素晴らしい世界を健気に生きる三人の物語
「コヨミ。やっぱり正気じゃ生きられねえんだろ、社会ってのは、大人っていうのは。子供でさえ狂気に近いし、ホント素晴らしいよ、世界ってのは…」
秋人は神社でお願いしてきた男を連れてコヨミのいる死の世界に立っていた。おっさんがさっきから懐かしんでいる家の前に、コヨミと秋人はその後ろ姿を見ていた。
「この中にいるんですか?」とおっさんが振り返る。
「うん」とコヨミ。
「気長に話してこいよ」
「で、でもなんだか…ついて来てくださらないですか?」
「そこで臆病か。…じゃあ、行こう」
と、秋人は行った。
中に上がると、テレビの音がした。
「明子!」とおっさんは言う。
「あれ、よっちゃん?」と奥から声。
暖簾が軽く手で退けられ、見知らぬ老婆が顔を出すと、にっこり笑った。
「明子、元気か? 会いに来たよ」とおっさんは急いで廊下に上がって居間に向かった。
「コヨミ、あの明子って女はこの世界が死の世界だってわかってんのか?」
「なんとなくわかると思う。でも周りにも人がいるから、のんびり暮らしていると思うよ」
「もう一度会いたかった。ずっと一人でな」と男は言っていた。
「なによっちゃん、いつも無口で愛想が悪いのに!」と笑い声が聞こえてくる。
「だって、もうこんな会える機会って、二度とこないかもしれないんだぞ? ならまた会ったとき、素直になろうって思ったんだよ」
「まあよっちゃん…」
「それで明子──」
秋人は外に出ていた。空気を吸い込み、吐いた。
「コヨミ」
「…なに?」
「なんで許してくれたんだ?」と横に立つコヨミに聞く。二人は空を見ていた。
「戻したくなったんでしょう? 時を」
「…」
「どの時間でも交信をお願いされて、友達からも距離を置かれまともに生活も送れなくなった今、秋人は有名になる前に戻りたいって今日強くあなたは思った」
「戻せるのか? 時を?」
「戻せたりはしないけど、忘れさせたりする事はできるよ。する?」
「…これが終わったらしよう。またお願いされても困るからね。田辺の事も許してくれるのかい?」
「もうしょうがないから」とコヨミは寂しそうに笑った。
「そうか。でも俺、田辺はそんな好きじゃないんだよ」
「そう? まあどっちにしても私は見守る事しかできないけどね」
「…とにかく! 俺はスターには向かないってわかったよ。みんな、俺を本当に霊能力者だと思ってらしい。全員馬鹿だ。その上今日、ほんとにその能力が使えるようになった、君のおかげで。そしてわかった。全てを戻したいって…」
コヨミが彼を抱きしめる。
「あ、秋人さん」と男が出てきた。
タイミング悪いな。と秋人。
「ありがとうございました」と頭を下げる。
「もういいの?」
「はい。長くいると、わたしもここにいたくなってしまいます」
「…」
「秋人さんの言う通り、次の相手を見つけようと思います。明子にも、そう言われました」
「…でも愛してるんだろ?」
「え? は、はい」
「次の相手を見つけるかしないかは、お前が決めるんだ。俺は、なにも言わなかったことにしてくれ」
「は、はい…」
「戻ろう」
トイレから出ると、敷かれたシートの上でタロット占いをしている男がいた。
「お帰りなさい」
男は去って行く。
女と息子も去って行った。
二人残された神社の中。
「どこまで戻したい?」とコヨミは聞く。
「変だな。抱きしめられた感覚がない…」
「秋人」
「なに?」
「有名になる前にみんなを戻す?」
「そうだな、とにかく俺が有名になる前と、桐崎の件を人々から忘れさせて、あの生放送もなかったことに。死んだ人は事故とかに変えて、あの男の人も夢で見たって事で」
「…終わり」
「…ん?」
「今言った通りに、みんな」
「…そうか。そうか…。家にあるネックレスとかお金とかはどうなる。そのまま?」
「そのはず。だって耳にピアスしてあるダイヤモンドがさっきからチラついているから」
秋人はドキッとした。
「すぐ外すよ」と耳に手をつけた。
「良いよ、そのまま。似合ってる」
「…そう? じゃあこのままでいいか」
と、笑った時、自転車に乗った警察官が現れた。
「あ、君。ちょっといい?」と自転車に乗りながら入ってくる。
「なんですか」
「この辺りで盗難事件が多発していてね。ちょっと調べさせてもらえるかい?」
「…はい」
「ん、このピアスは確かリストに入っていた盗難された物だけど、これは?」
「買ったんです」
「どうやって? 君高校生くらいだと思うけどこんな高価ものを買えるほど持ってなさそうだけど」
「…死者と交信して」
「嘘は良くない。ちょっと署まで着いてきてくれるかな?」
「それって、僕を盗難した犯人だと思ったからですか?」
「いやそれは考えすぎたよ。でもね、盗難されたものがここで見つけたからさ」
「ブルーシート街の市場で買ったんです」
「ブルーシート街の市場で? それを署で聞こうか」
と、腕を掴んでくる。
「…暗いぞ」
警察官は倒れた。
秋人はピアスをとり、賽銭箱に投げた。が、ピアスは外れ、降りてきたカラスに持って行かれた。
「待て! 待てカラス! わしのダイヤァ!」と住職が箒にまたがって飛んでカラスを追っていった。
「なんで上手くいかないんだろうな」
ボソッと言ってももうコヨミはいなかった。「また質素な生活か…早いとこ家にある純金を売らねえとか…いや、足がつくから山にでも捨てるか」
と、秋人が空を見ていると、遠くから聞き覚えのある声がした。
「秋人!秋人ー!」と桐崎。
「あ!神社にいた!」
「…スマホも治してないから探すのも不便だな…いつものことか」
「それより秋人、金を稼ごうぜ!」
「めっちゃいい事思いついたんだよ!」
二人は興奮していた。
「俺たちは億万長者になるぞ!」
募金で集めた金はすべて詐欺師に取られ、借金を抱えた桐崎と、補聴器のせいで金がなく両親が蒸発した遊山、秋人はなぜか持っているものを全て盗難品扱いされて、金も銀行強盗の件で疑われるようになり、また三人は一文なしから出発するのだった。
これでこの編は終わりです。漸く次の編に行ける!次の編はPTSDにまつわる話です。宮良歩がある事をきっかけにPTSDを発症?!してしまう話。ただし診断医は桐崎隼人という…。またヒスマダムや古賀透の家族が登場したりと、仲の悪い秋人と勇気がなぜか旅をしたり、戦いに風刺に驚きな展開が!!…




