千つ星シェフと動物使い
興味が無かった二人は外に出て、少し離れた休憩室の近くにある自販機で何買おうか選んでいた。
「ココアでいいか」
晶はつま先たちをして三本買った。戻る途中、二人は秋人が何をしているのか気になった。
桐崎が生放送をしているスタジオの隣にあるスタジオで秋人も同じ時間に生放送をしていたからである。それは秋人に挑戦する霊媒師や霊能力者と対決するもので、田辺が見に来ていた。
床で寝ている酒くさい警備員を過ぎて中に入ると、もわっと染みる野生の匂いがした。二人は鼻を手で摘んで遠くを見た。大きな生物が動いて見えた。
それは象だった。
肩に糞が落ちてくる。白く、上を見ると鳥が飛んでいた。
「うわあ、最悪だ」と晶は服を脱いで捨てた。上半身裸になってもあまり寒く感じないのは野生の熱がスタジオ中に漂っていたからだろう。
「ミサキちゃんの所に行こう」
歩は晶に言った。
晶は頷いて観客席まで歩いた。道中には動物が喚き散らしている檻や、何匹も飛んで暴れているようにさえ見えるインコとオウム、また雑種の鳥たちがいた。
「オマエタチ、オマエタチ」
二人は足を止めて、呼びかけてくるインコを見た。
「オマエタチ、デテイケ」
「なんだ、この鳥?」
晶はインコに向けて唾を吐いた。
インコは飛んで避けてまた位置に着くと喋り出した。
「オマエタチ、デテイケ」
「変なの…」
「あ! 見て歩。女がいるよ!」
晶はパッと明るい顔をすると歩の手を掴んで走った。檻の奥はさらに匂いが酷かったが、その中に痩せ細った女がいた。
「なんだ、誰?」と歩。
「…アンタたち…ワタシを知ってる?」
「知らない」
「…そう。ここから出してくれない?」
「やだよ。おばさん誰?」
「ワタシ…ワタシ…ナマエを奪われたの」
「えぇ…そうなんだ」
「気持ち悪…」
二人は困惑した。
後ろの方でインコが烈しく鳴き始めた。
「デテイケ! デテイケ! テデイケ! ディケンズ! デテイケ!」
二人はその声で後ろを振り向いた。
ミサキが立っていた。
「歩君、晶君」
「ミ、ミサキちゃん」歩は笑顔になった。
「…」
「どうした? 秋君を見に来た?」
「うん。でもこの女の人がね」
ミサキは二人を横切り、女のいる檻の前に立った。
「大丈夫?」と歩は恐る恐る聞いた。
ミサキが見ている檻の中、女は奥に潜むように丸くなっていた。震えている。
「ミサキちゃん?」
「この人はね、秋君を邪魔しようとしてきたフェミニズムなんだ。知ってる?」
「知らないよ」
「フェミニズム。悪性だと最悪人を殺そうとする。毒薬、刺殺、事故に見せかけて殺したり、自殺に見せかけて殺したりするね、まだいっぱいあるけどこの人はね、秋君を事故に見せかけて殺そうとしたんだ」
秋人のいる方から動物の絶叫が聞こえた。
「興奮剤…この人は動物使いが連れてきた動物たちの餌に紛れ込ませた」
「え、じゃああのインコも」
「うん。興奮してるんだ。それに私は気づいてすぐ秋君に報告した。そしたら彼は犬が食べていたほうれん草を頬張った」………
ミサキは二人を連れて秋人が今どうしているのかを見せた。階段を上がり出て見ると、観客席から下の方でさながら闘技場のような円形が広がっていた。
一匹の大きな象が秋人に突進していた。秋人は間一髪避けるの連続で、まだ興奮剤が効いていないようだった。
「秋! 大丈夫かな、ミサキちゃん!」
と、手すりに体をつけて観戦に夢中になりながら歩は聞いた。
「わからないけど、秋君ならきっと大丈夫」
「ギャー!」
秋人が不意に襲ってきた猪に転ばされ、頭の先に鰐の口が広がって危うく噛まれそうになる。
「ざけやがってぇ!」と秋人は避けて立ち上がると口を閉じた鰐の眼を蹴り潰して走り出した。その途端に鷹がきたが首を掴んでへし折っていた。
「ドケドケドケェエ!」
秋人は象に跨っている動物使いを目指して走っていた。途中、手を振って声をかけてくる歩と晶を見た。
「歩! 晶!」
「あ、気づいたみたい!」
秋人が二人を見た、その隙をつかれ首に鋭い爪が食い込んだ。
「ゥゲェ」と秋人は動物の腕を掴んで引き剥がそうとするがもう片方の手が首に巻きついた。音速蛇が彼の足首に巻きつき、横に倒れた。
「どう調教したらこんな攻撃的な虫ケラどもを従わせんだ!」
山羊が彼の頭に向かって突進してきた。
「馬鹿メェ!」
秋人は取り巻いていた猿を横にして盾代わりにした。山羊の頭が猿の背中に当たると、衝撃で爪がさらに食い込んだ。痛みが秋人の表情を曇らせるが、歯を食いしばって細い手首を握りしめた。
離さないなら、もう潰すしかない。と秋人は思った。興奮剤のまぶされたほうれん草を食った彼はどこが力が湧き上がって猿の腕を潰した。
