代田区では三歳の厚化粧をした女の子が最新式情報収集デジタル眼鏡をかけているのを筆者は見た。彼らは、最先端に命をかけて自分たちが追いつけなくなるまで社会の高度化と格差拡大に貢献していた。

 

 大麻解禁支持層が多いのもこの世代で、違法なものは人に迷惑かけなければOKという寛容な精神さえ持っている。「煙草の方が有害。大麻は安全でーす!」と座っている目は不自然な笑みを浮かべてその直後痙攣し出し泡を吹いていた。人に迷惑をかけなければ大丈夫とはいえ自分達に迷惑をかけているのは明白だった。あと日陰にいる芸術家、音楽家、作家は「僕達に迷惑がかかってるからやめてほしい。取締はどうなってるんだ」と苦言している。

 web小説家はそれに対して「無料にする事、これは前々から重要なキーワードになると思っていた」と腕と足を組んでもう遅いアナリスト的豪語。立つ時彼は絡まったタコの様に椅子から落ちていた。

 業界は対策として無料で漫画を読めたり音楽を無料で聞けるように展開してゆくが依然と違法サイトは出ており、ますます作家たちは窮地に追いやられているのは変わりない。そんな中、純文学だけは今も昔も売れていないからか売上は数十年前と比べても差はなかった。

 他、SF文学は何処へ? SFアンダーグラウンドの期待と熱意…汗だらけの宇宙バンダナ 他、最高傑作と謳われている18世紀文学の〇〇が売り上げランキング一位…荒唐無稽に感動を?』

 

 秋人は起き上がり、近くに立っている死神の手のひらにある砂時計を叩き落とした。



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