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僕たちの戦争  作者: イケサキ
有名と成り上がる二人編
15/18

御団体様の会

「うえ…頭に血が」

 桐崎は足首に絡まった縄で逆さまになっていた。一匹の蟻が真下を歩いていた。

 CMが流してから彼は降ろされた。仕掛けに不備があって失敗したのだ。

「大丈夫ですか?」とスタッフ。

「多分」

「金具が外れちゃったんだ」とまこと。

「金具が? ああ。そういうところか」

「救急車を呼びましょうか?」

「いや。続行だ。物語を流す。俺は表から消えて休むとするよ。それまで! 司会する役目を果たさせてくれ」

「すごい、普通なら休むのに。チャリティーだと交代するのが普通なんです」

「誰が稼ぎに稼いでる野郎に渡すかってんだ!」

「…」

 

 CMが明けるまで彼は落ちてから動いていない脳性麻痺の肩を揺らしていた。

「死んでるのか?」

「誰か、車椅子持ってきてー!」

「3、2、1」と明ける数え。

「次は、物語を見てもらいましょう…それは、聾たちが生きる社会、まったく聞こえない中でどのように生きたか、そして社会はどう障害者に足並みを揃え、生きやすくなっていったかを」

「車椅子を持ってきました」

「おおどうも」と桐崎は車椅子に座って足を組んだ。

「優しさと困難の物語を通して見てもらいます。彼女がまったく耳が聞こえなくなったのは、十二歳の時でした。最初こそ困難を強いられたものの、兄弟──」

 桐崎は手話を使って兄弟を示した時だった。彼は中指を立てて観客席に振りまいた。

「ダメな隼人」とつとむは怒った顔をした。

 そんな桐崎についに我慢の限界がきていた男が席の上に立ち上がった。

「もう放送をやめろ! 障害者を差別してなにが面白いんだ!」

「なんだお前」

 桐崎は中指を立てたまま男に言った。

「お前がやってる事は差別だ。俺は障害者支援団体の人間だからこそわかるが、個性を障害だと言いふらして! もう我慢ならんぞ!」

「なんだよてめェ俺の邪魔をする気か? これでも好評な生放送だぞ! スタッフ!」

 と、彼はスタッフを見た。スタッフは首を横に振っていた。予想が外れ、それは苦情が絶え間なくきている状況を教えていた。

「まじかよ──」

「お前がやってるのは見せ物。過去に例もある見世物小屋だ!」

「見せ物なんて昔に終わったよ。今していることは認知の働きかけだ」

「いいや、お前がやってる事は差別を助長してしまう行動だ」

「あ?」

「差別を助長するから、やめろと言ってるんだ!」

「ヒスめ。最初から起きない差別がないなら個性を謳えるんだろうがそんなの幻想だ。相手にまともな教養と頭がねえと危険だ」

「差別をやめろ! 個性を殺すな!」と気づくと周りにいる観客たちが声を上げていた。

「歴史の始まりはいつだって個性ではなく迫害だったんだ! 治るものだろうと最初は狂気として扱われてきた! 短絡め! 急に声を上げて流れを止めんな!…」

「これを上手く利用すれば、より金が稼げるかもナ」と古賀が呟いた。

 優希はじっと目線を固定している古賀を横目で見た。

「そういえば歩と晶はまだ来ないのカ」

 男は黙っていた。

「個性なんて──」

「気づいたカ」

「斜視のてめえらがご都合に使う用語でしかねえ。お前ら偽善詐欺師が生きるのを拒絶する思いになるほど理不尽な障害を理由に迫害された人間の底のない苦悩も知らずに、後から善人ぶろうと我先にほざきやがって! そんなのができるのは生まれ育った家庭が幸せだったからだ!」

「そんなつもりで言ったわけじゃ──」

「誰も見ない隅っこでそれでも生きようとした意志でさえお前らは踏みにじるのか! 金や精神の疲弊にも苦労したことがないお前のような人間が声を上げようが現実はますます悪化するばかりさ!

「話をしっかり聞け!」

「話を聞くのはお前だ、この偽善者め!」

「俺は──」

「くだらない戯言、著しく意味のない、自己満の言葉して好感度アップが狙いか! くそったれな社会が育てた聖人君子、ほんとは金なんだ金持ち君子、おおかたてめえはまともに現実も見ずなんでもかんでも個性だと言いふらして障害を持つ親を安堵させてから金を稼ぐ魂胆なんだろ!」

「それは違う!」

「嘘つけ。手話で中指を立てることの意味もしらねえじゃあ、自己顕示欲や承認欲求と金だけしか目にないんだ!」

 桐崎は中指を立て続けていた。

「それは、お前だろ!」

「…たしかに俺は金持ちになれたらそれでいい。それと同時にすべての事を運ばせる。最初に言ったことを。でもそれには金が大量にいる。私産の他に頭がないお前にはわからねえがな」

「いや、俺は違う。俺だって支援団体にいるような元々裕福な家庭じゃなかった。ただ、人を尊重することを教えられてきたからこの道を選んだ。…たしかに、俺は学も無ければ常識もないかもしれない。でもこれだけは言わせてほしい。俺は偽善で障碍者を支援してるんじゃないと。自立をしたい障碍者の後押しをしてるんだ。俺の団体は…」

「桐崎隼人!」

 と、その声はスタジオの扉から響いた。

 一人の男がスマホを見せていた。

「お前、オレがく…」

 男は桐崎が首にしたスタッフだった。

「お前は金目当ての詐欺師だ! あの汚いコマーシャルを作って多くの人を不快にさせたのはこいつで、苦情を言いにきた人様に舌を出して中指を立てた男だ! それに俺たちスタッフをちょっとした理由でクビにした! 俺たちは洗いざらい全てをわかってるんだ、今ここで告発させてもらう! この差別主義者!」と男はスマホに流れている映像を流す。

 

「金持ち最高!」

「助け…誰か!」

 

「助けを求める人がいても助けなかった、これはお前が金しか見ていない証拠だ!」

「それにこいつは、後から一方的に暴力を振るわれていた青年を見て笑って自己責任だと言っていた!」と何処かで見覚えのある男が立ち上がって桐崎に指を差して言った。

「お前はあん時のサラリーマン!…」

「…致命的だナ」と古賀がボソ。スマホに流れているSNSの画面は、桐崎の非難でいっぱいになっていた。

 観客席にいる男や女が席から立ち上がる。

「クビにされた連中カ」と古賀がボソ。

「観客席にいる奴ら、一人除いて団体と首にされた奴らカ…」

 

「チッ、好き勝手に動いた代償だな。とことん悪手だぜ、俺も…お前らも。でももうここまで来れば何も怖くない。後のお祭りでも俺は心の両腕を広げて受け入れてやるよォ!」

 桐崎は腕を上げた。

「歌いまくれ! 自由だてめえら! ギャー!」

 いっせいに段から声が鳴り響いた。

 全員が絶叫しながら歌い始めた。何の歌かはわからなかった。観客が耳を塞ぐほどの大音量がスタジオに満ちた。

 アイドルの写っていたスクリーンは絶叫によって大きく変化した。

「最高の時間だったぜ」と彼は後から来てまったく状況が掴めていない遊山に言った。

「ぼ、募金は?」

「二億突破!」と天井から下げられたモニターを見て言った。

「ヨッシヤァ!」───


まとめっぽくなると終わりが近づいてきたなあと思います。

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