「うわあ! …」と歩は驚いた。
血が彼の顔について、それは異様な、民族の模様のように見えた。そこから秋人は勢いと自信がついたのか、脚に絡みついている蛇を剛腕を持って噛みつこうとした口に手を突っ込んで心臓を取り出した。
「ふん!」と潰した。
襲ってきた山羊もツノをへし折り、両目に突き刺して翻すと尻を叩いて蹴り飛ばした。
「わあ!」と歩は眼を閉じた。「グロいのはイヤ!」
「かっこい!!」と晶は手すりよりも体を前に出した。
「インコたち!」と動物使いは叫び声。
するとさっきいた二人の場所から、大量とインコとオウムが飛んで秋人を襲った。
秋人はそんな中でも一匹一匹を暴れ馬に跨って頭ごと噛み砕いていった。
「俺を舐めんじゃねえぞ」
そう言った秋人だったが急に落馬した。
「あ、なんだこれ、体が!」
「馬鹿めぇ、お前が噛み砕いたインコには即効性の毒をつけていたのだよ。しかるにお前は、毒状態と言ったわけだ」
「噛まなきゃよかった…幻覚が見える…」
「次は牛だ。闘牛のだ」
ゲートが開くと、真っ黒く艶めきのある立派な角を持った牛が出てきた。動物使いは真っ赤なペンキを秋人に投げ、それがかかると牛が彼を見つめていた。鼻息を荒くさせ、前脚で砂埃を起こしている。
「待て待て待て…体が…ミサキ!」
ミサキは注射器を秋人に投げた。
「それ、どこから?」と晶は興奮気味に聞いた。
「動物使いがトイレ行ってる間に盗った」
秋人は注射器を噛んで受け取った。牛に麻痺している両脚をツノで上げられると、注射器が口から宙に飛んだ。
「へへ、牛め」彼は腹を下からえぐり上げられた。ちょうど注射器の針が心臓の近くの皮膚に下がると、顎で中にある液体を体内に注入した。
舞い上がった体は見事オオサンショウウオの頭の上に着地すると、再び突進してきた牛を片手で止めた。パイプ煙草を吸う余裕もあった。呑気に鼻歌を歌う秋人を見てイライラした牛は「モーッ!」と顔を赤らませ、やがて身体中が赤くなる。
秋人は軽々牛を飛び越え、大きな鏡を立てた。すると牛は、自分に向けて突進しようと飛んだ。それはバク転する形となり、ドカンと横に倒れた。
観客はゲラゲラ笑い、秋人は鶏を生きたまま噛みついて生肉を食って元気つけていた。
牛は最後、自分を殺そうと頭をもいで死んだ。垂れ下がる血を中身のない皮だけの鶏の頭で掬って飲んでいる秋人を見てついに怒った動物使いは象を突進させた。
避けた秋人は散らばっている死骸から骨を抜き取るとこじんまりとしたレストランを作った。そこに象と動物使いが席につき、シェフとなった秋人は料理を運んだ。
「デミグラス風、ハーモニーです」
「ハーモニー? どれどれ」
動物使いはスープを掬って飲んだ。象も鼻を使って口に含んだ。
「美味い! なんなんだこのハーモニー! 食感と食感が混ざり合って、食感に昇格しているじゃないか!」
「ハーモニーには選び抜かれた超一流の馬の糞、アルプスに住むプロ老人のプロ糞、富士山のプロ専門家たちが最高級の時間をかけ一流に厳選した歴史的最高級のプロ専門家たちが厳選を重ねた上で選んだ希少の二つとない石を細かく砕き、陰謀論者の脳を器にして釜で焼いたあと、鍋でスープになるまで煮込んだものとなっており、こだわりと妥協の含んだ伝統的最高傑作となっております。始めに匂いを嗅ぎ、それから一度席からお立ちになって外の空気を吸い込んだまま、背筋を伸ばして店に入って静かに席に着いたあと、始めに頭蓋骨を舐めて舌を乾燥させてください。そうしないと味本来の旨味が失われてしまい、大変もったいないので。それが終われば、こだわり抜かれたスプーンをディスカバリースローモーションというあえて遅く動作をしていただきながら掬って口に含むまで五秒以内に、舌の上で三十秒間、こちらの店では黄金時間と呼ばれているのを楽しんだあと、両頬に転がして一分、こちらの店では一流の味わいを満足していただけたら、ゆっくりと飲んでくださいませ」
「もう飲んじゃった。…いやはやしかし、通りで君のレストランは三つ星、いや、五つ星なわけだ! 君は世界で最高の料理人だ!」
「…マドモアゼル」と秋人はお辞儀した。
動物使いも席から立ち、彼にお辞儀した。象は鳴いて彼に感謝した。
読み易さに配慮して改行しましたがどうですかね。アクションとコメディを混ぜ合わせました。マドモアゼルは感謝を示す言葉ではないようですが、秋人は勘違いして感謝の言葉だと思ってるようです。あとヒューマンドラマに変更しました。結局、どのタイプにも該当しないを選びそうです。ちなみに僕たちの戦争ではココアが一般的に普及している飲み物です。言い換えればお茶かコーラですね。なので糖尿病が多かったり…。




