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僕たちの戦争  作者: イケサキ
有名と成り上がる二人編
17/18

狂気の生存宣言

秋人は二ヶ月で退院した。その頃には夏にはいりみかけで、彼のいる神社からはもう蝉の鳴く声がしていた。もう煌びやかな装飾やブランドを身につけてはなかった。

「コヨミ、今の俺をどう思う?」

 と、秋人は二の腕に力瘤を作った。

「後遺症で筋肉ができちゃったらしい」

「ゆっくりと元に戻ってきていると思う」とコヨミが木の影から歩いてきた。

「なんで着飾るのやめたかわかるか?」

「疲れたんでしょう?」

「金属アレルギーを発症して駄目になった。でもコヨミが言うように、災難にあって疲れたかもしれない

「なかったらつけてた?」

「多分ね」

「がっかり」と言って消えた。

「おい! …もう」

 歩き出して帰るとき、偶然出会った見知らぬ人から「明子と話をしたい!」と言う高齢の男が執拗に話しかけてきた。「頼むこれで!」と厚みのある封筒を手に乗せてきた。

 見てみると中に二十万円。

「賽銭箱に投げれば」と返す。

「神社はインチキだ!今は秋人さまだけが頼りなんじゃ!」

「罰当たりな人だ」歩きながら言う。

「うちの神社は五十万からだ!」と住職が大声で言ってきた。「電子決済以外は受け付けとらん! 金ない奴はででけェ!」と住職は秋人が入れた五円玉を投げた。それは秋人の後頭部に当たった。

「頼む、だったら貯金の一千万円をやる!」

 そう言われに秋人は止まった。

「…わかったよ。でもその金は自分に使いな。今の時代いくらでも出会い系で探す事はできるんだから。約束しろよ」

 どうせサクラに掛かるオチだろうが。と秋人は思った。

「ああわかった!」

 儀式をしている最中、女が現れた。子供の手首を力強く握りしめて。

「こんにちは、インチキさん」

 目隠しをしていた秋人は聞こえる方に向いた。取ると、男が彼を見下ろしている。

「なんだ?」

「私をご存知でしょうか」

「今何してるか、わかるか?」

「私は占い師です。とても有名で予約が何ヶ月も先の。最近、あなたと同じように死者と交信ができるようになりましたので、今回勝負の方をお願いしたいのですが」

「…今儀式をしている最中なんだが──」

 突然、男は文字盤を地面に投げると目隠しをしてその場に座り込んだ。

「準備オッケー!」と男は甲高く叫ぶ。

 後ろからスーツを着た連中がカメラとかを持ってやってきた。

「逃げられませんよ。もうここは、戦い。戦場となっているので」

「私、この者です」と男は秋人に名刺を渡してくる。

「何の用?」と秋人は名刺を見ながら。

 出版社?…と秋人は男を見る。

「是非秋人さまの能力をこの目で見たくて。忙しい中空いてる日を見つけてようやく」と汗をハンカチで拭っている。

「馬鹿らしいな…ホントにやんの?」

「今すぐやりましょう」

「金もらって人助けをしているあんたが、人助けをしている俺の邪魔をするなんて、インチキ以前に酷いことをしてる自覚があんなら、こんな事にはなってねえよなあ…」

「逃げるんですか、秋人さん?」

 こいつらも協力とかを考えないんだな。つねに競い合っている。今まで似たような同業者を倒してきた狂の眼光は一味違う…

「…狂ってるぜ。待ってなおっさん。すぐに終わらせてくる」

 気づくと周りに記者やカメラマンがいて、二人を囲み撮っていた。

 秋人はいつものようにあぐらをかき、目隠しをして文字盤の中央に腕を漂わせる。

 男は秋人とそっくりそのまま腕を漂わせてもう喋っていた。

「私は秋人さんの嘘をみやぶろうと思います」

「おおすごい…」と出版社の男は感嘆。

「滑らかだな」

「秋人さんよりも優れているだけです」

 競い合う方法は、両者が身分も知らない人間の素性や名前を死者交信をしてあてるというもの。ただしなにが出てくるかはその問題を出してくる人次第で五問勝負、当たった点数で勝敗を決める。

「じゃ、始めます」と女の声。

「はい」と秋人。

「がんばりましょう。おたがいに」

「わたしのお婆ちゃんの名前は──」

「たえこさん」と男。

「まだ交信していないんですけど」

「そうですか? 私にはもう交信しろと言われたようなものなんですけど」

「田山町子っていうお婆ちゃんと交信をしたいです」と女は話を進めた。

「わかりました」と秋人の腕は揺れる。

 男の腕も揺れた。

 やがて秋人の腕が止まると同時に、男の腕も止まる。

 静寂が周囲を覆う。

「一問目。出身地」

「東京」と男は素早く答えた。

 秋人は腕を動かしながら喋る。

「さ、い、た、ま」

「全然指先と文字が合ってない」と小声で記者が呟く。

「答え、青森県のつがる市です」

「初めはハズレか」と腕を組んでいる記者。

「二問目、祖父の名前」

「つ、ね、よ、し」と秋人は早く答える。

「かつじ」

「…答えは太郎です」

 その後の一問も外れ、四問目の時では男が言い当てた。

「わたしが今日食べたご飯は、なんでしょう。とある占い師の人が守護霊がお婆ちゃんだって言ってたので、聞けば教えてくれると思います」

「…白米」と女。

「…パ、ン」

「答えは白米でした。そちらに一点」

「おお、凄いな」

「ほんと、素晴らしいです」

「占い師がインチキだという可能性は?」と秋人はそっと言う。

「たしかに」と男。

「でも、戦いは戦いだから。合っていた占い師がまずは一点」と出版社の男。

 この勝負を記事にして増版を狙うと言ったところ、か。有名な人間を倒せば名が売れるもんな。と秋人は思った。…コヨミ。

 最後の問題。

 秋人は歯軋りをした。ずっとコヨミに手伝ってくれと頼んでいても、コヨミは見向きもしなかったからだ。所詮は偽物。どちらもインチキ。だがここまできてこんな狂人のインチキに負けたくない、という思いがあった。

「五問目、二問目にした祖父は、母方か父方、どちらでしょうか。加えて、母方と父方の祖母の名前をお願いします」

「…父は、田山まちこ、杉浦たろう 母は、内田ひろし、田中みえこ」と女は素早く言った。

 適当だろうが、もう一点を取っている。その分余裕さがあり、もはやこの女は俺と勝負をしているのではなく、スピードで記者に印象付けをしようとしているんだ。と秋人。

 何処にいるんだ。名前さえあれば勝てる方法、大義ではどちらが勝つべきなんだ? 俺は今までうんざりするような事と格闘してきただろう、もう今は金も得られなければ土壇場だ。この状況さえ打開できれば、あとは何も要らない。…時を戻したい?

 すると脳裏に言葉が浮かんできた。

 

 父方 田山まちこ、杉浦たろう

 母方 角川さとし、杉山むねこ

 この女の人の名前は角川ゆい子

 

 片方当てていやがるじゃねえか…だが。

「父方は田山まちこ、杉浦たろう。母方は築地むねこ、角川さとし」

「じゃあ本当の最終問題。わたしの苗字はどこから取られている?」

「母方の角川さとし、だ」と秋人は言う。

「早い」

「田中…」

 

「答えを発表します。私の父方の名前は田山たえこ、杉浦かつみです。母方は杉山むねこ、角川さとしです。最終問題の答えは、角川から採られています。よって、2ポイント獲得した秋人さまの勝ちとなります」

「んん…最後の方」と出版社の男。「秋人さんは、とても早く答えた。もはやボードに指が追いついていないように」

「それはあっちも同じでしょう」と記者。

「早くて申し訳ございません」と占い師。

 目隠しをとる秋人。不機嫌そうな出版社の男は、記者に何かを言っている。

「そちらの会社に、君、昇進をしたいならわかってるよね? もしこの記事を不当にこちらを扱ったら、承知しないよ」

「別に昇進なんて望んでません」と記者。「責任はとりたくありませんので」

「言っとくがな、私は社長でお前の会社の上層部には身内がいんだぞ!」

「え、そうですか! わかりました!」と深々とおじぎを何度もした。「申し訳ありません! 私はあなたの靴を今から舐めます」

「君も」と青森県出身の女記者に言う。

「いや、わたしは嘘をつきたくありません」

「じゃあ君の態度は上に伝えておくからな! 覚悟しろ!」

「好きにしてください」と女は素っ気ない、「記事はしっかり書かせてもらいます」

「…よし、従ってくれた君に金を出そう。ほら、君たちにも」とカメラマンに。「とにかく汚名だけはつけないでくれ。もし名前に傷がついたら出している絵本の売上に響いてしまう。そうなったら経済は、ただでさえ回らないんだぞ?!」

「なんだ、あんた…その男をインチキだと認めているのか? わかっているのに嘘をついて金を稼ぐんだな」

「秋人さんにもお金を出す。お願いだから」と財布から今ある札束を彼に渡した。

 しかし秋人は札束を捨てて踏んづける。

「俺が知りてえのはインチキかインチキじゃねえかだ」

「…本当です」と男。

「…」秋人は黙る。

「ですが勝負は──」

「勝負なんかじゃない!」と怒声。「これは勝負なんかじゃない! 台本、台本だ!」

「こいつも頭おかしくなってねえかあ?」

 男は木に頭をなんどもぶつけた。そして血を流しながら秋人に近づくと、「痛い!私を殴らないでくれ! 誰か、助けてくれ! 秋人さまに殴られた!」それを何度も言い、近隣の住民が顔を出して秋人を見た。

 まもなく自転車に乗った警察官がきた。

「君は上流階級の人を殴ったのか!?ここで死ねぇ! 死刑!」

 と、銃を引き抜いて秋人の顔に構えた。

「真っ暗さ」

「あ、たしかに」と構えていた拳銃を顎につけて撃った。

 出版社の男は拳銃を奪うと女記者の頭につけて撃って殺した。

 

「あぁ、死んでしまいました」

 

「あんたは死なないんだ?」

 

 出版社の男と、複数の記者やカメラマンは去って行った。

 

「私は死にません。許されるなら永遠に生きます。それが私自身を占った末の、幸福の道標なのです」

「じゃあ俺も永遠に、縋るしかない不安症のお前と違って本心を剥き出しにて生きる」

 男は幸薄そうな微笑を称えて秋人を見た。

 秋人は真顔で男を見ていた。

 

 彼は落下している感覚を思い出していた。落下している時に味わった死への不安、恐怖、そして不可解な心地良さを超越する、退廃と不死のペシミズムを垣間見た。それは遥か寛大にあり、漠然とした意識に潜む処刑台の上の踊りだった。


筋肉ができたといいますがほんの少しです。

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